第10話 忠告
「マモル君?」
「こんなところで会うなんて奇遇だね」
「そうだね。マモル君のことだからてっきり美味しい所食べに各地を回ってると思ったんだけど」
「そうしようとしたんだけど……ねぇ?」
そう言い。マモルと名乗る体の大きな男の背にはもう一人いた。
マモルの身長は大体185cmは超えてるように見えるが一方でもう一人の男の身長は大体170cmくらいで自分と同じくらいの背丈だ。
そして二番隊の腕章と相鉄色の軽そうな甲冑に身を包む。
青い柄の長剣を腰に、背を覆う盾を背に身に着けた男がいた。
「よ! 最近伸び悩んできてたから大宮異界で自主練に付き合ってもらってたってわけさ」
「へぇ。でもアサヒ君と二人なんて意外な組み合わせだねぇ」
「そうか?」
「うん。僕もそうだと思う」
「なんでだよ」
二人の意外そうな顔に対して続いてマモルが答えた。
「だってアサヒは、こういうのリユかトヨトと行くじゃん? 僕は美味しいもの食べに行きたいから行かないしねぇ」
「ちょっとはおまえは体を動かせって!」
「普段異界で動かしてるからいいのさ。それでサユキは? って、ああ! この前のサユキのお友達じゃない」
「あ、どうも。シラヌイ ハルヒトって言います」
そうだ。一瞬すれ違ってチラッと見た程度だったから忘れていたが、この二人は久しぶりにサユキと会った時にすれ違った人達だ。
「名乗り遅れちゃったけど僕はウエミゾ マモル。そして」
「アカサカ アサヒだ。二人は何をしてたんだ?」
「ハルさんと異界探索。て言っても5階層のはじめまでしかすすめなかったけどね」
「ん、新しい異界か? にしても5階層までしか進めなかったって結構てこずったんだな」
「ま、まあね!」
大半を遺跡探索により全く先に進まなかった事実をここでは伏せるようだ。
「そうか。サユキの言っていた大事な用ってこれか?」
「ちょ、ちょっと大事って! 確かに大事な用? だけど……」
とても仲の良さそうな3人でチームメンバーで苦楽を共にしてきたというのが伝わる。
チームってこういうものなんだなと感心してやり取りを聞いていたがサユキが少しおどおどとした様子でいるのに気が付いて視線を向ける。
すると。
「ハルさん! 違いますからね?!」
「え、何が?」
「え?」
「あ、ごめん。三人の中が良さそうな感じを見ててさ。これがチームなんだなって思ってたんだけど」
「ああ……そ、そう! チームって命を預け合いますからね。仲は良いんですよ!」
「────それでだ」
アサヒが間に入り、少し目を細めながらじっくりとこちらを見てきた。
「あんたがシラヌイさんか」
もういちど名前を確認するように鋭い目で迫るアサヒ。
「そう……ですが。何か?」
「まあ覚えておく。じゃあなサユキ」
「うん。それじゃ……?」
そう言ってアサヒはファミリマへと入って行った。
「ん、あれ? ごめんね。アサヒなんだか機嫌悪そうだから……いつもはこんな感じじゃないんだけどね。大変だと思うけどがんばってね! サユキ、また明日」
そしてマモルもアサヒの後を追った。
「うん。また明日~……アサヒどうしたんだろ?」
それを疑問符つけてこちらに投げられても困る。
なんだか圧をかけられたような。きっと何かしら気になるようなことをしたのだろう。
その時は、そう悠長なことを考えながらそれだけだと思っていた。
それからというもの良い感じの疲労感を味わいながら駐車場までサユキと話しながら帰って行った。
よくわからない出来事もありはしたけれどサユキからプレゼントでもらった解体用ナイフがどこか、とても暖かいような気のする夜だった。
────大木の異界、第5階層。
1階層の森を痛みに耐えながら抜け。
2階層の山を体力を削りながら越え。
