鉄路のソレイユ
早川隆
ズーロランドにて (1)
はるか遠くに原初の山々が
今は、あまりに時間がない。
なにしろ、彼女は追われているのだから。
何に?
人ですらない、あいつらにである。
突如として視界に現れ、不気味な飛翔音を響かせながらグイグイと近接してくる、あの不快な、虫のような奴ら。虫、とは書いたが、彼女は、それが自然を
もちろん、彼女が、そうした
そう、なんというか・・・人間よりは上だ。
少なくとも、いまここで、これから彼女が奴らとやらにゃならないこと。
要は、強敵ということだ。
少しの間でも、ふと気を抜いたら、その瞬間に
血まみれになって、自分が死ぬ、ということだ。
年若く、身体能力に優れた
現に、彼女と同じくらいに経験豊富で、彼女と同じくらいに冷静で、彼女と同じくらい優秀で勇敢な戦友たち・・・レイア、モトト、プバスは、すでにあの虫けらどもに
モトトは、敢えて直射を控えた奴らに追い立てられ、じわじわと地雷原に誘い込まれて、爆死してしまった。
いや、そうではない。爆死ではないのだ。奴ら・・・思考力を持ったあの忌々しい虫けらどもは、モトトを、わざと対人殺傷用の地雷原へと誘導し、
あきらめて、座り込めばいい。なにもかも
ところが、モトトは勇敢だった。決して、生への執着を自ら断ち切るような女ではなかった。彼女は、
奴らは、それを見届けると、まるで小さな悪魔が空中で喜悦に満ちたダンスを踊るかのように凄まじい土煙の周囲を飛び交い、人間には予測のつかぬ三次元の複雑な曲線を描いて互いに交錯し合い、声なき凱歌をあげた。
もちろん、奴らは、虫けらではない。
思考力を持った、精巧な殺戮の道具だ。
パパ・ドゥンは、奴らを「ドローン」と呼んでいた。
ただそれは、今から何年も前の話。当時の奴らは、あんなに強くもなく、精巧でもなく、もちろん、頭だって悪かった。ただ回転翼の音を響かせて、直線的に飛び、腹の下に搭載した大して効果的でもない火器でこちらを脅して来る。
今よりもまだずいぶんと幼かった彼女たち戦士は、きゃっきゃと笑いさざめきながら、鍛錬に鍛錬を重ねた腕前で悠々と、奴らを撃ち墜とした。
ところが今や、攻守逆転。
あのバカな虫けらどもが、遥かに強く、
・・・何度も言うが、地上にいる彼女が、そうしたことをいちいち把握しているわけではない。彼女はただ、空飛ぶ虫けらどもが、この短期間で飛躍的に強くなった、そのことを極限の恐怖とともに身体で感じているだけなのである。殺されゆく仲間たちの最期を見て、それを悲しむ暇もなく、ただひたすら、身に
そうしていま、彼女自身がどうやって生き残るのかを、必死になって考えているのである。考えながら、ズーロランドの大地を駆け、数名の生き残りの仲間たちを引き連れて、ひたすらに逃げているのである。
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