222話 女の子が言っていた事
あの女の子には、魔術を使っているところを見られてしまった。きっと、俺の事を妖怪だって思ってるはず……。
「それがそないに恐ろしいんどすか?」
「え……?」
だ、だって……。
うつむいて目を逸らした俺に、彼女は話し続けた。
「かいとはんはその子を怖がってはりますけど、その子に何かされたんどすか?」
「なにって……えと、追いかけられた……」
「追いかけたのにも理由があるのかも知れまへんえ。その子は、何か言ゆうてはりまへんでしたか?」
「え……? えっと……」
女の子が言ってた事……?
幸恵さんのお店で、あの子と出会った時のことをよく思い出してみる。
『君と、話がしたい』
「……!」
あの子……そう言ってた……でも、俺は逃げちゃって……。
「は、話したいって……」
「その子はそう言いはったんやね?」
ゆっくりとうなづく。
「なら、その子はかいとはんとお話ししたいだけやったのかもしれまへんな」
「ぅぅ……」
罪悪感がさらに増幅した。だんだんと泣きそうな気分になってくる。
すると、朔夜さんが頭を撫で始めた。
「意地悪な言い方してかんにんえ。でも……そうやったら、かいとはんはどうしたい?」
「ど、どう……?」
「そうや、その子を迎えに行きはるのか……それとも、ここに居はるのか」
「ぁ……」
お、女の子は……話を聞かなかった俺のせいで森で迷子になって……。
ふと、外へ繋がる戸へ目をやる。
やはり、先程から雨の勢いは変わっていない。それに、戸の隙間から入ってくる冷気もかなり冷たい。
このままじゃ……。
「……ぼ、僕……行きます。女の子……迎えに行ってきます」
本当は怖いけど、あの子はお話しがしたいって言ってたし……もしかしたら、妖怪だとは思ってないのかも……?
「……そうやね。うちもそれが良いと思います」
朔夜さんはにこっと笑うと、ぽんぽんと俺の頭を撫でて立ち上がった。
「そろそろ、かいとはんの服も乾いた頃やと思います……うん、しっかりと乾いてはりますよ」
乾かしていた俺の服を持ってきてくれた。手渡された服は、彼女の言う通りしっかりと乾いている。
「ほら、後ろを向いとくさかい、早く着替えよし」
「ぁ……は、はい」
促され、慌てて着替える。今度は服の前掛けの順番を間違えずに着れた。
「き、着替えました」
後ろ向いてくれていた朔夜さんにそう声をかける。
「じゃあ、あの子を迎えに……」
でも……これからあの子を迎えに行くって言っても、外はすごい雨だし……。
いや、濡れたとしてもあの子のところに行かなきゃ……。
覚悟を決めて、戸へ目を向ける。やはり強い雨の存在感をひしひしと感じた。
「かいとはん? もしかして、そのまま行く気でいはるん?」
朔夜さんに呼び止められハッとした。
な、なんだろ……そのままって……?
「……ぁ、お、お礼言ってなかった……?」
「……それも大事やけれど……ほら、これを持っていきよし」
「……?」
しかし、朔夜さんは手に何も持っていない。何を持っていけと言ったのか、疑問に思った。
「……わぁ!?」
しかし次の瞬間、何も無かった空中から突然赤くて長細いものが現れた。朔夜さんは驚く様子もなく、それを両手でキャッチしている。
「……!? ぇ……な、なに……!?」
「ふふふ、びっくりしはった? かんにんな」
驚く俺にくすくすと笑いながら、彼女はその突然現れたものに両手をかけた。
すると、それはゆっくりと開いて、彼女の姿をすっぽりと覆い隠した。
「か、傘……?」
それは、赤い和傘だった。
すると、和傘が振られてその影から朔夜さんが姿を現した。
その表情は、楽しそうな笑顔だった。
「ふふふっ、綺麗やろ? 昔、知り合った男おの子がくれはったんよ」
和傘は綺麗な赤一色で、持ち手と骨が黒い。新品みたいにきらきらと光を反射していた。
「か、かっこいいです……」
「ふふ、そうやろ?」
俺が感想を言うと、彼女は嬉しそうに笑う。
貰ったって言ってたから、きっと思い出があるんだろうなぁ。
い、いや……というか、今何も無かったところから出たよね?
「い、今……どこから……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます