雨の日

カール

雨の日

 昨日は本当に嫌なことがあった。

それはもう嫌過ぎて記憶からなくなったほどだ。

でも、今は良いことが起きたからそれで帳消しなのかと思う。


 そもそも雨の日というのは良いことがあった日がない。

小学生の頃、あの日急いでいた僕は、大好きな自転車に乗っていた。

お父さんに無理を言って買ってもらった大好きだったマウンテンバイク。

少し泥が跳ねたらすぐに雑巾で磨き、

いつも綺麗にしていた。

この自転車に乗っていれば僕はどこにだっていける。

すごい速さでどこまでもいけるんだ。

そう思っていた。



 でも、あの日。

友達と遊んでいた僕は、急な用事が出来てすぐに帰らなきゃいけなかった。

ちょっと遠い場所に遊びに言っており、

持たされていた携帯にお母さんから電話があったときは本当に驚いたものだ。

お気に入りの自転車に跨り、

友達に事情を説明して、僕はすぐに帰路についた。

それなのに、道の途中にあったマンホールに溜まった水のせいで自転車のタイヤの摩擦が軽減され、見事に転んだ。

 急いでいてスピードを出したこともあって、

盛大に転び、自転車ごと横転してそのまま勢いよくアスファルトの上を滑ってしまった。

足の皮が剥けて血だらけになり、

僕は泣いた。

痛くてないたわけじゃない。

このままだと家に帰れないから泣いたのだ。

僕はすぐに自転車を起こしてすぐに走った。

途中何度か転んだけれど、

もう泣かないで走った。

この大好きな自転車に乗っていれば、

僕はすごい速さでどこにでもいけるのだから。



 でも、僕は結局間に合わなかった。





 あの日を境に僕は自転車が嫌いになったんだ。

どうしてもあの時を思い出してしまって乗ることが出来なくなった。

お母さんはとても悲しそうな目で僕を見ていたけど、

当時の僕にはどうしても無理だったんだ。




 そうだ。

中学の頃もそうだった。

あのまだ冬の寒さが残っていた春の日。

学校はもう春休みに入っていて、

僕は家でコタツに入りながらテレビを見ていた。

お母さんからちょっと重い物を買うから買い物について来て欲しいと頼まれた。

でも、外は寒くて、すごい雨も降っていたから、

僕はお母さんに悪いと思いながらも断った。

あの頃は本当にわがままだった。

思春期特有の反抗期に入っていたのだと思う。

本音は外でお母さんと一緒にいる所を友達に見つかるのが嫌だったんだ。

でも、そんな事はいえず、

雨を理由に僕は断った。

その後お母さんはしぶしぶ一人で買い物に行った。


 家には僕一人だけだったから、

急に家の中が寂しくなったのを覚えている。

テレビを見ていたり、ゲームで遊んだりしてみたが、

その日はなぜか全然集中できなくて、

すぐにコタツで眠ってしまった。


 すると、家に電話が掛かってきたのだ。

番号を見たが、知らない番号だった。

僕は一人でいるときは絶対に電話に出ないようにしていたため、

居留守を使うことをした。


 心の中で僕は今お母さんと一緒に

買い物に言ってるからいないよって考えてコタツの中に頭を入れていた。

それでもずっと電話が鳴り止まない。


 いい加減、さすがに煩いと思い、電話にでる事にした。



 そして、

電話に出て、僕はすぐに着替え外に出たんだ。

雨がすごく降っていた。

急いで傘をさして近くのバス停まで走ったのを覚えている。

一瞬我慢してでも自転車に乗るべきかと悩んだが、

もう何年も乗っていなかったため、

錆びだらけになり、タイヤの空気も抜けていたため、

すぐに諦めた。

 でも、バスっていうのは以外に時間にルーズだ。

バス停で待っていても定刻になっても全然来ない。

しばらく待っていたら、ようやくバスが来た。

バスの運転手のアナウンスで、

雨により一部の道が土砂崩れにあい、

進路変更をしたため、遅くなったそうだ。


 そのせいで僕はまた間に合わなかった。



 バスのことは好きでも嫌いでもなかったけど、

今いえることは、二度とバスには乗らないという事だと思う。

あまりの嫌悪感にバスを見ただけで吐くようになった。


 なんとか高校生になった。

一人暮らしにはまだ不安だった。

怖くて、不安で気持ちが押しつぶされそうになる。

でも、早く大人にならなきゃって思ったから我慢した。


 高校は近くの場所を選んだ。

