ズーロランドにて (2)
申し遅れた。彼女の名前だけは、紹介しておこう。
名を、ウルラという。姓は、わからない。
ついでにいうと、どこで生まれたのかについても、彼女の記憶は鮮明ではない。幼時に村から
属する傭兵集団のボスが、先ほど名前の出た、パパ・ドゥンである。
ドゥンは対外的には、おそらくかなり凶悪で残忍な男だったのかもしれない。だって、傭兵のボスなんて、たいていそんなものだろう?
だがウルラはそのことを知らない。パパ・ドゥンは、彼女にとって、まさにパパそのものといっていい存在だったから。
ドゥンは、配下には優しい男だった。彼らが餓えていないか、なにか病魔に侵されていないか常に気を配っていたし、喧嘩騒ぎや派閥争いのようなものが発生したときには、あの葉巻を
いや・・・今は、まだそんな背景をいちいち説明している暇はないのだ。
ウルラたち数名の少女戦士が、空から襲撃される危険に満ちた
「
(ちくしょう、奴ら、速すぎる!)
ウルラは、身を隠しながら低い声で
「
(糞ったれ!)
毒づく17歳のサルダを横目に、ウルラは汗だくでぜえぜえと肩で息をしている仲間たちを見渡して、言った。
「このぶんだと、逃げても無駄よ。覚悟を決めて、ここで一戦交えるしかなさそうね!」
確かに、今居る場所は、河床から攻め上ってくる奴らを迎え撃つのに適した天然の防壁である。奴らは空を飛翔するが、今だけこちらの姿を見失っている。おそらくは熱感知センサーで走査し、ウルラたち生身の
そのかん、こちらは息を整え、眼下の河床を探し終えた奴らが高度を上げてくるのを待つ。有効射程に入れば、一斉射撃で、もしかしたら数機は撃ち落とすことができるかもしれない。
ウルラは、気づかれぬように河床のほうを
時間差を利用した、
「敵を分断せよ!常に先手を取り、立ち向かい、
ウルラは、そう彼女に教えてくれた、リー・ウォンの姿を思い出した。はるか彼方の極東の国、
ただ彼女たちの眼を、ひとりひとりまっすぐと見つめ、ただひたすらに小部隊による
「おまえたち自身の脳味噌が、地べたにブチ
リー・ウォンは、そう言った。
いまウルラとともに息を潜める5名の仲間たちは、いずれもリー・ウォンの教えを受けた同期生同士。問わず語りのうちに、意思統一はできていた。
「牽制せよ。そして分断せよ。」
いま、河床を見下ろすこの天然の城壁で、敵を分断し、一撃加えることのできるチャンスが生まれている。
もっとも年かさで、きっぷのいい
「当座の敵は3機。あたしたちの
「正面から撃っても、たぶん奴らの
冷静なロゼオが手短に意見を言う。リリアは
「あたしが
そう言って、北の方角を指さした。河床に沿った崖が、まっすぐ南北に伸びており、約200メートルほど先で西方向へ急カーブを描いている。リリアは、ひとりそちらのほうに走って彼方から奴らに銃火を浴びせ、注意を引きつける気なのだ。リリアがそこから姿を見せれば、殺到する敵の3機は、きっと崖の傾斜に沿って河床から上昇して来る。
リリアが上方から
そして、奴らがリリアに接近すれば、そのやや長い側方のシルエットが、側面に展開している残りの4名の火線に
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