第3話:不殺

「「「「ぎゃああああああ」」」」


 ノア、ジャック、チャール、レオが自分達の無力さを思い知って悲鳴をあげる。

 体重が軽く50トンを越え、全ての能力の最低値の1万を越えるヒュージスライムが相手では、どれほど剣技に優れようとも何の役にも立たない。

 魔術ならば多少は体力を削げるだろうが、天職が与えた武器以外は手に持てないこの世界では、天職が魔術士でなければ魔術を使うことができない。

 その魔術士も、天職によったら使える魔術が細分化されているから、スライムに適した魔術を使える者はさらに数が少なくなる。


「さっきの情に感謝して殺しはしないよ。

 だが装備も能力もスライムに取り込ませてもらうよ」


 俺の研究した範囲では、スライムこそ最強の魔獣だと思う。

 スライムは食べた物によって特色を備えた上位種に進化をする。

 スライムは受けた攻撃を覚えて自分の能力とすることができる。

 とても物覚えが悪くて体力も少なくて、受けた攻撃を能力にする前に死んでしまうことが多いが、剣術や槍術だけでなく、魔術ですら覚えてくれるのだ。

 100匹の成体スライムが合体統合したビックスライムなら、少々の攻撃を受けても死ぬ事がないので、攻撃を繰り返して覚えさせることが可能だ。


「もう何も聞こえないだろうけれど、さっき倒れるまでスライムを攻撃してくれた事、心から感謝するよ、お陰でスライムが剣術と槍術を覚えてくれたよ。

 スライムが覚えてくれた能力は、俺にも再現が可能になるんだよ。

 スライム従魔師の俺が、本来なら剣や槍を使った攻撃ができないはずの俺が、スライムが得た能力とレベルの範囲なら、剣や槍を使って攻撃ができるからね」


 ヒュージスライムの体内に取り込まれたノア、ジャック、チャール、レオの4人は、死んだような目で俺を見ているが、死んではいない。

 俺の指示を受けたスライム達は、4人を消化吸収する事はないし、空気を断って窒息させる事もない。

 馬鹿にしていたスライム相手に全く手も足も出なかった自分に絶望して、心を壊してしまっただけだが、それは自業自得というモノだろう。

 本当に強い人間なら、どのような状況になっても絶望などしない。


「さあ、トーマス達に見つからない場所まで移動して4人を解放しよう。

 命は取らないけど、俺を殺そうとしたのだから恥くらいはかいてもらうよ。

 全ての装備はもちろん、お金も衣服も奪って、丸裸で放り出す。

 ただ大魔境の中や周囲では魔獣や獣に喰われてしまうから、近くの村にまで運んでやる、分かったね愛しいスライム達」


 1000匹以上の成体スライムを従魔にしているから、いちいち名前を決めるのも面倒になって、今では名前を付けないようになっている。

 それに一度合体統合した成体スライムは記憶も能力も共有するようだ。

 そうなったスライムは事実上の不死の存在になるのだと思う。

 もしかしたら、スライムと共感してる俺もそういう存在になっているのかもしれないが、恐ろしくて確かめる気にはならない。

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