Order2 その名はリクト

 青を基調とした模様の壁に囲まれたこの空間には、彩度が低めの赤紫色の絨毯が敷かれている。その広さは、さすが貴族様と言わんばかりの大きさで、人が30人入っても余裕であるように見える。

 立派な作業机に椅子、天蓋付きのベッドと一辺の一部には本棚が置かれ、中央には来客用としてテーブルにソファが向かい合って2つ、短辺の方に一人用が1つがある。これらと少しの観葉植物があってまだ人が入れそうなのだから、30人という値はあながち間違いではない、むしろ少ないぐらいかもしれない。

 そんな広々とした空間のちょうどソファの近くで、ラキアはワゴン上のコーヒーセットを使って、アントラルにコーヒーを振る舞っていた。

 部屋に立ち込めるコーヒーの独特な香りで、一人用ソファにてくつろぐアントラルの表情が弛緩する。


「お待たせしました。いつもの『コメット・コーヒー』です」


 テーブルの上に置いたカップからは、白い湯気がたっていた。


「おぉ、待ってたよ~!」

 

 アントラルはカップを手に取り、一度香りを鼻腔に注ぎ込むと、再び表情を崩した。


「……やっぱり君は天才だよ。世界各国様々な喫茶店に行ったけど、ここまで香りを際立きわたたせられるのは、君ぐらいだね」

「ありがとうございます」


 聞いたことのある台詞だなと既視感なるものを覚えたが、彼は世界を股にかける商人。その人の言葉となると、自信がつくこと請け合いだ。

 ラキアが少しだらしない笑みを浮かべていたとき

「そうだ! 君に試してほしいものがあるんだ。おーい! 誰か例のもの持ってきてくれないかい?」

 アントラルが大声でドアに叫ぶ。

 するとものの数秒で扉を打ちつける音が3回響き、それが開いた。


「失礼します。アントラル様、例のものとお菓子をお持ちいたしました」


 ドアから入ってきた黒髪メイドの女性は、2段ワゴンを押して入ってくる。ワゴンの1番上には、ここで作られたであろう世界各国の菓子物がたくさん置かれており、下の段には水晶のようなものがあった。

 その球体が、彼が言っていたなのだろう。

 ラキアは、それを訝しげに眺めていた。


「ありがとう。お菓子も準備してくれるとは気が利くね」

「いえ。カラウス家の使いたるもの、これぐらいできて当然です。では、失礼します。ラキア様もごゆっくり」

「あ、どうも」


 物静かに語る女性は2人に会釈し、足音すら立てずに部屋を出ていった。

 アントラルは、ワゴンの下部にある水晶を持ちあげ、机上に置く。

「ラキアくん、これに魔力を流し込んでくれないか?」

「え? いきなりなんです……?」

「いいから、やってみてよ!」


 ラキアは警戒を解くことなく、ゆっくりと手を水晶に近づけて魔力を注ぎ込んだ。するとその中で突然炎が現れ、激しく音を立てて燃え上がり、水晶に一筋の亀裂が入る。一瞬の出来事にラキアの全身から汗が一気に湧き出た。心臓の鼓動もあがり、そのせいか呼吸も上がる。だが、それを見たアントラルは物怖じせずに、上半身を前に乗り出して口元を隠しながら、その水晶を見つめていた。


「火属性1種類だけ、ということは、『Ⅰ型いちがた魔導士』か。それも水晶に亀裂が入るなら、魔力量は常人よりもはるかに多い……」

「いち? え?」


 アントラルの独り言を1つも理解できないラキアは、単音でしか話せなかった。

 ラキアの様子を見た彼は、驚いた顔を見せる。


「え? ラキアくん、『魔導士ランク』を知らないの?」

「知らないですよ。なんですか、それ?」

「へぇ、知らないんだぁ~。ふぅ~ん」


 アントラルはニヤリと笑って見せるが、どうみてもラキアをバカにしているようにしか見えなかった。

 でも、わからないのは事実であり、知識の差で腹が立つほど情報収集をしているわけでもない。むしろ、この場で教えてもらえるのであれば、自分のとっては得と言えるだろう。


「はい。なので、教えてもらえますか?」

 

