第2話 探索員の1日 1-5
ファミリマへと到着し『カラン』という自動ドアでない木製のドアに備え付けられた鈴のようなものの音の入店音と一緒に店主の濁声で「いらっしゃい!」といつも通りの挨拶をもらった。
「おいおい、大丈夫かよ。刀のあんちゃん」
「いやぁ……」
「いやぁ……って服もボロボロじゃねぇか。追剥にでもあったのか? それに……そのアラネアの甲殻の量はすげぇな」
「なんとか21匹倒せました!」
「21匹……なるほどな。追剥にあったんじゃなくてよかったぜ。まあ、昨日のあの数字聞いちゃすごい快挙だけどよ。無茶しちゃいけないぜ?」
「無茶というより……囲まれちゃったので無茶を通さなくちゃいけなかったというかなんといか……」
「て言ってもなぁ。アラネアは、足は遅いんだから囲まれたとしても逃げきれはするんだから、そうなる前に見切りってもんはつけれるんじゃねぇのかい?」
「あ……」
「あ……って、刀のあんちゃんよ。俺はあんちゃんが心配だぜ。このまま一人で、しかも私服で探索を続けるのは危険だ。少なくとも防具はそろえてから行った方がいい。いざっていう時命をつなぎとめてくれる大事なもんだからな」
「ああ、はい。検討はしておきます……」
「検討って……わかってるのかねぇ。ま、とりあえず、このアラネアの素材だな。査定はするが……その間防具買うかどうか検討しといてくれよ? いつも私服みたいな恰好で異界を出入りされちゃ死にに行くんじゃねぇかってひやひやしてるんだ。あんちゃんだって死んだら悲しむような人の一人や二人はいるんだろう?」
「まあ、いたらいいんですけどね……」
「────いたらいいじゃねぇ。確実に、ここに一人はいるってことを覚えておけ。勝手に死んだら承知しねぇからな?」
「ありがとうございます……」
「ええっとアラネアの甲殻が33枚と足の方が……数えきれねぇな。一人でたくさん集めたんだな。それじゃ使えるかどうか見ておくからそこらへんで待っててくれよ」
「お願いします!」
「防具みとけよ?」
にっと笑顔を作る店主から432番の番号札を手渡されて持ってきた素材を籠に入れて奥へと持っていく。
みとけよって、これから買わないといけないのかな。
とりあえず買うつもりはないが防具売り場へと足を運ぶ。
陳列されたものを横から見ているけれがどれもセットで10万円以上はする。
アラネア甲殻セット14万円、鎧ネズミの鎧セット17万円、そのほかにも異界に生息する魔物の甲殻や鱗、革を加工して作られた装備が陳列されている。
魔物の甲殻や鱗で作られた物だけでなく、異界で採れた鉱石で作られた物もあるのだが、この黒光りしていていかにも西洋甲冑風の屈強そうな防具は、異界で初めて発見された新種の鉱石、その名も異界石でできた防具だ。
1セット25万円かぁ……分割払いでできなくもないけど今のところ収入も安定しない状態でやるのは自殺行為だ。
隣の火竜防具とかいうやつはショーケースに飾られてる。
値段は……73万円?!
70万するそうびを着て異界に行くとか……高価な重圧で押しつぶされて逆に死にそうだ。
自分だったら傷とか汚れが着いた時点で精神的に来るものがあるかもしれない。そんなこと言ってたら異界で生きていけないんだけどさ。
でも、火竜ってことは……やっぱりいるんだよな。未だにそうだ。竜とか巨人がいても猛威を振るっているなんて言われてもいまいち実感が湧かない。
どんな奴なのかはネットに落ちてた写真で見たことがある。
いまいち大きさはつかめなかったけど戦ってる人が小さく見えるくらいの大きさの竜と戦ってる写真だった。
ドラゴンの生息確認。デスワーム生息確認。本物のシーサーペント現る。
とかなんとか異界探索の最前線を行くような人達が写真に撮ってネットにあげる度にすごい反響を呼んでたし、そんなファンタジーや架空の生物で実際にはいないようなものがリアルに存在するんだから世の中も変わった。
それでブログとか作って探索の風景とか生息する魔物の写真を載せて、とてつもないアクセス数を出してる人もいるわけだし、一種のアイドルみたいな感じで活動している探索員もいる。
自分がブログ始めたらどうなるんだろ。
異界探索員生活1日目! 大宮異界で蜘蛛を狩ります。アラネアって案外甲殻が硬くて刃通らないんだよね!
