208話 大事な話 2
「ど、どうしたの?」
「主人様にお伝えしなければならない事がいくつか……」
伝えたい事? な、なんだろう……。
「まず、この街へついた時、八百屋の女性から耳打ちで聞いた話です」
「……? あ、あの時の……」
街についた時に話しかけてきた女の人のことか。あの時は本当にびっくりしたなぁ……。
思い返してみれば、たしかに何か耳打ちしてたっけ?
「何を聞いたの?」
「はい、結論から言いますと、“注意するよう”警告されました」
「……へ?」
け、けいこく? な、なにを?
すると、ポチは顔を近づけてきて小声で話した。ここらへんには誰もいないけど、そんなに聞かれたく無い事みたいだ。
「女性からから伝えられた事は、“総一郎様の病が原因不明であること”、そして“どうも最近この街の一部の住民がきな臭い”、という事です」
「きな臭い……?」
「“怪しい”という意味です。この街の方々は皆それを認識しており、その事を新しく来た私達に警告してくださったそうです」
「そ、そうなんだ……」
「はい、おそらくすでに功様方の耳にも入っていると思われます」
へ、へー……なんだかよく分からないけど、とにかくこの街の誰かが怪しいってことかな? なにが怪しいんだろ……? 総一郎さんの病気と関係してるのかな……?
そんな疑問が顔に出てしまったのか、ポチがさらに続けた。
「そこで私は昨夜、秀幸様と別れたのちに総一郎様含めその周辺を少々調べさせていただきました」
「え、そんな事してたの?」
「はい、勝手な行動をお許しください」
「あ、いや……怒ってないよ」
「ありがとうございます。では、1つ分かった事がありましたので、ご報告させていただきます」
「う、うん」
すると、ポチの表情がキッと硬くなった。それを見て反射的に体に力が入る。
「総一郎様のいらっしゃる部屋で、わずかではありますが異臭を感じ取りました」
「い……異臭?」
「はい、異臭です。人間の方々が“普通”に生活していれば、出会うことのない類の物と推測できます」
“普通”に生活してたら出会わないって……どういう事?
「おそらく、何者かが総一郎様へ使用するため、悪意を持って製作したもの……つまり“毒”です」
「ど、毒!?」
思わず大きな声を出してしまった。慌てて両手で口を押さえる。
「はい、八百屋の女性から得た情報は、“総一郎様の病が原因不明である事”、そして“一部の住民がきな臭い”ことです」
「う、うん……」
「仮に私の推測とそれらの情報が関わっているとすると、“この街の住民の誰かが、総一郎様に毒を盛った”ということになります」
「ど、毒を……?」
毒って……だれが……?
「え……で、でもさ……総一郎さんって、この街の偉い人なんでしょ? お母さんとお父さんみたいに……」
「問題はそこなのです」
「も、問題……?」
「立場が上の者が立場の下の者に反感を買うことは、人間の方々の間ではよくある事と聞きました。しかし、功様の話から総一郎様は、恨みを買うような方ではないと思われます」
う……うん?
「たしかに話で聞いた総一郎さんはそんな感じだけど……」
「ですが、総一郎様は過去の業績から、“妖怪”には強く恨まれていてもおかしくはありません」
あ……そっか……じゃあ、毒は“妖怪”が?
「しかし、八百屋の女性は、“15年前の事件から河童くらいしか出ていない”と言っていました。この発言から察するに、河童は騒ぎを起こすほどの脅威ではないと思われます」
「う、うん……」
「では、妖怪でないとすればいったい誰が、総一郎様を恨んでいるのでしょう?」
……うーん……たしかに、誰なんだろう……。
この街の中に悪い人が居るのかな? ……まだここに来たばかりだから、分かるわけないよね……。
どれだけ悩んでも、当然答えは出ない。
「私からお伝えする事はこれで以上です」
「うん……ありがとう……」
そっか……毒であんなことになってたんだ……だったら、はやくどうにかしないと、総一郎さん死んじゃうのかな……。
な、ならはやくなんとかしなきゃ! とにかく、まずは功さん達にも……。
「ねぇ、ポチ。この事、功さん達には言ってあるの?」
「いえ、お伝えしたのはまだ主人あるじ様だけで……」
「そ、それなら早く言いに行って! 大事な事だから!」
立ち上がってポチの背中を押す。
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