第91話:オーク族

 4人のクラン入り希望者を一旦家に帰らせて、彼らの自由意思を尊重することにしたのは、彼らの事を大切に考えたからではない。

 俺は別にどうしてもクランメンバーを増やしたいわけではない。

 もうすでに、近隣の国からスーニー王国にまで来てくれた者達は、スライム・ゴブリン従魔クランのメンバーになっている。


 自国に残ってクランメンバーになりたいというのは、ある意味決断力が弱いのだ。

 まあ、俺とサクラの噂が国境近くにまでしか広まっていない可能性もあるから、門前払いにする事はないけどね。

 それに噂を信じて全てを捨ててスーニー王国に来た人間は、度胸はあるが無謀でもあるので、どちらがいいとも言い切れないしね。


 特に急ぐこともなく、クラリスと高い位置で景色を楽しみながらお茶を飲んでいると、不意にサクラが話しかけてきたので、これにはクラリスも見届け人も驚いてた。

 サクラはとても気が利くので、いい雰囲気になった時には絶対に話しかけない。

 そんなサクラがこの状態で話しかけるなんて、緊急事態に決まっているからだ。


「アレックス様、未開の森からオーク族が襲ってくるようです。

 いかがいたせば宜しいでしょうか」


 サクラが俺に無断で戦いを始めないのは分かっていた事だ。

 だがこのような聞き方をしてくるという事は、オーク族を利用する方法があるのだと、俺に匂わせてくれている。

 クラリスや見届け人にいい所を見せる機会を与えてくれる心算なのだ。

 まあ、匂わせてくれなくても分かっている事だけどね。 

 早い話がゴブリンと同じ事をすればいいのだ。


「ゴブリンの時と同じ事をやろうと思うから、無暗に殺さないようにしてくれ。

 できるだけ多くのオークを捕虜にして、オーク従魔士に貸し与える。

 スライムとオークを戦わせて、戦闘経験値を稼ぐ事もできる。

 大ダンジョンから運ぶ食糧を今まで以上に増やしてくれ。

 その代わりに与える魔宝石の数を増やすから、ダンジョンコアには安心するようにと、ロードスライムに伝えさせてくれ」


「承りました、アレックス様」


 だが他にも放置する事のできない大きな問題がある。

 この街道は国内に悪影響を与えないように、人のいない高山や荒地、未開地や湿原を中心に造るようになってる。

 だが利用者を危険に晒さないように、魔境やダンジョンからは離してあった。

 なのに大量のオーク族が襲ってくるという事は、この未開地近くに未発見の魔境かダンジョンがあるという事だ。

 未発見なら俺が自由に利用しても誰にもバレないという事になる。


「サクラ、この近くに未発見の魔境かダンジョンがあるはずだ。

 ロードスライムを分離して探索させる事は可能か」


 俺の言葉を聞いて、クラリスと見届け人は最初とても驚き、徐々に尊敬のまなざしに変わっていった。

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