【創作BL】男なのにNo.1ホストにほだされて付き合うことになりました
猫足
第1話 ホストと付き合っているらしい。
3月もなかばを過ぎて、春の気配がそこかしこに漂っている。長かった冬が終わった。近頃は、ふとした瞬間にそう実感せずにはいられない。
スバルと出会ったのは肌寒い秋のある日だった。秋が終わり、冬を超えて、いま、春になろうとしている。俺はセンチメンタルになるようなキャラではないのに、なんとなく感慨深い。
◆
夕方、まとまった原稿の納品を無事に済ませ、喫煙所で一服してから廊下に出たところ、横からとつぜん声をかけられた。
「先輩!いま大丈夫ですか?俺、まじで耳よりな情報を入手したんですけど!」
誰かと思えば、後輩のさわやかボーイ山口だ。にこにこして突っ立っているこいつは、中途入社の茶髪の新人で、俺が仕事のめんどうを見ている。
「なんだよ急に。耳よりな情報だと?」
「はい。先輩、事務の池田さんって子わかりますよね?」
「池田……ああ、わかるけど」
俺の脳裏に池田という女子社員の顔が浮かんだ。たしか年は俺のひとつかふたつ下で、さらさらのロングヘアと垂れ目がかわいい、なかなか人気のある子だ。
「その子がどうしたって?」
「それが、どうやら優也さんに、気があるみたいなんですよ」
「……はあ?!」
腹の底から声が出てしまい、廊下に反響した。あわててきょろきょろと周囲を伺うが、俺と山口以外は誰もいない。ほっと胸をなで下ろした。それにしてもなんだその情報は。まったくもって、耳よりこの上ないじゃないか。
「先輩、彼女いないんですよね?俺、池田さんに聞かれたんですよ。確認しておきますって言っといたんで、これもう、いないって言っちゃっていいですよね?!」
「い、いや、あのな」
言いかけた時、ポケットで携帯が振動した。やばい、と思い俺は山口に向き直る。
「悪いけど、彼女をつくる気はないんだ。それとなく断っておいてくれ。じゃ、ちょっと電話してくる」
振動し続けているスマホを軽く持ち上げると、待ってくださいよお、と言い募る山口に背を向けて休憩室へ退散した。この時間なら、きっと誰もいないはずだ。
◆
「お前、仕事中に電話よこすなって言っただろ!」
案の定ひとりきりの休憩室で、窓際の椅子にもたれて通話をしている。電話の相手は、俺の苦情にもめげずに反論してきた。
『優也が休憩中って言うからじゃないかあ!でも、なんだかんだ出てくれて嬉しいな~。声が聞きたかったんだ!』
クソホストは悪びれもせず、快活に笑っている。力が抜けて怒る気が失せたので、渋々許すことにした。
アッシュというのだろうか、きらきら光る、派手な髪をした美青年の姿を思い浮かべる。何を隠そう、いま電話をしているこいつが俺の恋人のNo. 1ホスト、碧スバルである。性別・男。性格・メンヘラ、うざい、めんどくさい、かまってちゃん。どうしてノーマルだったはずの俺がこんなうっとおしいやつと付き合うに至ったのか?当事者のはずなのに、逆にこっちが聞きたい。
ただひとつ言えることは、人生なにが起こるかわからない、ということだ。俺だって、こんなことは悪夢だと思いたいのに、今のところまったくそうは思えないところが、やっぱり悪夢だ。
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