ズーロランドにて (4)
しかし、到着までには、おそらく数分・・・いや、数十秒の間があるだろう。
ごくわずかの間だけだが、なんとか、ひと息つける。もしかすると人生最後の数十秒となってしまうかもしれないが。安らぎは安らぎだ。ウルラは息を弾ませながら峡谷を背にして座り込み、安らぎの刻に欠かせない唯一のもの、ブッシュ・パンツの右のポケットに入っているマルボロの紙箱を取り出した。
残り少ない煙草にライターを近づけ、あの甘美な最初の
「ブラボー、リリア!あたしたちのリリア!!」
ヴァヴァズとサルダが、それに唱和した。一拍遅れて、疲れた顔のロゼオもサムアップして、それに和した。
ウルラたちは見ていた。リリアが、ただ奴らに撃ち
最初の2機が墜落し、機敏に身を翻して崖下に退却しようとした残りの1機の尾っぽの先に初弾を命中させたのは、伏せの姿勢からいち早く立ち上がったリリアだったのだ。彼女は、腰だめにした
ウルラたち仲間が、それをよってたかって、撃ち竦めた。奴は、脆弱な尾部と側部におそらく数十の
「ざまあみろだい!みんな、よくやったね!」
彼方から、上気したリリアが、飛び跳ねながら叫んだ。
「オゥイ!オゥイ!俺たちゃ最強!!
全員が、この隊のスローガンを大声で唱和し、拳を握って、しなやかな腕を
烟を吐き、一息つくと、ウルラは立ち上がった。戦いは、まだ終わっていない。
マルボロを
いつのまにか、ヴァヴァズが横に来ていた。二人の肩の筋肉が、汗といっしょにひっ付く。
ヴァヴァズは、言った。
「おかしいね。」
「えっ?」
ウルラは、
「何がさ。」
「おかしいよ。」
ヴァヴァズは、常に言葉少なだ。言いたいことは山ほどあるのに、伝えたい感情だって、湖の水ほどあるのに・・・まともな教育のない彼女の
いや、教育がないことは、ヴァヴァズに限らず、ここにいるみんな似たようなものだが・・・だが生い立ちが特に複雑で、どこでどうやって赤ん坊の頃をすごしたのかすらわからない彼女の場合、感じたことの半分も、言葉にして人に伝えることができないのだ。
だから彼女は、常に眼の力で会話する。ヴァヴァズが眉根を寄せ、どこかを
ウルラは、もう一度、かなたで集合しつつある、奴らの姿を眺めた。
「おかしいよ・・・おかしいよ・・・おかし・・」
まるでヴァヴァズになり切ったかのように小さく呟いて、その動きを注視した。
遠くから、隊の
「あんたたち、何を見てんのよ!奴ら、そっちに居るの?」
「ええ・・・そうよ!でもどこか、おかしいんだ。」
「え?何がよ!」
リリアの声に、心配そうな
「奴ら・・・あっちで集合してる。すぐにこちらを、襲ってくればいいのに。でもなんか違う、なんか違う動きをしてるんだよ。」
ウルラは、大声で叫び返した。
サルダとロゼオも、すぐ脇に走って来た。
「なんか、おかしいよ・・・おかしい。」
ヴァヴァズは、なおも言いつのった。そして、ハッと気づいたように、彼女の通常の語彙にはないはずの言葉が出てきた。
「ありゃ、ひっかけだよ!」
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