 淡々と返すラキアに、アントラルは少し物足りない様子だった。


「そう真っすぐ来られると、なんだか調子狂うねぇ……まぁ、知らなくて当然なんだけど、最近【世界魔法学会】が提唱したことだからね。彼らが言うには『魔導士の能力基準』ってことらしい」

「能力基準……?」

「そう。ラキアくんは、魔法4大元素のことは知ってるよね?」

「はい、わかります」

 魔法4大元素は、古くから言われている魔法学における基礎知識の1つ。

 元素は『火』、『水』、『土』、『風』とあり、すべての魔法はこれらで構成、または派生されているという。

「うん。それでね、【世界魔法学会】がつい最近この水晶を作り上げたんだ。これで、その人がどんな魔法が得意かという魔法特性がわかるようになってね。これを機に能力基準を設けようってことになったそうだよ」

「へ、へぇ……」


 少しはわかった気がしたが、そんな難しいことを考えている魔法学会とは、話が合わないだろうなと、ラキアは思ってしまった。


「基準が大きく3つだね。魔法特性が1種類の場合が『Ⅰいちがた』。ラキアくんはこれだったね」

「そうですね……」


 ラキアはこの話をすべて理解することができるのか、少し不安だった。そんな彼の様子を気にせずアントラルは、話を続ける。


「次に魔法特性が2種類、または3種類の人が『Ⅱにがた』。最後に全種類の人が『Ⅲさんがた』といった具合に分けられたわけさ」

「な、なるほど……」

「最新の情報だと、冒険者ギルドがこの基準を採用して、ギルドカードに記載する方針らしいよ」

「へ、へぇ……」


 これ以上聞くと、頭の働かなくなりそうだ。ラキアは部屋の壁を見つめて、考えることをやめた。


「……ラキアくん大丈夫? ちょっと難しかったかい?」

「いえ。何というか、情報が多くて……」

「あはは、確かにね。ごめんごめん」


 アントラルは、微笑する。

 しかしラキアは腑に落ちなかった。その診断をする必要があったか? 2人の関係は売り手と買い手。言ってしまえば、ただの商売相手だ。魔法特性を知ったところで、なんの意味もないはず。


「あの、こんなこと知ってどうするんですか? 別に意味ないですよね?」


 ラキアが質問を投げると、アントラルは「いや、とても貴重な情報さ」と再び前のめりになって両ひざに肘をつき、こちらのまなこを見つめてくる。


「……半年前。【常闇の番犬ドゥンケルハウンド】が冒険者ギルドに侵攻した事件、君は知っているよね」

「……それがどうしたんですか?」

「……その事件に深く貢献したとされる戦士がいてね。噂によると、その彼は『黄金こがね色の髪で、火を操り多くの賊を蹴散らしていた』というんだ……この噂、だよね」

「…………」

 ラキアは黙り込む。

 何も隠すつもりは微塵もなかった。アントラルの言う通り、その事件に関与していたことは事実。だが、話せなかった。

 アントラルへの疑念がそうさせていた。彼に自分の素性を話したことはほとんどない。なのに彼は知っていたのだ。なら、彼はどこまで知っている? 朝何時に起きて、何を食べ、どんなことをしていたまで知られているのではないか? そんな疑いすらかすかに生まれた。

 すかさず、アントラルは言葉を連ねる。


「だんまりか……でも、ここまで噂と合致する人はそうそういないし、今の水晶の結果が物語っている。君は、その戦士だ。そんな凄腕の人物が、冒険者ではなくただの喫茶店の店長? おかしいだろう。なぜ部外者である君がその抗争に参加し、そのうえ冒険者の猛者たちを差し置いて噂をされている……君は一体何者なんだ?」

「……そんなことを聞いて、どうするんですか?」

「忘れたかい? 君と契約するときに言ったこと。『君が信用に値する人間か精査させてもらう』って。あれから、君のことを調べさせてもらった。でも、不思議なことに君の情報は、僕の世界中に広がる情報網に引っかからなかった。唯一、可能性として得た情報はこれだけ。異例だよ。今までなら最低でも生い立ちと経歴は確実に入手していた」


