第125話:片手間・クラリス視点

「ブロアたん、お腹がすいたのかなぁあ。

 クラリスママにミルクをもらいまちゅか。

 それともパパの抱っこがいいのかなぁあ」


 イメージが一変するほどの溺愛ぶりです。

 日々愛情が駄々洩れしています。

 まるで今まで隠していたモノをさらけ出しているようです。

 普段の威厳のある態度と全く違います。

 アレックスと私の側近達の目が泳いでいます。

 見手はいけないモノを見てしまったと身体中が訴えています。


「きゃっキャッきゃっキャッ」


 でもブロアーにはとても受けています。

 ご機嫌で声を上がて笑っています。

 いえ、アレックスにそのように聞こえているだけです。

 今はまだ声ともいえない音なのですが、アレックスはブロアーが言葉を話したと狂喜乱舞しています。

 私も側近達も苦笑いするしかありません。


 アレックスにとってはブロアーのことが何より一番なのです。

 教団に対する攻撃など片手間、サクラに「頼んだよ」と一言指示するだけです。

 それだけで全てが予定通りに進みました。

 教団は二つどころか四五分裂してしまいました。

 今では少数の教派に分かれて争っています。


 最初に教皇と枢機卿団が教団の金を着服し、教義に反して金貸しをしていた事。

 貸金を返せない人々を奴隷にして売春させていた事。

 複数の愛人を囲い庶子を産ませていた事。

 清教派幹部を暗殺団を使って殺していた事。

 その全てが表に出て告発弾劾されました。


 教皇達が告発した清教派幹部を皆殺しにして、アレックスが周辺国に最後通牒を送るという予定通りに事が進み、周辺国の軍隊が教都に攻め込みました。

 教皇達は聖堂騎士団と教徒に戦えと命じましたが、彼らは戦わずに逃げました。

 今までは教団の威光で逆らえない相手を傷つけ奪うだけで、本当に命をかけた戦いなどしてこなかったのです。


「サクラ、聖女だけは保護してくれ」


 アレックスが気にしたのは聖女の事だけでした。

 いつか聖女の力が必要になるかもしれない。

 アレックスはそう考えているのです。

 だから聖女が戦いに巻き込まれて殺されることがないようにしました。

 兵士や信徒に聖女が穢される事がないようにしたのです。


「こちらに連れてきましょうか」


 サクラが今後の事を考えて聖女を私達で囲い込むことを提案しました。

 確かにそうした方が安心です。

 教団の残党に奪われたり、周辺国に奪われても困ります。

 ただ聖女とまで言われる存在がアレックスの側にいるのは嫌です。

 正直不安な気持ちになります。


 ですがアレックスも一国の王です。

 愛人の1人や2人はいても当然です。

 王太女で王妃でもある私は笑って許すべきなのです。

 例えそれが聖女であろうともです。

 ですがアレックスは歯牙にもかけませんでした。


「いや、聖女はサクラが教都で確保しておいてくれ。

 俺はクラリスとブロアーを幸せにするだけで手一杯だ。

 聖女の世話なんて雑用は他の人間に任せる。

 いや、そいつが変な野望を持ってはいけないから、サクラが聖女関係の事は全部やってくれ。

 教団の残党や周辺国がツベコベ言うようなら、サクラの腹の中で反省させてくれ」

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