49話 魔術試験



 剣術試験が終わり、魔術試験の招集が始まった。当然俺もその招集に応じる。

 だが、集まっているのは2人。俺を含めても3人しかいない。


 そういえばこの世界は魔術を使える人って少ないんだっけ? にしても少なすぎる。剣術試験は50人くらいいたよ?


 やはり会場への案内は会長がした。

 いくら浅いとは言え怪我をしているのに、たくましい人だ。


 案内された先には大きな岩があった。

 その岩にはなにやら、焦げたような跡だったり削られたような跡がある。


「今からこの岩に向け、1番得意な魔術を撃て! その威力で審査をする!」


やっぱりそういう事か。あの跡は魔術によってできたものだったのだ。


「では試験を始め……」


 腰のカバンから紙を取り出した会長が、俺を見て少し複雑な顔をした。


「えっと……まずはミウ、貴様からだ」

「あ、ぼ……私から、ですか」


 俺は一歩前に出た。得意な魔術か……炎魔術でいいや。


 しかし、魔術を発動させようとした時、会長に呼び止められた。


「待てミウ、なにか嫌な予感がする。貴様は全力の半分の魔術を撃て」


 ……え、半分って事はLv3の魔術?

 それでもかなり威力あるから、Lv2くらいにしようと思ってたんだけどな。あと全力の半分って事は、そこそこ強い魔術にしなきゃダメ?

 まぁいいか。言う通りにしよう。


 というわけで、“炎弾”と言うそこそこ強い炎魔術を、Lv3で撃った。


 凄まじい爆音が響き渡り、炎弾が直撃した大岩は粉々になってしまった。


「これで、半分くらいです……よ?」


 会長の方を向くと口を大きく開けて固まっていた。他の受験者も同じだ。


「……あの」

「む……む、無詠唱……はっ。う、うむ……ご苦労だった」


 会長は気まづそうな顔をしながら、頬を掻いている。


「えっと……貴様ら、これはこの娘がおかしいだけだ。決して、これが普通だと思わないように」


 他の受験者にそう告げると、今度は俺の方を向く。


「ミウ、応接室で待っていてくれ」

「……あ、はい。分かりました」


 その場にいた他の職員に連れられ俺は協会に戻った。

 そして応接室に通されお茶を出された。


 なんで俺ここに連れてこられたの? まさか、暴れすぎた?