3階層の黄昏の平原を死にかけながら越え。
4階層の暗がりの社を難なく抜けてたどり着いた場所。
今までの穏やかな森ではなく洞窟のような階層だ。
しかし暗い洞窟の中であるのに対して緑色に葉をつける木がところどころにある不思議な場所だった。
その不思議な木を触りながらつぶやく。
「なんで日もないのに緑色の葉をつけるんだろ?」
「クゥン?」
シロはいつも通り素っ頓狂な顔をして首を傾げた。
『なんかわけのわからないことを言ってるよ』
そんなことを言ってる顔だ。
「気楽な脳みそしかないお犬様かもしれないけど年中暗い中で緑の葉をつけてるって相当不自然なことなのだよシロさん」
『刀一本と脇差で異界へ飛び出す奴に言われたくない』
ひそかにシロはそう思っている。
今日は、一匹と一人の相変わらずの通常探索を進めていた。
サユキとは、またチームの活動が休みだったり、なかったりした時に一緒に探索へ行こうと約束を交わして今日は二番隊の活動に勤しんでいる。
チームで異界へ行って、休みの日に俺と一緒に異界へ行く。
なんてことしてたら体を壊すだろうから『しっかり休んだ方がいいですよ』と伝えたが『10階層以下は、散歩みたいなものなので大丈夫です!』とのことだった。
本当に大丈夫なのだろうか。
4年も探索員をしているとそういうものに慣れてくるのだろうか。
確かに猛者は1か月でも2カ月でも入っていられるというけれど……
少しブラックな環境に耐えられるような身体能力をもってることに苦笑いをする。
しかし、こんなことを考えている最中でも容赦なく脅威に襲われるのが異界だ。
シロが唸る。
「何か来る……」
ゆっくりと刀に手をかけ次第にカラカラという音と供に近づいてきた魔物の姿があらわになった。
四足の細く短い脚。身体はずんぐりとしているが硬そうな甲殻に身を包み頭には鋭い顎のある生物。
一言でその魔物を例えるなら気持ち悪い脚がなくなってすっきりした顎の強そうなダンゴムシだ。
初めて見る相手を前にゆっくりと様子をうかがう。
そして目が合った瞬間。ずんぐりとしていた体が伸びたのだ。
線虫のように変化して飛びついてくるそいつは追尾するようにこちらへと顎を突き立ててきた。
「うわお!!!」
とてつもなくびっくりして体が固まる。
しかし、両の手に握る刀でそれを受け流すとなんとかそれを避けることができた。
態勢を立て直すと奴は体を縮ませて次の攻撃の態勢に入っている。
────また来る。
そんな予感と供に奴は再び体を伸ばして鋭い顎をこちらに向けて飛び出してくる。
今度はステップを踏むように左横に避けて一太刀。
甲殻と甲殻の間に入り込むように入った刃は、すんなりとその魔物を一刀両断した。
「ふぅ」
初めて戦う魔物。
てっきり、そのずんぐりとした体形で体をぶつけてくるのかと思いきや伸びるというのは予想外だった。
そして思いの外あっけなく倒せてしまうのも予想外だった。
改めて常識や思い込みはいずれ大きな失敗を生むだろうことを思い知ってありがたく甲殻やら使えそうな素材を採るべく解体する。
ここで重要なのが使う得物は脇差じゃなくサユキにプレゼントしてもらった解体用ナイフだというところだ。
丁寧に甲殻を外していく。綺麗にはがしたり切れ込みや刃では斬りにくい部分をノコが良い具合に解体を補助してくれる。
『いいものをもらった』と解体を終えて先へと進んだ。
その先も、そしてそのまた先も現れるのはずんぐりむっくりとした伸びる魔物だけだった。
それ以外にも小さな羽虫や横に動く尺取虫ような虫は見かけるものの点々とダンゴムシの魔物が待ち構えている。
それから5階層は中央に大きな穴がありそこに滝があり、ものすごい轟音を奏でている。
そこを中心に5階層の洞窟が広がっているのがわかった。