 アントラルは姿勢を取り直し、目の奥を見つめてこう問いかけた。


「……もう一度聞くよ。君は本当に何者なんだい?」

「…………」


 ラキアは、アントラルのその瞳に、自分の奥底を覗かれているような感覚がした。

 何度も言うが、別に隠しているわけではない。ただどうも口が開こうとしない。確かに契約した当時、そのようなことを言われた覚えはある。だがどうだ。罠に引っ掛けるような真似をされて、その人間を本当に信じることができるだろうか。もしかすると、変に話した内容を弱みのように扱われ、利用されるのじゃないかとまで潜在的に感じてしまう。

 てのひらがじわじわと湿りだす。固唾を飲み、何を話すべきかを熟考する。その間もアントラルの眼は、片時もブレることなくこちらに向いていた。

 静寂の時間が流れる。その時間がラキアを拘束するように体を固めた。

 時間が経過するにつれ、その束縛は強まっていくようだった。

 そんなとき、ドォンッ! と部屋の扉が勢いよく開き、部屋の静けさが蹴破られる。

 

「あ゛ぁ~、疲れた~~! もうホンマにえぐすぎやって……アントラルー、仕事終わ……ってあれ?」


 開かれたドアの先から現れたのは、黒髪の青少年。彼の服は何にも形容しがたいものだった。装束でしか見たことがない首元から後ろに垂れる被り物、裾にかけて広くなる黒いズボン。それに首に下げられているのは、あまりにも平べったい小さな麻布袋。

 すべてが謎に包まれた彼は、部屋に入って早々腑抜けた表情を見せていた。


「……リクトくん、いつも言ってるよね? 部屋に入るときはノックをしてって。今日はお客人が来てるんだ。それも今大事な話を──」

「いやー、すまん! 行けるやろーなー思たんやけどなぁー! そこのお客さんも悪いなぁ、邪魔してもーて」

「い、いえ……」


 リクトと呼ばれたその男は、少し大げさにも思える身振りをつけて話していた。

 彼の介入はいい迷惑に思えたが、むしろ助かったかもしれないと、ラキアは表情を緩める。


「はぁ……シラケちゃったよ。もういいや、この話は終わりにしよう。今日は君に有益な話があるからね」

「有益……ですか?」

「そう。彼が返ってきたということは、その品が届いたんじゃないかな?」


 アントラルは視線を扉前にいた『リクト』に向ける。


「あー、一昨日ぐらいに言ってたやつ?」

「そう。大切なものだから君をつけたんだけど……そういえば、どうだった? やっぱり来たかい?」

「……おん。お前の予想通りや。ま、余裕で返り討ちにしたけどな」

「そうか……でもこのままでは困るね。どうにかしないと」


 アントラルが顔を曇らせる。片やリクトは、大きく縦に伸びをしていた。


「はぁ……そういやは?」

「彼女が帰るのはまだ先だよ」

「えっマジ? じゃあ、アレ使えへんか……まぁ、ええか。ほんならとりあえず、俺の用は今のこと言いに来ただけやし。俺は部屋でゆっくりさせてもらうでー」

「いや、そこで待ってリクトくん」

「なんやねん、もー」

 体を反転させたリクトは、嫌な顔をして立ち止まる。彼を引き留めたアントラルは、すぐさまラキアに顔を向けた。

「ラキアくん。有益な話のことなんだけど。実は新しいコーヒー豆を入手できたんだ。どうだい? 一度試飲してみないかい?」

「え? 試飲ですか……?」

「そう。僕は一番君に試飲してほしかったんだ。どうかな?」

「そ、そういうことでしたら、ぜひ」


 さっきのこともあり、ラキアは警戒を解けずにぎこちない返事をする。


「はははっ、さっきので怖がらせちゃったかな? ごめんごめん。でも、安心して! これまで君と接してみて、君が信用に値する人間であることは間違いないし、契約も以降継続するつもりだからさ」