 そんなことを考え、数十分経った。まだ誰もこない。


「……」


 俺は黙ってボーッとしていた。


「いつまで待てばいいんだ……ん?」


 すると部屋の外から、会話をする声が聞こえてきた。なにを言っているかは分からないが会長のようだ。

 もう一方の声にも聞き覚えがある女性の声だ。最近聞いたような気がするけど……。


 ドアがノックされ会長がこちらを覗いた。


「ミウ、待たせたな」

「……いえ、大丈夫です」


 会長が部屋に入るともう1人の女性が部屋に入った。


「あんたがミウね」


 その女性は茶髪でこめかみの辺りに勾玉の髪飾りをしている気の強そうな人で、ついこの間会って話をした人。


「ミフネさん!?」


 その女性は王都で会った“ミフネ・ヤマト”さんだった。


「あれ? ミフネさんお知り合いですか?」


 会長は驚いている。なんだか、雰囲気も違うし口調も違う。


「いや、全く知らないわよ。あんた、どっかで会ったっけ?」

「え? ……あ」


 そうだった。今の俺はミウの姿(以後、この姿をミウと呼ぼう)なんだった。


「あー……えっと……」

「なに? はっきり言いなさいよ」


 言い逃れ……はもうできないな。仕方ない……正直に言おう。


「僕、カイトです。王都で会った……」

「……はぁ? 何言ってんのあんた」


 まぁそうなるよね。


「あんたとあいつの関係は知らないけど、カイトって奴は黒髪黒目であんたとは正反対よ。そもそもあんた女じゃない」

「え……黒髪黒眼って、あの……?」


 信じてもらえない。分かってたけど。あと、会長が驚いてる。多分、聖騎士長アレ関係でだ。


 今更『やっぱり何でもないです』なんて言えないしな。仕方ない、元の姿に戻ろう。


「……それじゃあ、少し待って下さい」


 俺は身体操作で元の姿を思い浮かべる。すると、元の“カイト”の姿に戻った。


「……これでどうですか?」


 その様子を見た2人は目を見開いて驚いている。


「あ、あんた……ほんと意味が分からない……」

「……!? ……!?」


 ミフネさんは頭を抱えてため息をついている。会長は何度も目をこすっている。


 とにかく、これで俺はカイトだって証明できた。

 だが、2人はしばらく黙ったままだった……。



「はぁーもういいわ。あんたの事で頭抱えてたらキリがない。で? 何でこんなとこにいるわけ?」


 ため息をつかれたと思ったら、ミフネさんにそう尋ねられた。

 徴兵されたくないから冒険者になりに来た。と説明する。


「……ということで、冒険者試験を受けに……来ました」

「いや、あんたが冒険者になったら、とんでもないことになるわよ……」


 するとミフネさんはまた、ため息をついた。


「ねぇ1つ良いかしら?」

「は、はい……なんですか?」

「あんたさ、徴兵されたくないから冒険者になるんでしょ?」

「? はい」


 な、なに……? なんか、呆れられているような……。


「それなのに偽名で登録しちゃったら、意味ないんじゃないの?」


 ……あ! 確かにそうだ!!


 その事実に気が付き、俺は頭を抱えた。


 『ミウ』と言う偽名で登録したら、『カイト』は未登録のままだ。おまけに今は女の子の姿だし……それじゃあ、冒険者に登録してもなんの意味もない。


「会長! 僕の名前、カイトに変更できませんか!?」


 慌てて会長にそう訊く。突然話しかけられ、彼女も慌てている。


「えっ……と……すみません。もう、ミウで登録を済ませてしまいました……」


 どうやら、もう手遅れのようだ。

 どっどうしよう……これじゃあ、徴兵されちゃう……。


「ま、別にいいんじゃない?」


 すると、悩んでいる俺へミフネさんがぶっきらぼうにそう言った。

 別にいいって……俺の事はどうでもいいのかな?


「要するに、そのミウって言う登録を、あんただって証明できればいいんでしょ?」

「……?」


 あれ?


「あんたって1回王室に忍び込んだらしいじゃない。だったら、徴兵された時に国王ライナに直接証明してやれば良いのよ。あたしらにしたように、目の前で姿を変えてね」


 どうやら、俺のことはどうでもいいと言うわけではなさそうだ。解決策を提案してくれた。


「でも……それで大丈夫ですか?」

「まぁ正直、普通だったらダメでしょうね。でも、国王ライナはあんたのこと相当気に入ってたみたいだし。大丈夫でしょ」


 王様が俺のことを気に入ってる?


「気に入ってるって……どういうことですか?」

「なんて言ったかしら? あんたの提案した馬具」


 鎧あぶみのことかな?


「あれは良い案よ。おかげでこの国の騎士達のほとんどが、馬に乗れるようになったわ」


 あ、採用されてたんだ。鎧あぶみがあるだけで安定感が相当違うからね。


「それのおかげで今まで手が出せなかった事ができるようになった。それに比べたら、冒険者登録の証明の1つや2つ、大目に見てもらえるでしょ」


 そ……それならよかった……。あの時、鎧あぶみを選んで正解だったね。


 ひとまず、徴兵に関してはなんとかなりそうだ。


「あ……あの、少し良いですか?」


 すると、話がひと段落したのを見計らってか。会長が弱々しく話しかけてきた。


「なによ?」

「……あの、彼女……彼? とは、どういう関係で……」


 ……さっきから思ってたけど、なんか性格変わってない?


「あー、それはね……」


 今度はミフネさんが、王都での出来事を説明を始めた。


「そうだったんですか……」

「ええ、だから魔術に関しては化け物だから、気にしたら負けよ」

「剣術でも負けました……」

「は? 剣術試験も受けたの?」

「はい……」

「意味分かんないわ」


 2人は俺を横目にそんな事を話している。

 やはり仲は良いようだ。


「あの、お2人はどういった関係なんですか?」


 気になったので聞いてみた。


「ああ、あたしとセオトは同じパーティなのよ」


 同じパーティ? どういう事?