理由は自転車とバスに乗れないからだ。


 だから受験はかなりがんばったと思う。

過去自分の人生を振り返っても、3番目に入るくらいは頑張った。


 中学の頃は成績も悪く、

よく赤点ばかり取ってお母さんに怒られていたのが、

それもなくなり、

僕は受験のため勉強に力を入れるようになってから、

家にあったゲーム機は全部捨て、

僕は勉強にのめり込むようになっていた。

学校の先生は僕の成績が伸びた事によって、

とても褒めてくれたけど、

どこか悲しそうな顔をしていたように思う。


 でも、僕は残りの中学生活が勉強漬けになったこともあり、

学年のトップ10に入れるようになっていたため、

無事近くの高校に入れたのは本当によかった。

学校の先生からは、もっと上の学校へ行けると色々推薦してもらえたのだが、

そこへ行くにはどうしてもバスか自転車を使わないといけそうにいけそうにないため丁重に断った。

先生から引越しの提案もされたが断った。

僕はあの家が好きだから。


 高校で友達になった人に雨が嫌いだという話をした。

雨の日は嫌なことが起こるって話だ。


 そういうとその友達は、

たまたま嫌なことがあった日が雨の日で、

それで印象に残っているだけで、

晴れの日だろうが、嫌なことはあっただろう?



 でも違うのだ。

晴れの日でも確かに嫌なことがあっただろう。

でも僕が言っている嫌なことはそれじゃないのだ。


 きっとこの気持ちは僕だけのものなんだとその時思った。

家に帰ってもやる事はない。

ただ、勉強をし、まだなれない自炊をし、そして学校へ行く。

友達も出来たが、中々会話についていけなくて、

段々と孤立していった。

家でテレビをみないから会話についていけないし、

パソコンもないからネットの動画の話とかも付いていけない。


 僕はなんのために今生きているんだろう。

そう思うようになった。

これも思春期特有のやつうだろう。

多分厨二病というやつだ。


 でも、どうしても。

将来について考える事が出来なかった。

学校でよい成績をとってもテストで好成績をとって、

大好きなお父さんとお母さんに報告しても、

空しさだけが心に残った。

将来のことなんて考えられない。


 そんな事を考えていた。

雨の日だ。


 あぁ。

 そうだ。

 そうだった。



 思い出した。


 昨日何があったのか。


 思い出してしまった。



 夏の台風が接近していたあの日。

暴風警報でも学校は休校にならず、

僕は仕方なしに登校する事にした。

外はすごい土砂降りで、ほとんど前が見えないような状態だったと思う。

ちょっとダサいと思いつつも、

合羽を着て、傘を差し、本当に我慢して長靴も履いた。

思春期、そして厨二病真っ盛りだった僕にとって、

その格好は酷い苦痛なものだった。

こんな格好をクラスの誰かに見られたら、堪ったものじゃない。

絶賛ボッチ街道まっしぐらな僕だけど、

プライドくらいはあるのだ。


 登校中誰かに顔を見られないように、

合羽のフードを深く被り、

顔を見られないように足元だけを見ながら歩いた。

道路の水溜りはちょっと川みたいになっていて、

流れていく葉っぱが面白く、それを目で追っていたのを覚えている


 幸い長靴を履いていたら、

水溜まりを歩いても全然気にならなかった。

でもやっぱり雨は嫌いだ。



 途中、目の前に強い光が目に入り、

何かすごく大きな音がなったのはまだ覚えている。とても、びっくりして。

何が起きたのか全然分からなかった。


 でも、光の向こうに、

大好きなお父さんとお母さんがいた。

いつのまにか雨も止んでいて、

本当にうれしくて、うれしくて、

でもすごく悲しそうな顔をして僕を見ている

大好きなお父さん、お母さんを見たら、

思春期とか、反抗期とか忘れて、すぐに抱きついた。


 本当に暖かくて、

お父さんもお母さんも泣きながら抱きしめてくれた。

僕も泣いていたと思う。


 雨の日はほんとうに大嫌いだけど、

 今は幸せだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨の日 カール @calcal17

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