「あ、ありがとうございます……」

「それでね。今からその取引手続きとかがあって、時間が欲しいんだ。ラキアくん、この後仕入れがあるっていってたよね? それを先に済ましてきなよ。そこにいるリクトくん使っていいしさ」

「はぁ!? お前、何勝手なこと言うとんねん!!」

「君がノックせずに勝手に入ってきた罰だよ」

「それは謝ったやん!」

「そういって君は何回もしているだろ? それに、これは命令だ。君、僕との約束忘れたわけじゃないよね?」

「お前はもー、すぐそれだすやん! ガチでセコイって! はぁ……わかった。行けばええんやろ?」


 リクトは悲壮感の漂う表情を浮かべていた。付き添いをしてくれるのは確かに嬉しいが、こんな顔をされると少し気が引ける。


「紹介おくれたね。彼はリクトくん。荷物持ちとして使ってくれて構わないから、好きに使って」

「は、はぁ……」


 ラキアは恐る恐る視線をリクトに寄せると、彼の顔はもう切り替わっていた。


「大丈夫や。仕事はするで! よろしくな、えっと……」

「ラキアです」

「ラキアか! おっけおっけ、ほな、いこか」


 話の調子がおかしい彼は一目散に部屋を退出し、ラキアは少し不安を抱えながら、そのあとを追った。



 ◇◇◇



 すっかり昼時になり、北地区の表通りには暖かな日差しが降りそそいでいた。人通りが多く、道の両脇には様々の出店でみせが陳列され、点々とあるが目に飛び込む。

 ガヤガヤと騒がしいその道をラキアとリクトは、人を避けながら横並びで歩いていた。リクトはアントラルの命令通り、荷物持ちとして大きな紙袋を抱えている。

 ラキアが欲しかったものの調達は大体済み。あとは『チレコの卵』だけだった。


「リクト、ほんとに大丈夫か……それ、重いだろ?」

「大丈夫! 全然軽いでっ? やし、これ俺の仕事やから気にせんとき」

「そうか……もしきつくなったら、変わるからな?」

「だから、気にせんでええって!」


 この買い出しの時間で、ラキアはリクトと少しだけ打ち解けられた気がしていた。

 話してみると彼はものすごく気さくで、面白い性格だった。今まで出会った中でも類を見ない人種であることは間違いない。そんな彼と話す時間は、とても新鮮だった。


「なぁ、アントラルから聞いたで! ラキア、喫茶店やってんねんやろ? 珍しいよな~! どこでやってんの?」

「え? あぁ、南地区を南下した森の先にある『ボタン村』って村でやってる」

「えぇ? どこやねん、そこーっ! 俺あんま南地区方面行かへんしなー! なぁ、また今度行ってもええ? 俺、ここ来てからコーヒー飲んでへんのよー」


 リクトは子供のように目を輝かせながら、ラキアに語りかけてくる。

 ラキアは表情を崩して

「あぁ、いつでも待ってるよ」

 と返すと、彼は片方の手で拳を握った。

「よっしゃ! いつ行こかなー? 明後日とかやったら行けんちゃうかなー?」

「そんなことしなくても、コーヒーは飲めるんじゃないか? アントラルさん、今新種のコーヒー豆準備してくれてるんだから」

「いやいやちゃうんですよ、ラキアさん! 俺が飲みたいのはですね、あなたの店のコーヒーなんですよ? お分かり?」

「フッ、そうか。なら、待ってるよ」


 この話が終わったあとも、リクトは高揚しながら歩いていた。そんなにコーヒーが好きなのだろうか。もしそうであるなら、彼を満足させられるコーヒーを作れるように頑張らなければ。

 彼の表情を見て、自分の意欲が高まった。それと同時に疑問が浮かんだ。

 彼はコーヒーを飲んだことがあると言っていたが、もしこの街出身なら──自慢をするわけではないが──ラキアの店を知らないわけがない。王国内では有名だと客人の噂で何度も聞いている。だが、彼はラキアの店を知らなかった。それに世界的にもコーヒーの知名度は海底ぐらい低い。アントラルによると、世界中で喫茶店は数えるほどしかないらしい。

 なら彼は、どこでコーヒーを飲んだのか……?


