54話 初めての冒険 3
やれやれ……一次はどうなるかと思ったけど、何事もなく終わって良かった。
そんな事を考えながら俺は3人の後ろを歩く。
狼と出会った後、無事討伐依頼数分の大ネズミを狩る事が出来た。しかし、すでに日が暮れてしまったため、もう一晩野宿する事になったのだ。
今は昨日野宿した場所に向かっている。そろそろ目的地付近へ到着するだろう。
「……ん?」
しかし、昨日とは明らかに状況が異なる。
その方向から男達の笑い声が響き渡り、その中に微かに女性の助けを求める声が聞こえる。
これは……。
ジーフさん達と目で合図を取り合い、物音を立てないよう木の陰から覗き込んだ。
そこから見えたのは、汚らしい身なりで腰に剣を取り付け、高笑いしている男性達。
「……盗賊だ」
大きな焚き火の周りで酒盛りをしている。
焚き火の向こう側に荷馬車が見えた。数人の男が、その中から女性を乱暴に引っ張りだしていた。
飛び出して助けようかと思ったが、ジーフさん達の事もあるのでグッとこらえる。
昨日見つけた足跡などの形跡はこいつらのものだったのか。どおりで多いと思った。
「……逃げるぞ。気づかれないようにな」
小声でそう指示が聞こえたので、ゆっくりと後ろに下がる。
しかし、前ばかりに集中していたので後ろへの警戒を忘れていた。
「誰だテメェら」
後ろから男の声がした。
ハッとし後ろを振り向くと、そこには剣をこちらに向けた男が数人立っている。
「覗き見か? 行儀の悪りぃガキには仕置が必要だな」
「くっ!」
ジーフさんとラングさんが剣を抜こうとした。
「やめとけやめとけ、テメェらみてぇなガキが数人集まっただけで、俺たちに敵うと思うのか?」
前には数人、後ろには数十人の盗賊がいる。戦力差は明白だろう。
だが、俺がやれば多分一瞬で片付く。
そう思い、手をかざそうとしたが……。
「ミウちゃん、ダメだ。抵抗すれば殺される」
「え……」
ジーフさんに止められてしまった。
「そうそう。ガキはおとなしく大人に従ってろ」
男はへらへらと笑いこちらへ近ずいてきた。
そしてこちらの武器を取り上げていき、俺の目の前で動きを止めた。
「お? お前なかなかの上玉じゃねぇか。金持ちの変態どもが高く買いそうだな」
とてつもなくイラッとした。
この時にまた顔に出てしまったのだろう。目の前の男の目が鋭くなった。
「あ? なんだその顔は」
そう言うなり男は俺の頰を叩いた。その場で踏ん張り、男を睨みつける。
口の中が切れたようで、血の味がした。
「ほー……まだ懲りないのか」
男は再び手を振りかぶった。
「やめて! この子に手を出さないで!」
ミゼリアさんが俺をかばい、ジーフさんとラングさんが前に出た。
俺を守ってくれた……?
「おーおー仲間思いなこって。まぁいい、おとなしくしてりゃあ今は何もしねぇよ」
男達は縄を取り出して縛り始めた。
「お、お前いいもん持ってんな」
背の後ろに隠していた魔杖が見つかってしまった。誰も見ていないタイミングで収納しようとしたが、間に合わなかった。
ここで無理に収納してしまえば、ジーフさん達に力がバレてしまう。
「なかなかの上物だ。お前みたいな貧相なガキにはもったいないぜ」
男が魔杖に手を伸ばした。
「触るな」
男の手がピタリと止まった。
「汚れるから……触るな」
「……あ? なんだ……っ!?」
この時の俺はどんな顔をしていたのだろう。両親からのプレゼントを汚されたくない。その一心だった。
しかし……。
「う、うるせぇ! ガキのくせに指図するな!」
強引に魔杖を奪われてしまう。
……。
男に掴みかかろうと、右手に力を込めた時だった。
「抑えて! ミウちゃん!」
ジーフさんに再び制止を受けた。
ハッと我に返った。ここで感情に任せて暴れてしまっては、彼らにも被害が出てしまうかもしれない。
盗賊程度に負けるとは思えないが、何があるかは分からないのでグッと抑える。
ここはこらえよう……。
「……はっ! なんだよビビらせやがって」
その後、俺たちは縛られて荷馬車に押し込まれた。しばらくは男の笑い声が聞こえてきたが、その声も聞こえなくなり荷馬車が動きだした。
奴らの本拠地にでも向かっているのか。
荷馬車の中には俺たち以外に、ボロボロの男女が数人いた。男は縛られ、女性は見るに耐えない姿になっている。
中には息をしているかも分からない人も……。
ジーフさん達は震えていた。この状況では無理もないだろう。
「……だ、大丈夫だ……逃げるチャンスはきっと……」
ジーフさんが必死に励ますが、2人の顔は晴れないまま、荷馬車は止まった。
外へ連れ出されると、そこには木造建築の建物があった。それなりに大きい。
「おら、さっさと入れ」
俺たちはその建物の地下に連れていかれた。
そこにあったのは牢屋。中にはかなりの人数が入れられている。
俺達はその中に入れられてしまった。
「ねぇ……私たちどうなるの……?」
「分からない……」
「で、でも大丈夫さ……逃げるチャンスはきっとある……」
俺がここを吹っ飛ばしてもいいが、ただの平民ではないとバレるのはのは避けたい……。
今はおとなしくするしかなさそうだ。
数時間たった。まだ特に動きはない。
だが、見張りの男が出て行き、別の男が数名入ってきた。
その男には見覚えがある。
「よぉクソガキ」
あの時、俺たちを縛ったあの男だった。なにやら苛立っている。
「昨日はよくも、生意気な態度をとってくれたな」
昨日……と言うことは夜を越したのか。
男は歯を食いしばって怒りの表情を見せた。
「お前のあの目を思い出すと、イラついて仕方がねぇんだよ。だから、お前には自分の罪を分からせに……」
「うるさいよ」
反射で言い返してしまった。男の顔がみるみる赤くなっていく。
「テメェ! 黙って聞いてりゃいい気になりやがって!」
「……黙ってないし」
また反射で言い返してしまった。
「っ……! 上等だ! 女に生まれたことを後悔させてやる!」
男が俺に掴みかかって来た。
それに対して魔術を使……おうとした時だった。
「ダメ! やめて!」
間にミゼリアさんが飛び込んできた。
「えっちょ……」
慌てて魔術の発動を抑えた。あのまま撃っていればミゼリアさんごと吹っ飛ばしていた。
「っ! そういやテメェ昨日も邪魔しやがったな!」
男はそう怒鳴るとミゼリアさんの腕を掴んで他の男の元へ引きずっていった。
「先にテメェから後悔させてやる!」
男達は抵抗するミゼリアさんを押さえ込んだ。
「やめろぉ!」
「やめてくれぇ!」
ジーフさんとラングさんは必死に叫んでいる。俺はどうするべきか悩み、オロオロすることしか出来ない。
そして……。
「暴れんじゃねぇこのアマ!」
男はミゼリアさんの顔を殴った。
「っが……」
鈍い音と共に彼女の悲鳴が聞こえた。それと同時に、俺は立ち上がった。
もう、実力がバレるとかどうでもいい。
今はパーティのみんなを、無事にここから出すことを優先する。
……というか、最初からそうすれば良かった。
俺は身体強化をかけ、手を縛っているロープを引きちぎった。
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