1人で探索しているから今日は3匹頑張って狩れました!
時給換算にしたくない報酬なので考えないように生活しています。
多分……書けてこれくらいのネタだろう。
ブログに書く文章をひねり出してみたけれど……これ誰が見るんだろうって悲しい疑問が頭の中を過った。
アラネアも間近で見ると大きいし怖いし、インパクトあるけど竜やデスワーム、シーサーペントなんかと比べたらただのマスコットだしなぁ。
マスコットじゃないか。
普通に気持ち悪いし……でも、やらないよりはやってみるのもいいかもしれない。
ブログかぁ、アクセス数伸びたら広告料でるっぽいし。副収入につながるならやらない手はない。
家帰ったらやってみよう。
言わずもがな。ここでやるぞと決心するも触れることはなかったのは語られない事実だった。
とりあえず、店主は防具を買わせるつもりでいるけど収入が安定しない今は切りつめに切りつめまくった貯金から10万円ちょっとをひねり出すのはどえらくやばい。
安定して収入が出せたら買う。
そうしよう。
それまでは私服で探索もしょうがないって割り切ろう。
少しして電光掲示板に432番の番号と査定終了の文字が書かれていた。番号札を持って素材買取のカウンターへと行き店主がにやりと笑顔を浮かべた。
「よ、またせたな!」
濁声で恰好をつけるように明細を渡してくる。
緊張の一瞬だ。
今までにないくらい倒したのだ。計算はしてないが多少今までの稼ぎよりはいいはずだ。
「……!」
目を閉じてからゆっくりと目を開け明細の金額の欄に示された金額には、5296円の文字があった。昨日の約3倍だ。
「ま、たった5000円ちょっとだが、あんちゃんが稼いだ額としては過去最高じゃないのか?」
「時給換算するとまだまだな額ですけど……うれしいですね」
「そうだな。自分で自分の力で稼いだっていうのは大きな財産だ。大事に使うことだぜってことで防具の話だが、どれを購入しようと思う?」
なんだか大事なことを言って締めくくるのかと思いきや話が終わった途端防具の話に切り替わる。
防具の話は完全に冷やかしにしかなれないから、あまり触れたくはないんだが……
「今は、その……お金がないんで、また今度に……?」
「はぁ、分割って手段もあるんだからそれも活用したらどうだい?」
「安定してしっかりと稼げるようになったら見るのでその時まで……」
「まあ、防具を買うも買わないも刀のあんちゃんの自由ではあるから強要はしないが、防具は身を守るために切っても切り離せない相棒みたいなものだ。しっかりと備えは怠らないに越したことはない。それだけは覚えておいてくれな」
耳が痛い言葉に返事をして店を後にする。
外へ出てみて服がボロボロのせいで寒さがダイレクトに体に伝わる。
5000円ちょっと……達成感はあるけど満足は出来ない数字だ。
満足は出来ないけど着替えも用意してないので一旦、探索を切り上げて家へと帰ることにする。
そこで帰り道にあるお肉屋さんで、この時代には珍しい一個60円のコロッケを買ってホクホクと頬張りながら探索後に味わうコロッケのおいしさに浸った。
「なんだか、生きてるって感じがする」
よくある台詞と一緒に寒い中ボロボロの服で帰る探索員の一日。
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