55話 初めての冒険  4



「やめろぉ! やめてくれぇ!」


 ミゼリアが賊に取り押さえられてしまった。

 このままでは昨日の夜に見たあの女性達のように……。


 このパーティのリーダーとして、それは絶対に許せない。

 だが、手足は縛られてまともに動かせない。


「いやぁ! やめて!」

「っ! 暴れんじゃねぇこのアマ!」


 抵抗するミゼリアを男が殴った。


「がっ……」


 殴られたミゼリアと目線があった。

 その目は見開き、涙を流して苦痛を訴えている。


「や、やめてくれ……」


 その目を見ていると、足から力が抜けていった。

 痙攣して動かなくなった彼女の服を男達が破り始める。


 もうダメだ……。


 そう思った時だった。

 突然横にいたミウちゃんが立ち上がった。

 そしてなんと両手を広げ、縛っていたロープを引きちぎったのだ。

 続いて足のロープにも手を掛け、引きちぎった。


 彼女は無言で男達の元へ歩いて行った。

 その時の彼女の目は、別人と思うほど怒りに満ちていた。


「……あ?」


 男達の1人が彼女に気がついた。


「なんだ? おい、あいつロープを……」


 ミウちゃんは男達の数歩前から助走をつけ、拳を振りかぶった。そして……。


 ズドンッ


 鈍い音が響き渡ると同時に、男が1人吹っ飛んだ。

 その男は空中で数回転し、壁に激突。地面に落ちた男はピクリとも動かない。


「な、なんだテメッ……」


 声を荒げた男に彼女は再び拳を振るった。

 男はその場で反転し、頭部が地面に叩きつけられる。

 残ったのはミゼリアを殴った男だけだ。


「な、なんなんだテメェは……」


 その男はガタガタと震えていた。

 ミウちゃんはその男を見下ろしている。すると、男が腰のナイフに手をかけた。


「死ねやクソガ……」


 ナイフを彼女に向けて振りかぶったが、その振りかぶった手を、火の玉が包み込んだ。


 男の悲鳴が響く。その火の玉に包まれた右手は真っ黒になっていた。

 そして、男は彼女見ると今度は頭を下げて許しを請い始めた。


「ゆ、許してくれ! もうあんたらには手を出さない!」


 その様子を彼女は黙って見ている。


「もう賊を抜ける! ちゃんと真っ当に生きる!」

「……」

「もう人は殺さない……だから、命だけは……」


 その言葉を聞いた瞬間、彼女の表情がさらに険しくなり、そしてゆっくりと手を男にかざした。


「お前は命乞いを聞いたことある?」


 彼女がそう言い捨てると、凄まじい勢いの炎が男を包んだ。

 その跡には真っ黒に焦げた塊が転がっている。


 彼女は痙攣しているミゼリアを抱え、こちらに歩いてきた。そして、彼女をそっと俺とラングの前に置いた。

 ミゼリアの顔は、右反面が大きく腫れ上がっていて、流血もしてしまっている。


 これでは……目が見えるかどうかも……。


「ごめんなさい……ミゼリアさん……」


 彼女はそう呟き、ミゼリアの頭を撫でた。

 すると、なんとミゼリアが意識を取り戻したのだ。


「ぁ……ぅ……ミウ……ちゃん?」

「ミゼリア!?」

「気がついたのか!?」


 ミゼリアは目を覚ましたが、まだ意識が朦朧としているようだ。

 彼女はゆっくりと視線を移しミウちゃんを見つけると、腫れ上がった顔で弱々しく笑顔を見せた。


「あ……ミウちゃん……無事だったのね」

「……ミゼリアさん、助けてくれて……ありがとうございました……」

「いいの……気にしないで……」


 ミゼリアは笑顔で返す。だが、呼吸が浅い。

 このままでは危ない。


「このままじゃ危ない。急いでここを脱出しないと」

「……待ってください」


 立ち上がるも、ミウちゃんに止められてしまう。

 彼女は少し悩むような表情を見せたが、すぐに意を決した表情に変わった。


「……皆さん。今から私がする事を見ても驚かないでください」


 彼女はそう言い、ミゼリアの手を両手で握った。

 そして静かに目を閉じた。すると、俺達の足元に魔法陣が出現する。そこから、暖かい風が吹い来ていた。


「こ、これは……?」


 その風に当たっていると、今まで感じていた疲労感がすっと消えて行った。

 そして……ミゼリアの傷が瞬く間に治って行き、数秒とかからずミゼリアの傷は完治してしまった。


「あ、あれ? 痛くない……」


 なにが起きたか分からず、ただ見ていることしかできない。


「……あ! ふ、服が……!」


 彼女はすぐに、自分の服が破かれている事に気がついた。


「ミゼリアさん。これを……」


 彼女のその言葉と同時に、黒い布がミゼリアの上にふわりとかぶさった。

 今、一体どこから出したんだ?


「ごめんなさい……それくらいしか……」

「い、いえ……助かるわ。ありがとう」


 ミゼリアは戸惑いながらもそれを羽織った。


「とりあえず、はやくここから出ましょう」


 ミウちゃんは鉄格子の方へ歩いて行った。

 しかし……。


「鍵……かかってる」


 やはり鉄格子の扉には鍵が掛かっていた。

 だが、鍵ならあの男達の誰かが持っているはず。1人は消し炭になってしまったが……。


「ちょっと待ってくれ、鍵を探してみる」


 まず、地面に頭をめり込ませている男の服をまさぐった。

 しかし、鍵は見つからない。


「クソ……」


 はやくしなければ、騒ぎを聞きつけた他の賊が来てしまう。

 次に壁に叩きつけられた男の服をまさぐる。すると、鍵束を見つけた。

 叩きつけられた衝撃からか、数本曲がってしまっている。


「ミウちゃん! 鍵を見つけ……」


 俺の言葉を遮るように、けたたましい音が鳴り響く。

 その音の方向を向くと、ミウちゃんの前方の鉄格子が大きくひしゃげていた。


「開きました。皆さん行きましょう」

「あ、ああ……」

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