ゾンビif

 引っ越してちょうど一月経った朝だった。高野は朝食を作り始め、渚はベランダの植物に水をやりに行った。

 ガタンと、ベランダからの異音に高野は駆け寄った。


「大丈夫ですかナギさん!」


 腰を抜かした渚は、ガタガタ震えさせながら外を指し示す。マンションのエントランス付近で、学ランを着た少年がOL風の女性に襲い掛かっていた。強姦ではなく、ライオンが獲物に襲い掛かるが如く、噛みついていた。右の道では小学生数人が老婆を、左の道では初老らしき男が大学生風の若者に――。


「渚さん見ないでいいですよ!」


 高野は渚に大判のタオルをかける事で、一旦異常な光景からシャットアウトした。

 そしてすぐさま持てるだけの荷物をまとめ、渚を背負って外へ飛び出す。階下では既に住人が食う食われる状態になっており、屋根伝いに逃げる。

 数時間後、無人の家から持ち出したラジオで、世界中で惨たらしいパンデミックが発生した事をようやく把握できた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おかしなふたり3(1/10更新) 狂言巡 @k-meguri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