第63話:繁栄・ティン国王視点

 今王都が建国以来最も繁栄しているのは間違いない。

 リークン公爵のスライムが生産する回復薬と解毒薬を求めて、大陸中から商人が集まってきている。

 回復薬と解毒薬が安価に大量に出回ることで、冒険者の死傷率が劇的に下がり、多くの素材が国内に流通し始めている。

 特に食肉が安価に出回るようになったので、貧民が飢えることが少なくなった


 その影響で国内の死亡率も著しく低下して、大幅な人口の増大も予測される。

 最近報告を受けたゴブリン従魔士が活躍するようになれば、もっと多くの素材が大魔境から手に入るようになり、さらなる繁栄が見込めるだろう。

 だが、その全てがリークン公爵ありきの前提で成り立っているのだ。

 もしリークン公爵がこの国を見捨てるようなことがあれば、一気に元の状態に戻ってしまうことになる。


 一度増えた人口、一度豊かになった民、元の状態になれば抑えがたい民の不満が渦巻くことになり、国を揺るがすような大混乱が始まってしまう。

 リークン公爵が王配になる事は決まっているから、自分の血統に王位を継がせたいという欲で国を見捨てる事も、謀叛を起こす事もないだろう。

 だが、この繁栄をわがものにしたいという大陸の王侯貴族が、リークン公爵を誘惑する事は馬鹿でもわかる。


 あれほど相思相愛だと評判になっているクラリスとリークン公爵なのに、それでも愚か者はリークン公爵に愛人を持つ事を勧めていた。

 クラリスの親としては、クラリスとリークン公爵の愛情を信じたいが、男としては信じることができない。

 自分がこれまでやって来たことを考えれば、リークン公爵がいずれ浮気心を持つ事は当然であろう。


 だからこそ、国王ならば万全の準備を整えて対応しなければいけない。

 リークン公爵に近づく女をすべて排除できればいいのだが、それは不可能だ。

 次善の策としては、浮気心程度で済むようにする事が1つだ。

 リークン公爵が本気にならず、遊び程度で終わるようにもっていくのだ。

 あとはリークン公爵が好みそうな女を事前にこちらで用意するかだ。


 リークン公爵が他国の女に心を奪われて、その国に取り込まれさえしなければいいのだから、百花繚乱を王家で準備すればいい事だ。

 今はまだクラリスとリークン公爵は愛し合っているから問題はない。

 クラリスさえ我儘を言ってリークン公爵の心を失わなければ、数年は大丈夫だ。

 天職が親子で伝わるのなら、子供に恵まれれば何の問題もないのだが、残念ながら天職は完全に神様が決められるので、人間の思い通りにはならない。


「国王陛下、アレックス様は魔亀を食べても平気でおられます。

 私には女の魅力がないのでしょうか」


 今にも泣きそうな顔でクラリスが案内も待たずに部屋に入って来た。

 魔亀を食べてもリークン公爵が理性を失わないというのなら、もうあれしか方法はないな。

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