第59話:陳情
俺の目の前には、精一杯身嗜みを整えた4人の冒険者達がいた。
彼らは俺に陳情があって、冒険者ギルドのマスターに面会予約を願い出ていた。
俺には彼らに対する意趣遺恨も隔意もないので、できるだけ早く会ってやった。
だがマスターの紹介状があるとはいっても、本性の分からない者と会うのに、クラリス王太女殿下と一緒にいるわけにはいかなかった。
クラリス王太女殿下を説得して別室からこの様子を見てもらっているが、後で御機嫌を取るのが大変だ。
「リークン公爵閣下にたってのお願いがございます」
4人の代表だと言うマリアという女性が震える声でようやく話しだした。
名声を得るというのは素晴らしい事なのだが、少々弊害もある。
史上比類のない功績を立てたと称えられる分だけ、人から避けられてしまう。
無遠慮な人間や、俺から利を得ようとする人間は平然と近寄ってくるのだが、本来俺が仲良くしたい誠実な人間は、遠慮するようになってしまうのだ。
少なくとも今回正式な陳情を申しこんできた4人は、俺を騙して利を得ようとするような卑怯者ではないのだ。
本来なら自分の力で成果を得たい誠実な人間が、どうしようもなくなって俺を頼って来たのだと思う、たぶん。
英雄と称えられる公爵家当主で王配の俺を相手に陳情するという現実に、怖気づいてしまって萎える心を、𠮟咤激励して陳情を口にしようとしているのだ。
急かすことなく待ってあげなくてはいけない。
「我々ゴブリンの従魔士も、スライムの従魔士ほどではありませんが、不遇な現実に困っておりました。
天職なのだから諦めるしかないと、多くの仲間がゴブリンを従魔にして冒険者になるのを諦め、ゴブリンを使役する農民や人足をしています。
ですが天職の農民や人足にはとてもかないません。
ゴブリンを利用するにしても、力のある魔獣を使役する魔牛従魔士や魔馬従魔士には劣劣ってしまいます、どうか我々を救ってください、お願いします」
マリアにそこまで言われて、ようやく俺も彼らの願いに気がついた。
俺も結構抜けているとこの場で笑ってしまいそうになった。
彼らの望みは、俺がスライム従魔士に最高の能力を得たスライムを貸しだしているように、捕虜にしている進化したゴブリンを貸して欲しいと言う事だ。
ゴブリン従魔士最大の悩みは、ゴブリンを進化させるのが難しい事だ。
スライムほどではないが、ゴブリンはとても弱い魔物だ。
戦いで成長させたくても、成長させる前に殺されてしまう事の方が多い。
「君達の願いは分かったが、俺が捕虜にしているゴブリン達は、特別な能力を持っているわけではないぞ。
進化して強いゴブリンも多いが、その分従魔にして従えるのは難しい。
上手くコントロールできずに被害を出せば、賠償しなければいけなくなる。
その点に関してはどう考えているのだね」
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