「なぁ、リクト」

「ん? なんや?」

「リクトって、生まれはこの国なのか?」


 その真相を知るべく、ジャブ程度の話題から切り出す。すると、彼は眉をひそめて、唸り声を漏らした。


「んー……難しいなぁ……なんて説明すればええんやろ?」

「いや、それならいいんだ。無理はしなくていい」


 複雑な環境だったのかもしれない。これ以上の詮索はよくないだろう。といった予想は外れていた。


「いやー、全然ええねんけど。信じてもらえるかってところなんよねー」

「信じて……?」

「そー。まぁ、もうめちゃ端的に言うとさ。俺、んよねー」

「……は?」


 思わずその言葉が零れる。冗談と思ったが、嘘をついているようには見えなかった。


「な? 信じれへんやろ? 別に信じようが信じまいがどっちでもええんやけど。俺はこの世界とはちゃう別の世界の【ニホン】ってとこから来たんや」

「【ニホン】……確かに聞いたことはないな」


 ラキアがそう下唇を触っていると、リクトが驚いた顔を向けた。


「……ラキアは、【ニホン】って聞いてもなんも思わへんの?」

「えっ? まぁ、それが異界の国なのかとは思ったけど……何かあるのか?」


「いやー、俺がここに来てからそのことを言うと、嫌がる人多くてなー。数年前ぐらいに、この国にえらい規模の人殺した『殺人鬼』が出たらしいねん。そいつ、出身【ニホン】って言うとったんやと」

「とんだ、風評被害だな」

「せやろ? こっちはええ迷惑してんねんなー! ホンマ、そいつイてもうたりたい思ったけど、今地下牢獄におるらしいから、それで勘弁したるわって感じやな」


 リクトは、なぜか威張り口調でそう答えた。

 しかし、驚いた。そんな怖い話がこの街にあったとは。

 ラキアがこの街に来てもう1年ぐらい経つだろうが、風の噂ですら耳に入ることがなかった。だからといって、その事件に今怯えるかと言われれば違う。もう噂が立たないほど、街は落ち着いているし、その犯人は捕まっている。気にすることはない。それより気にするべきは……


「…………」


 ラキアは周囲を注意深く見渡した。

 昨日のエルキドの話を聞いていれば、気になりもする。

 【常闇の番犬ドゥンケルハウンド】──がこの辺りで蔓延っているなら、横をすれ違ってもおかしくないはず。


 ラキアは自然と息をひそめ、鋭い眼光で人混みの隙間まで捜索していた。

 右へ、左へ、眼を動かしていると、1つ不審な光景が目に入る。

 表通りの左端。路地裏に繋がる道の近くで、何かを取り囲む屈強な男たち。彼らの目先には、白い髪の女性が立ち尽くしていた。

 どう見ても絡まれているようにしか見えない。あの男たちがもしかすると。


「ラキア。お前、見てるとこ一緒やったりせん?」


 声色が少し低くなったリクトが、そう訊ねる。


「……どこを見てる?」

「あの路地裏の近く。あれ絶対絡まれとるよな?」

 そんな最中さなか、目先の集団が女性を連れて裏路地へと入っていく。

「……俺、いくよ」

 少し足を速めると、リクトに肩を掴まれる。


「ちょい待てや。お前、どないするつもりやねん」

「……あの子を助けに行く。それとちょっと事情があってな。あいつらとも話がしたいんだ」

「アホか。ただのド素人がいける場所ちゃうやろ?」

「……大丈夫。すぐ終わる」

 ラキアは彼の手を振りほどく。

「おい、ちょっと待てって!」

 今度はリクトの大声で引き留められる。ふりかえると、リクトは紙袋を持っておらず、指を鳴らしてこちらに歩いてきていた。

「俺も行く」

「別に来なくても」

「お前がなんでそんなんなっとるか知らんけど、今の俺はお前のや。お前になんかあってシバかれるのは俺やねん」

「……わかった。じゃあ行こう」

「おん」


 2人は同時に走り出し、女性が連れていかれた裏路地へと向かった。

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