第106話:仁君・クラリス王妃視点

 私は王妃兼王太女になりました。

 両親や祖国の民は王太女の方を先にしたいでしょう。

 でもよき妻になりたい私は王妃の方を先に名乗ります。

 リークン王国の王妃クラリスが私の最初の名乗りになります。

 王太女よりも王妃の方が地位が上なので当然の事です。


 私の愛するアレックス陛下は名君仁君です。

 王家の直轄領はもちろん、追放した貴族領にも優秀な代官を送られました。

 本当にとても優秀な代官で、文武両道の上に治癒魔術まで使いこなします。

 もうお分かりでしょう、サクラの分身であるビックスライムが派遣されたのです。


 代官にはレベル1のビックスライムが、スライム20頭分余裕を持たせて派遣されています。

 そのうちの10頭は分裂して1000頭のベビースライムになっています。

 成体になるまでは安全なビックスライムの中にいて、土や砂を食べる予定です。

 任地外で何かあった時には、10頭分の余裕があるスライムが分離派遣されます。


 既に王都ではアレックス陛下の評判は絶大となっています。

 アレックス陛下はサクラからビックスライムを分離させて王都を巡回させました。

 お金がなくて治癒魔術が受けられない民に無償で治癒魔術を与えられたのです。 

 お金がなくて薬が買えない民には無償で治療薬を与えられました。


 ですが王都の治癒術師や薬師が困らないように、お金がある者には無償で治癒や薬を与えられません。

 でも王都の治癒術師や薬師では治せない病に苦しむ難病患者は、身分に関係なく治癒魔術が受けられるのです。

 これでアレックス陛下の評判がよくならない訳がないのです。


 ただこの国には、薬どころかその日の食事にも事欠く貧民が数多くいました。

 アレックス陛下はそんな貧民に、大ダンジョンから送られてくるサクラ達の食糧のうち、大型動物が無償で分け与えられています。

 本当の貧民は、料理に使う薪すら手に入れられないようなのですが、貧民の世話をするビックスライムは火魔術が使えるので薪も不要なのです。


 アレックス陛下はそんな貧民のために仕事を与える心算です。

 そうです、街道の砦町を維持管理するための仕事です。

 もうこの国なら今使われている主要街道を改造するだけで済みます。

 ホーブル王国の時のように、人跡未踏の地や僻地を繋ぎ合わせた街道にする必要はありません。


 ですがアレックス陛下は、街道造りのために民の家が立ち退かされたり、田畑が潰されることを嫌われました。

 ホーブル王国の時のように、民に迷惑がかからない人跡未踏の地や僻地を繋ぎ合わせた街道を、派遣したレベル2キングスライムに造らせています。


 そんな善政で得ることができる名声を、私がもらうわけにはいきません。

 だから身の安全を理由に女王戴冠を断ったのです。

 それに王配が行った善政の成果と名声を女王が受けるよりも、国王が行った善政の成果と名声を直接国王が受ける方、民の評判がいいと思ったのです。

 何よりアレックス陛下が褒め称えられるのを聞く事がとても嬉しいのです。

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