217話 この神様はいい人?
「ふふふっ、どうえ? うちの事、少しは分かってくれはった?」
「えと……は、はい」
「それはほっこりした。それならもう1度聞きます。……うちが怖い?」
先ほどと同じ事を聞かれた。
でも……今はさっきみたいに怖くはない。
そう思った俺は、首を振って答えた。
「……怖くないです」
すると朔夜さんの雰囲気が、今まで笑顔だったにも関わらず、パァっと明るくなったのを感じた。
「ふぅ、良かった。うちの事を怖がってはったんは分かってたんやけど、そやかてこんな雨の中、放っておくわけにもいかないやろ?」
「……えと、そうなんですか?」
「そや、それに……うちが見える子なんて、なおさらどす」
み、見えるって……そういえば、さっきもそんなこと言ってたなぁ……朔夜さんが見えると、何かあるのかな?
「……そや、落ち着いたのなら、良ければあんたはんのことも、教えてくれへん?」
「ぁ……」
あ……まだ、自己紹介してなかった……。
「ここに人が来るんは、珍しいよてなぁ。もし良かったら、ここに来はった理由も……な?」
「……わ、分かりました……」
分かったって言ったけど……どこまで話してもいいんだろ……この国の人じゃないし……う、嘘はだめだよね……?
悩んだ結果、王国からこの国へ来てからの話をすることにした。
まずは俺の名前から始まって、この国に来たばかりのこと、総一郎さんの屋敷で世話になってること。
そして、今日あった出来事……屋敷には戻れない事や、あの女の子の事まで話した。
朔夜さんは親身になって話を聞いてくれた。別の国からワイバーン(ポチ)に乗って来たと言っても、驚かずに聞いていてくれた。
「それは……大変やったんどすなぁ。遥々海の向こうから……」
「……し、信じてくれるんですか……?」
「信じるもなにも、今のは嘘やったん? 嘘なら、お姉さん悲しいわぁ。泣いてしまうわぁ」
そう言うと、彼女は悲しそうに和服の袖で顔を覆い隠た。
「え!? あっいや、嘘じゃない……」
「……ふふっ、かんにんな。分かっとるよ」
慌てて否定すると、袖をどかして笑った顔を見せてくれた。ほっと胸を撫で下ろす。
すると、少し笑っていた朔夜さんの表情が変わった。
茶目っ気のある笑顔から、真剣な眼差しへと変わったのだ。
「……かいとはん」
「な、なんですか?」
「も1つ聞いてもよろしおすか?」
「……? はい……」
な、なんだろ……急に雰囲気変わったけど……? な、なんだか……嫌な予感がする。
そう思った時には遅かった。そして、その予感は的中した。
「かいとはん……って、何者なん?」
「……ぇ……」
その言葉に、体は凍りついた。だらだらと冷や汗が出てきた。
その質問の意図はよく分からないけど、なんだか……気づかれてはいけないことに気づかれてしまったような……そんな気がする。
そんな俺の顔を覗き込むように見た朔夜さんは、にこりと笑った。その笑顔がなにを意味するかは分からない。
「うちは、今までぎょーさん人を見てきました。やけど……かいとはんみたいな子……いえ、人間はんは初めて見ましたよって」
「ぇ……?」
「自覚はありはるやろ? ……さっきの話……他の国から来はったんも信じます。今日あった出来事も信じます。でもな……」
朔夜さんの表情が不気味さを感じる笑顔になった。
「かいとはんの体の中外から感じる、凄まじい力。普通の人間やったら、ありえへん“形”……」
「ぁ……」
「ほんまは、かいとはんって何者なん?」
思考が停止して、体が震え始めた。
原因はよく分からない。怖いのかも分からない。
ただとにかくめ出来るものは、朔夜さんの妖々しい笑顔だけだった。
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