229話 傘を返しに


「えっと……う、うん。そうかも……」

「ふふ、きっとそうですよ。この和傘はその方が?」

「あ、ううん違うよ。この傘は朔夜さんが貸してくれたの」

「朔夜様ですか」

「うん、今から返しに行くところ。一緒に来る?」

「……ええ、そうさせていただきます」


 すると、彼はは少し不思議そうな顔をした。


「主人様。この和傘を返しに行くとのことでしたが、まだ雨は止みそうにありませんよ?」

「……えっと……」


 た、確かに雨はまだやまないと思うけど……。


「や、約束したから……こたつちゃんをおうちに帰したら、返しに行くって……」

「……ふむ、そうですか。約束を守るのは大事なことですね。ならば、この和傘を返した後少し雨宿りをさせていただきましょう」

「……うん」


 ポチと手を繋いで神社へ向かって歩き出す。流石に歩いてる時までしゃがんでもらうわけには行かないから、傘はポチに持ってもらった。


 ポチは初めにコウさん達のところへ行って来た事の報告をすると言った。


「朔夜様とこたつ様についてはその後、ぜひお聞かせください」

「う、うん。分かった」

「ありがとうございます。では、報告いたします」


 辺りを見渡し、誰もいない事を確認したポチが、俺に聞こえる程度の小声で言った。


「端的に言いますと、この街に妖怪が潜んでいる可能性が高いの事です」

「……ぅぇ……!?」


 驚いてしまって声が出た。慌てて両手で口を塞ぐ。

 よ、妖怪が……なんだかそんな気がしてたけど、やっぱり……。


「私は功様方と合流し、事情を話した後、例の街まで同行し、功様方が入った幕府直属の施設内の会話を外から盗み聞きさせていただきました。もちろん功様方の許可はとっています」

「ぬ、盗み聞き……」


 い、いいのかな……コウさん達が良いって言ったなら、いいのか……。


「その会話の内容を報告します。まず、この街の異変は総一郎様ご本人による報告で発覚したそうです」

「そ、総一郎さんが?」

「はい。報告の内容は“この街に妖怪が潜り込んでいる可能性がある”との事です。その事から、潜入に特化した妖怪である事を考慮し、秘密裏に総一郎様を筆頭とした対策本部が設立されたそうです」

「た、対策本部……なんだか、凄い事になってるんだね……」


 難しい言葉を聞いて、予想以上に大事になっているように感じた。


「しかし、その総一郎様が病に倒れたとにより、彼を戦力から外した条件でもう1度対策本部を立て直したと……ここまでが、今日こんにちまでに起きた事だそうです」

「……」


 な、なんだか……想像の何倍も深刻なことになってない? いや、妖怪とか色々あるから、これがきっと普通なんだろうけど……。


「……」

「……あれ? どうしたの?」


 ポチが何やら難しい顔をしていることに気がついた。こんな顔をしているポチは珍しい。


「……はい、少々思うところがありまして」

「な、なに……?」


 こんなに頭がいいポチが思うところって……なんだかやばそう……。


「会話の内容から、対策本部は総一郎が倒れた原因を“病”と考えているのでしょう。しかし……」

「……あ……」

「主人様もお気づきでしょう。総一郎様は病ではなく“毒”によって倒れられたのです。私の鼻に間違いはないでしょう」


 そうだ。総一郎さんは病気じゃなくて“毒”で倒れてるんだった。


「功様方が毒の件を報告し、それが受け入れられれば、おそらく対策本部は妖怪の脅威を見直すはずです。そうなると……毒の存在に気がついた私にも、声がかかるかもしれません」


 ……だんだん大変な事になって来た……。


 倭国に来た時はこんな事になるなんて思ってなかったなぁ……。少しゆっくり出来るかなって思ってたりもしてたんだけど……。


「もし声がかけられた場合、変に怪しまれぬよう協力をするつもりです。主人様、よろしいですか?」

「ぁ……うん、大丈夫だよ」

「ありがとうございますご安心ください。主人様の手を煩わせるつもりは毛頭ございませんから」

「う、うん。ありがとう」


 ポチからの報告を聞いて、少しうなだれる。家族みんながいないこんな場所だからこその不安も生まれてしまう。


 そんな俺に、ポチは明るめな声で再び話しかけて来た。


「では、主人様。こたつ様と朔夜様についてお聞かせください」

「……え?」

「良い出会いがあったようですから、それについてお聞かせください」


 そ、そういえば……あとで聞かせてって言ってたっけ……?


「お2人とはどう言った経緯いきさつで出会ったのです?」

「え、えっと……ちょっと待ってね……」


 話すって約束したからちゃんと話さないと……こたつちゃんから話そうかな。


「こたつちゃんは……僕、魔術を女の子に見られちゃったでしょ? その女の子なの」

「……例のですか」

「うん」


 それを聞くと、ポチは少し驚いた顔をした。


「色々あって……森に居たこたつちゃんを僕が迎えに行ったの。それで、今度は逃げないでちゃんとお話しして……」

「……ふむ」

「そしたらこたつちゃんがね、また会ってお話ししようって言ってくれたの」

「ふふ、そうでしたか。次は朔夜様をお願いします」

「……えっと……」

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