第105話:戴冠式

 サクラとクラリスの願いを受けて王に成った。

 別になりたくてなったわけではない。

 民の生活と命を背負うなんて、肩の荷が重過ぎて嫌だった。

 だがその責任をクラリスに背負わそうとしていたのは、誰でもない俺だ。

 クラリスから自分と子供の為に代わりに背負ってくれと言われたら、断ることなどできなかった。


 本来ならこの国の王侯貴族全員が集まって戴冠式を行う。

 だがこの国の王侯貴族は臆病過ぎて家臣にする気になれない。

 ノブレス・オブリージュの精神がない者は全員追放した。

 だから今集まっているのはダンダス国王の王都住民達だ。

 俺個人的には王都にこだわる気などないのだが、王族や貴族が隠れ潜まないように一度は王都に来なければいけなかった。


 いや、一番気を付けなければいけなかったのは王党派の結成だ。

 王侯貴族は根性なしだが、庶民の中には勇気ある者がいるかもしれない。

 そんな勇気ある者の中には、王家に忠誠を持つ者がいるかも知れない。

 そんな王党派が忠誠を尽して戦おうとしたら、無用な死傷者を出してしまう。

 キッチリと力の差を見せつけておくことが慈悲だと思ったのだ。


 この国の王都を護る城壁など、サクラならそのまま簡単に乗り越えられる。

 ファイターキングオークやファイターキングゴブリン、いや、ロード級やヒュージ級でもサクラに手助けしてもらえば城壁の上に姿を見せられる。

 王都城壁のどこを見回してもオークやゴブリンが見下ろしているのだ。

 その恐怖は想像を絶するモノがある。


 そんな恐怖と混乱の坩堝となった王都の王城で戴冠式を行った。

 王侯貴族が誰一人いなくなったこの国で、俺のいない間統治を任す相手を選ぶために、各種ギルドに招集をかけたのだ。

 なかなかサクラ達の恐怖に打ち勝って王城に参集できる者はいなかった。

 だが、不遇な暮らしをしていたスライム従魔士の中には、これを好機と一念発起する者がいた。


 それはスライム従魔士だけではなくゴブリン従魔士もオーク従魔士も同じだった。

 それとサクラならどのような魔獣も捕獲できると思ったのだろう。

 他にも従魔のスキルを持つ者が、勇気を振り絞って集まった。

 今までそんな気はなかったが確かに可能だろう。

 他にも立身出世の機会だと野心を燃やす者も集まった。


「治安が安定するまでは王都に残ることにするよ。

 街道の建設は派遣したレベル2のキングスライムにやらせるから、クラリスは安心して身体を休めていてくれ」


「はい、アレックス国王陛下」


 望まぬ王位だけど、クラリスと子供のためなら表に立って見せよう。

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