第8話 〈番外編〉ホストなのになぜかお客さんに恋をしてしまい困ってます
愛衣さんが、「あれ?!優也とスバルくんじゃん!」と白々しい演技をしながら近づいていくので、僕は必死にそのあとを追った。
「ちょっと優也。そんなに露骨に嫌な顔しなくてもいいでしょお」
「してねーって別に」
優也さんは不貞腐れたような声を出しているものの、僕には視線で挨拶をしてくれた。こちらも目で返す。
「そんな不機嫌オーラを発さなくても大丈夫だって。心配しなくても、私と夕陽、あんたとスバルくんとのデートを邪魔したりしないから」
「はい?」
優也さんと同じように、僕も耳を疑った。さっき、最低、と吐き捨てたのはいったい何だったのか。愛衣さんは腕を組んで仁王立ちしたまま、おごそかに言う。
「優也、最低だよ。なんでスバルくんとのこと言ってくれなかったの?あたしたち幼馴染で、親友だとばっかり思ってたんだけど」
「……なぜ、それを」
目を白黒させている優也さんの言葉を、愛衣さんが跳ね返した。
「なぜって、見ればわかるじゃない!仲がいいのはいいけど、あたしに怒られてる時くらい手を離しなさいよ!」
優也さんは驚いた顔で、スバルさんと繋いだ手を見た。無意識だったのだろうか?慌てて振り払い、スバルさんに抗議している。
「は、いつから?!俺、外で手を繋ぐのは嫌だって言っただろうが」
「知ってるけど、優也が拒否しないから別にいいかなーって思って。無意識だったの?家にいる時のくせ、外で出ちゃったんだね」
優也さんはたじろぎ、スバルさんは平然としている。つまり、家ではいつも二人は手を繋いでいるのだろうか。僕は別にボーイズラブなどというものに興味はないが、想像したらなんだかほっこりした気持ちになった。
「あたし、けっこう前から気づいてたの。報告してくれるの待ってたのに、付き合うことになったんだったら、どうして言ってくれないわけ?」
「気づいてたってなんだよ!」
「あの……僕が店で、優也のこと好き好き言ってたから、愛衣ちゃん、勘づいたってことかな?」
僕が口を挟む余地はないみたいだ。おずおずと切り出したスバルさんの言葉を、愛衣さんが否定する。
「違うよ。優也の態度でとっくに気づいてたの!スバルくんのこと好きなんだなって」
「え、俺?!?!?!」
優也さんが打ちひしがれたようによろめいた。まったく気づいていなかったらしい。スバルさんも驚いているみたいだし、僕もぜんぜん気づかなかった。幼馴染の愛衣さんにしかわからない、微妙な変化があったのだろう。
「バレバレだから。あたしが否定的なこと言うとでも思ったわけ?!そりゃ、あんたにスバルくんはもったいないとは思うけど!内緒にして、除け者にしてさ。おめでとうくらい言わせなさいよ。あー腹立つ!」
「わ、悪かったって……」
優也さんが謝罪の言葉を口にしたことで、愛衣さんの溜飲は下がったらしい。僕もほっとした。最低、という言葉は、男同士であるとか、そういう偏見によって吐き出された言葉ではなかったのだ。やっぱり、友情にあつい、きっぱりした愛衣さんのことが僕は好きだと思った。
そのタイミングを見計らったかのように、スバルさんが僕に話しかけてきた。
「ていうか、夕陽くんと愛衣ちゃんもデートなんだね?奇遇だあ。ラブラブでいいねー」
あえてなのか、煽るようなことを言うのでハラハラしてしまう。
「まあ……でもほら、愛衣さんには付き合ってる人が……」
僕が言いかけると、愛衣さんは不思議そうな顔でこちらを見た。
「あれ?言ってなかったっけ。彼氏とはとっくに別れたよ」
「……えっ?」
「12月の頭くらいかなあ。言ったつもりになってたわ」
えええええええ。
あまりのことに、僕も打ちひしがれて、よろめいた。
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