「ミフネさん、それだと説明不足過ぎますよ……」

「じゃあ、あんた説明してよ。説明あたしより上手いんだから」

「で……では私が」


 この人本当に、あの会長なの?

 試験の時と雰囲気が違いすぎて少し混乱する。


「ミフネさんやコウさんを含め、私達は現在も“ハンター”のパーティなんです」


 ハンター……って、冒険者よりも上の?


「そ、そうだったんですか……でも、どうしてハンターの方が、会長を?」

「それは、それが“国王からの指名依頼”だからです。試験の前に説明した事は覚えていますか?」


 覚えている。『ハンターになれば実力は確かだから、国からの指名依頼なども貰えるが……』の事だろう。


「私達は“冒険者制度”が始まる前からハンターをしていて、ライナ国王様からの“王国騎士団の各隊長に就任、ハンター協会の会長への就任”という『指名依頼』を受けている真っ最中なんです」

「最高ランク? という事は……」

「あたしとコウとセオトは、Sランクハンターよ」


 それは凄い。あの説明からハンターとして高ランクを目指すのはかなり難しそうだったけど。

 ん? ……そういえば。


「ミフネさんとコウさんは倭国出身なんですよね? という事は会長も?」

「覚えてたの。ええ、セオトも倭国人よ。漢字は瀬に音で“瀬音“よ」

「え、漢字が分かるんですか?」

「い……一応……」


 ここで話が区切れ、ミフネさんが大きくため息をついた。


「ふぅー……しっかし驚いたわよ。たまたま近くに来てたら、職員が『会長が呼んでるのですぐ来て下さい』なんて言ってくるんだから」


 そういえば、なんでミフネさんがここにいるのか聞いていなかったな。


「どうして、ミフネさんを呼んだのですか?」

「あ……えっ……とですね……えー……」

「どーせ、いつもと同じく『強い人と話すの怖いから一緒にいて』って理由でしょ」

「ちょっ……ミフネさん!?」

「えぇー……」


 会長は赤面している。どうやらそういう事らしい。


「でも、試験の時の会長はすごく……」

「あれ演技よ。こっちがセオトの素」


 会長を見ると先程よりも顔を赤くして、プルプルと震えている。


「だ、だって仕方ないじゃないですか! こんな性格じゃあ、冒険者志望の人とか職員の人とかに舐められちゃうんですもん!」


 そ、そうなんだ……。


「本当は、今日の最初の男の人みたいな人の相手するの、凄く怖いんですぅ……」


 会長はめそめそしている。もはや別人。


「にしても、よくあんたがあんな大声をだせるわね。秘訣とかあるの?」

「あ……えっと、とある人を参考に……」

「へぇ、誰よ」

「あ、いや……」


 話がずれ、2人が個人的な会話を始めてしまっている。話を戻さないと。


「あの……僕の試験結果はどうなったんですか?」

「あ、すっすみません」


 会長はハッとして、カバンから紙を取り出した。


「まぁ、剣術で私に勝った時点で、決定でしたが……」


 会長は苦笑いをしながら俺へ目を向ける。

 咳払いをし、表情を試験の時の様に強気なものへ変えた。


「ミウ。剣術試験、魔術試験、共に合格。かつ、高成績によりBランク冒険者に認定する」

「あら? 羽振りが良いじゃない」


 ミフネさんが話しかけると、表情がヘナり、元に戻ってしまった。


「実力の半分の魔術であの威力……それにSランクハンターの私に剣術で勝ったんです……正直、Sランクから始めてもらっても良いくらいです。……でも、ちょっと……Bからで……すみません……」

「いえ、大丈夫です……」


 きっと立場的にBが限界なのだろう。特に文句もないので何も言わない。


「では冒険者カードの発行を……」


 この後は軽い手続きなどの話をして試験は無事、全て終了した。


 2人に別れを告げて家に帰り、合格した事を両親に伝えた。

 そして、両親はその夜は盛大にお祝いしてくれた。とても嬉しかったです。

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