228話 無表情の女の子 4


「かいと」

「……!」


 声をかけられ振り向く。こたつちゃんが雨に当たるギリギリの所まで出てこちらを見ている。


「また会って、もっとお話ししたい」

「……うん、僕も。また会おうね」


 俺が軽く手を振ると、彼女は不思議そうに首を傾げながら真似をした。倭国だと別れ際に手は振らないのかもしれない。


「えっと……またね」

「ん、またね」


 少し気まずくなりながらも、挨拶をして彼女と別れた。しばらく彼女は俺の事を見送っていたけど、院長に呼ばれたのか孤児院の中へ戻って行った。


 再び、街道で1人になった。つい先程までの騒がしさが無くなり、より一層雨の音が大きく聞こえる気がする。


「……」


 これからどうしようかな……行くところもないし……。


「……傘、返しにいこっかな」


 こたつちゃんはちゃんと送り届けたし、約束通りに傘を返さないと……。


 まだ雨は降ってるけど、約束は守らないといけない。神社に行って、朔夜さんに傘を返そう。

 そう思い、神社へ向けて歩き出した。


 こうして落ち着いて歩いてみると、さっきまで気がつかなかった事に気付いたりする。


 傘を両手でしっかりと持っていると、音だけでなく傘に当たる雨の感触にも意識が向く。ポツポツとどこかリズミカルにも感じた。

 他にも、全て一緒に聴こえた雨の音も当たる場所によって変わったりしている。


 森に暮らしていた時はよく雨の音とか、自然の聞いていた。最近はあまり気にしなくなったけど……。


「……」


 なんだか……倭国に来てから色々と大変だったなぁ……まだ1日だけど……。

 久しぶりに森で落ち着いたと思ったら、大変なことになって……神様に会ったり、子供が沢山いるところに行ったり……。


「……そういえば……」


 こたつちゃん、さっき「またね」って言ってた。

 と言うことは、また会ってお話ししても良いって事だよね? 


 どこかでまた会って……またお話しして……そのうち、友達になれたしするのかな……。


「友達……」


 友達って言えば、ジーフさん達どうしてるのかな……初めての冒険の後、何回か一緒に冒険して……でも、倭国に来ることになっちゃったから、その連絡だけして会えてないんだよね……。


 まだあの人達とは何回かしか冒険に行けてないし……まだ友達とは呼べない……のかな? 

 帰ったらまた一緒に冒険行ってくれるのかなぁ……。


「……あれ?」


 ずっと友達友達って言ってるけど……。


 脳裏にお母さんとの会話がよぎる。


『友達沢山つくって来ちゃいなさい!」


 友達って……どうやって作るんだろ……。


「主人様」

「……ん……?」


 疑問が生まれ、立ち止まったその時、背後から声が聞こえた。

 振り返ると、そこにはびしょ濡れになったポチの姿があった。


「ポチ! ……じゃなくて……し、史郎お兄ちゃん」

「はい、ただいま戻りました」

「は、早かったね」

「走ってきましたので。誰にも見られてませんし、魔術や魔法も使っておりませんのでご安心を」


 ポチが帰って来たってことは、コウさん達にちゃんと伝わったんだね。たしか……毒の匂いがしたんだよね。

 きっと、コウさん達ならなんとかしてくれるはずだ。


「主人様今は周囲に誰もいないので、無理に呼び名を変えなくても大丈夫でしょう」

「あ……う、うん。それよりもこっちに来て」


 びしょ濡れのポチを傘の下へ入れてあげようとする。しかし、背丈が足りず背伸びをしても届かない。


「ぅ……あ、あれ……」

「……」


 すると、ポチがしゃがんでくれた。同じくらいの背丈になったので、無事に彼を傘の下へ入れることが出来る。


「ありがとうございます。私が持ちましょうか?」

「う、ううん、僕が持つ……ポチはこれで体拭いて。こたつちゃんが使ったやつだけど……」


 こたつちゃんが使ったやつだけど、何もないよりかは良いと思う。


 びしょ濡れのポチをそのままにしておくわけにもいかず、持っていた手ぬぐいを渡した。

 ポチは手ぬぐいを一瞥してから受け取った。


「ありがとうございます。……どうやら、良き出会いがあったようですね」


 ポチは頭を丁寧に拭きながら、察したようにそう言った。


 い、良い出会い……だったのかな。


「えっと……う、うん。そうかも……」

「ふふ、きっとそうですよ。この和傘はその方が?」

「あ、ううん違うよ。この傘は朔夜さんが貸してくれたの」

「朔夜様ですか」

「うん、今から返しに行くところ。一緒に来る?」

「……ええ、そうさせていただきます」


 すると、彼はは少し不思議そうな顔をした。

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