第4話 行き場のない『落ちこぼれ』

「東和共和国宇宙軍総本部の人事課まで、出てこいって言われて、来たのに。辞令を渡されて地下三階の駐車場入り口で女の人が迎えに来るから待ってろって言われても……」


 誠は先ほどの東和宇宙軍の総本部の人事課の中での出来事を思い出した。


「それに、人事の担当者の『司法局実働部隊は特殊な部隊』だって説明……なんだよ、それ。『特殊な部隊』って」


 そんな誠の愚痴は続いた。


「『「特殊部隊」ですか?』って聞いたら『「特殊部隊」じゃなくて、「特殊な部隊」だよ』って……なんで、『な』が入るんだよ……エロゲか?嫌いじゃないけど。僕はパイロットじゃなくて、絵がうまいからキャラデザインで呼ばれたのか?あのスダレ禿の眼鏡の人事課長の大尉……木刀があったら、ぼこぼこにしてやる……」


 誠がいるのは地球から一千光年以上離れた植民第24番星系、第三惑星『遼州りょうしゅう』。そこに浮かぶ火山列島は『東和共和国』と呼ばれていた。その首都の『東都とうと』。その都心にたたずむ赤レンガで知られる建物だった。


 目の前には駐車場と言うだけあり、どこを見ても車だらけ。9時の開庁直後とあって、車の出入りが激しく、呆然と立ち尽くす誠の横を人が頻繁に本部建物と駐車場の間を行き来している。


 そんな中、神前誠少尉候補生は呆然と一人、利き手の左手に辞令、右手に最低限の荷物を持って立ち尽くしていた。


 8月半ば。そもそも大学卒業後、幹部候補教育を経てパイロット養成課程を修了した東和宇宙軍の新人パイロットが、この時期に辞令を持っていることは実は奇妙なことだった。


 前年の3月から始まる大卒全入隊者に行われる幹部候補教育は半年である。その後、志望先に振り分けられ、各コースで教育が行われるわけだが、パイロット志望の場合はその期間は一年である。


 本来ならばその時点、6月に配属になるのだが、そもそも人手不足のパイロットである。教育課程の半年を過ぎたあたりから、見どころのある候補生は各地方部隊に次々と引き抜かれていく。一人、一人と減ってゆき、課程修了時点では全志望者の半数が引き抜きで消えていく。それが普通なら6月の出来事である。


 普通ならそこで残った全員の配属先が決まる。それ以前に東和軍の人事の都合上、その時点ですでに配属先は決まっていて内示などがあるのが普通である。実際、誠の同期も全員が教育課程修了後、各部隊へと散っていった。


 しかし、誠にはどの部隊からも全くお呼びがかからなかった。


 教育課程の修了式で教官から誠が伝えられたのは、「自宅待機』と言う一言であった。

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