223話 迎えに



 貰ったって言ってたから、きっと思い出があるんだろうなぁ。

 い、いや……というか、今何も無かったところから出たよね?


「い、今……どこから……?」


 辺りを見渡しながら尋ねる。朔夜さんはくすくすと笑いながら答えてくれた。


「ふふふっ、これ、凄いやろ? うちら神様だけが使える特別なものなんよ」

「と、特別な……」

「そうや、まぁ……好きなものを、見えへん場所に保管する事ができるんよ」


 え、それって……。


 彼女の説明を聞いて思った。


 俺の魔法に……似たようなのがあったよね? 収納魔法……。


 いや、でも……神様だけって言ってたし、きっと違うものなんだよね。


「……」

「かいとはん? どないしはったん?」

「あ……と、な、なんでもないです……」


 今見せられた事は、すごく気になる。……けど、今はそれより女の子のところに行かなきゃ……。


「そ、それ……借りてもいいんですか?」

「もちろん、そのために出したんどす。あ、あとこの手ぬぐいを女めの子に貸してあげよし。はいどうぞ」


 和傘を受け取る時、手ぬぐいもパッと出して渡してくれた。

 手渡された和傘は思いの外、軽くて驚いた。実際に近くで見てみても、使ったような形跡はなく新品そのものだ。


 そんな良い物を借りても良いのかと、腰が引けてきた。


「ほ、本当に……」

「ええ言ゆうとります。大丈夫、そないに不安がらんといてや」

「……」

「じゃあ、こうしまひょ」


 なかなか不安な気持ちが消えない俺に、朔夜さんが小指を立てて、それを目の前に差し出した。


「ぁ……これって……」


 見覚えがある。美音さんとも同じことをした。


「ふふっ、知ってはるん? それなら、やり方は分かってはりますね?」

「は、はい……」


 目の前に差し出された小指へ、自分の小指で握る。彼女もそれに応えるように俺の小指を握った。


「それじゃあ、女めの子を無事に家まで送り届けはった後、その傘と手ぬぐいをうちへ返しにくる事」


 そして、あの歌を歌い始めた。


「ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーらはーりせーんぼん、のーます」


 彼女は美音さんよりリズムに乗って歌っていた。それに合わせて、手を上下させている。


「指切った」


 歌が終わると同時に小指同士が離された。朔夜さんはにっこりと笑って俺の頭を撫でている。


「ちゃーんと約束したんやさかい、もう大丈夫やね? かいとはんは、約束を守れるええ子やろ?」

「……! ……」


 や、約束……。


「……はい……僕、ちゃんと約束守ります」

「うん、ええ子やね。それじゃ、あの子が待っとるさかい」


 朔夜さんはそう言うと、俺の背中を押して外へ繋がる戸の前まで移動した。

 戸を開けると、一気に冷気が神社の中へ押し寄せてきた。あまりの雨の勢いに、少し尻込みしてしまう。


 でも、行かなきゃ。


「傘と手ぬぐい、絶対に返しにきます」

「うん、待っとるよ。あ、ほら草履もちゃんと乾いとるからね」


 乾いた草履を手渡され、それを履く。


「女めの子は、かいとはんが入った森の入り口の、割とすぐ近くに居はるみたいどす」

「分かりました」

「それじゃあ、気をつけよし」

「……ありがとうございます」


 神社を出て、傘をさしてみる。

 さっきとは違い全く体が濡れない。大人用だからか、俺くらいの子がもう1人余裕で入れそうなくらい大きい、両手で持たないと落としてしまうかも。


 そして、当たり前な事なのは分かってるけど、なんだか感動した。その感動を朔夜さんに伝えようと、彼女の方へ振り返る。


 しかし、振り返ったところで、その感動の伝え方を思いつかない。


「……えと……」

「……ふふふっ」


 すると、朔夜はくすくすと笑うと、軽く手を振った。


「あ、えと……行ってきます」


 もう一度挨拶をして、俺も軽く手を振りかえす。そして、彼女のチラチラと見ながら女の子の元へ出発した。


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