マッピングがあらかた終わると程良い時間になり今日の探索を終えることにした。
どこかシロは眠たげな顔をしているが1階層のレオボアの肉を見せるとよだれダラダラで近寄ってくるのだからなんともまあ形容しがたい何かを感じる。
「かわいいな」
「ッヘっヘッへっへッへっへッへっへ!!!」
その夜。
早速カマイタチの爪を一本5000円で引き取ってもらうべくファミリマ、大宮店へと向かった。
42本の爪を運びカウンターで今日出会った魔物の話を店主とする。
「こいつは、ノビムシだな。グリンセクトって名前は一応ついてるが……関東じゃなくて北海道で出る魔物のはずなんだがなぁ」
「北海道? なんでまたそんなところの魔物が?」
「さあな。その5階層って寒かったりしなかったか? 比較的あいつらは寒い階層に現れるみたいなんだ」
「肌寒くもなんともなかったですよ?」
「ってことは変異種か別種か……でもなぁ。この甲殻を見る限りそいつと同一っぽいんだよなぁ……とりあえず価格は一枚300円ってところだ」
「安い……」
「まあ、アラネアより腐るほどいる奴らだ。一匹一匹は大して強くないが集団で襲ってくるやつらだからこの価格で取引されているんだ。まあ気を付けるんだぞ?」
「はい……」
「っていうことでこれがお前さんの金額だ」
書かれていた金額……それは形容しがたいものだった。言葉にできない額が目の前にあった。
「に……にじうじゅうはちゃ……まん、ごせ、しぇせ、んさびゃく……」
「おいおいおいおい!! おちつけって! 二十八万五千三百円だ! ま、これは日頃の努力ってやつだ。かみしめておくんだぞ?」
「は、はい!!!」
占めて28万5300円もはや貯金額。そんな金額を一気にもらい浮かれながらルンルンで店を後にする。
もはや周りの客がその奇異な光景を目にしているのにも気づかずにルンルンで早歩きで帰ろうとしたそんな時。
「シラヌイだったか?」
ふと誰かに呼ばれたような気がした。
だが見知った相手もそうはいない。
気のせいだろうと思いそのままルンルンで通り過ぎようとしたが、その声はそうはさせなかった。
「おい! 無視するとはいい度胸だな?!」
「え? あ! 呼んでました?」
驚くことに目の前にいたのは藍鉄色の鎧と青い柄の長剣を腰に盾を背負ったアカサカ アサヒだった。
「調子の狂うやつだな……」
「いやぁ。ちょっといいことがありまして、えへへ」
28万の収入にいつもより緩んだ対応をしてしまう。
「気持ち悪いからそのにやけた面どうにかしろ!」
「は、はい! それで何か御用ですか?」
「ああ。ここにくりゃお前がいるかとおもってな」
「はぁ……?」
こちらの緩んだ顔とは正反対にアサヒは真面目な顔をしていた。
「おまえ、サユキとはどういう関係だ?」
「ユキさんですか?」
「ああ、そうだ」
どういう関係。
改めてどういう関係かと問われるとどう答えていいものかいささかよくわからない。
ニアリーイコール友達で恋人未満。まあ、恋人は無理があるんだけど唯一自分と喜んでチームを組んでくれた天使? みたいな?
頼れる先輩探索員とボッチな後輩探索員?
昔の仕事の後輩?
再会して間もなさすぎる。
多分それが故にサユキとどういう関係かと問われてもいまいちピンと来ない。
であるなら。
昔の絆を大切にしてくれていた。5年経っても自分のことを忘れずにいてくれた。
それはもう一周回って……
「多分……友達ですよ」
「そうかよ。であるなら、その友達さんに一つ忠告だ」
「忠告……ですか?」
「ああ、もうサユキと探索に行くな」
その忠告は唐突で訳の分からない物だった。
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