133話 王様が来た



 さっき、王様が家に来た。すごくびっくりした。


 両親が1番良い応接室に案内して、ティカさんが最高級の紅茶を持ってきた。

 そして俺は、テーブルを挟んで王様の真正面に座っている。


 ……うん。なんで?


 ひとまず紅茶を出し終え、両親も席に座った。ティカさんはその後ろに立っている。

 ちなみに、お姉ちゃんはエルフだとバレるといけないので欠席。


 なぜコウさん達が、王様にお姉ちゃんの事を伝えていないのか。それは、単純に色々と面倒なことになるからだそうだ。


 面倒になるからと、王様に秘密にするのはなんだかいけない気がするが、お姉ちゃんの身に何かあるのは嫌だからなにも言わない。


 今回の件でお姉ちゃんのことを、ただの子供だと判断してくれたのもあるらしい。


「……さて、今回は突然押しかけてしまい申し訳ない」


 紅茶を1口飲んだ王様が、話を切り出した。


「して、まずはカイト。君には謝罪をしなければならないな」


 そう言うと、王様が突然頭を下げた。


「今回は私の部下が、多大な迷惑をかけたな。本当にすまなかった」


 王様からのまさかの謝罪。

 目の前で起きたことに、その場にいた全員は慌てた。宰相はすぐに止めるように言ったが、彼は頭を上げない。


「あの馬鹿には厳しく言っていたんだが、足りなかったようだ」

「お、王様は悪くないです」

「いや、あとで分かったことなのだが、あの馬鹿は精神を病んでいたらしい。それ故に、今回のような後先を考えない行動をとったんだ。この件は、それを見抜けなかった私の責任だ。本当にすまなかった」


 俺がいくら言っても、彼は謝罪をやめなかった。

 正直、一刻の王様が貴族の子供に頭を下げるなんて、聞いたことがないからちょっと困ってしまう。


 だけど、以前にもアルフレッドに酷いことを言われた時。王様は部下の責任は取ると言っていた。

 本当はどうしたら良いか分からないけど、今はこの謝罪を受け入れておこう。


「は、はい……分かりました……とにかく、みんな無事だったので大丈夫です。あ、頭をあげてください」

「そうか……感謝するよ」


 彼が頭を上げると、安堵した表情が見えた。


「君に対する損害賠償は、あの馬鹿からの差し押さえで払うよ」

「え……!? そ、そこまでは……」

「ダメだ。ケジメとして受け取って欲しい。これは王命だよ」

「あ……はい……」


 地味に職権乱用された……。まぁ、お金は全部お母さんとお父さんに渡せば良いか。


「よし。それじゃあ、これでこの件はとりあえず終わりにしよう。後日、君の両親と話し合いの場を設けたい。それでもいいか?」

「し、承知しました」


 突然話を振られたお父さんは、少し面食らっている。


「……でだ。さっきのも重要だけど、今から話すことも重要なんだ」


 すると、王様は別の話しを切り出してきた。


 重要……って、なにか他に思い当たることは無いけど……。


「覚えているかな? 君に関する噂についてだ」

「噂……? ……あ」


 思い出した。多分、“救世主”の噂のことだ。

 誘拐の事件の印象が強烈で忘れていたが、ワイバーン討伐作戦の時に、その噂をかき消すって話をされたんだった。


「覚えてます」

「そうか。……で、だな。実は、その約束を守り通すのが難しい状況になってしまったんだ」


 え? 難しいって……どう言うこと?


「な、何故ですか?」

「救世主の噂”のみ”であれば、正直なところそこまで苦労はなかったんだ」


 王様の話によるとこうだ。


 まず、彼がもみ消すというのは『聖騎士長を倒した黒髪黒目の少年』の噂。それは、とても人気があり、有名なものだった。


 しかし、それをもみ消すための作戦があったと言う。


 そもそもの話、その救世主を見た者は、聖騎士長が倒された闘技場に居た者達だけ。それも1度きり。


 時間が経ち、その噂は不確かなものになっていた。


 しかし、ワイバーン討伐作戦の際に再び現れた救世主。そこが狙い目。


 確かに王様は直々に、救世主が協力を申し出たと宣言したが、“その容姿については触れていない”。


 討伐作戦が終わった後、生還した兵士を装わせ、『偽の救世主の容姿』を酒場などを通して国中に広げる。

 そうして、あやふやだった『前の情報』に、『偽の新しい情報』を乗せることで、噂の内容を俺カイトから遠ざける。

 それが作戦だった。


 しかし、問題が生じてしまった。


 俺が所属した救出部隊には、救世主の容姿に関しては箝口令が王命で出されていた。

 しかし、その箝口令が出された後に、入隊したのがワイバーンに襲われた村出身だと言う女性、ポルア。


 なんと、彼女にはその箝口令が伝わっていなかった。


 ワイバーン討伐作戦の救出部隊から生還した彼女は、当然の如く持ち上げられた。その際に、俺のことを話してしまったらしい。


 だが、まだ終わりでは無い。


 負傷し、死を悟っていた兵士たちの前に現れた白髪の“少女”。そっちもそっちでかなり有名な噂になっている。


 問題は、それが少女……つまり『子供』であること。そして、救世主も少年……つまり『子供』。

 この共通点が、『子供』というワードを根強いものとしてしまった。


 一応、“救世主は大人だ”と言う偽の情報は流した。


 しかし、ポルアが元の情報と、新しく登場した もう1人の『子供』の噂。


 それらと、元々あった噂が合わさった結果、『黒髪黒目の少年と白髪の少女』と言う新たな噂が誕生してしまった。

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