48話 剣術試験


「それではまずは剣術試験を行う! 丸をつけた奴はついてこい!」


 会長の大声で大勢が動き出した。

 慌てて俺もついて行く。少し歩くと目的地に到着した。


「ここが試験会場だ!」


 そこは外だった。

 コウさんと手合わせした時と同じような演習場で、石畳で綺麗にならされている。


「先に言っておくが、この試験は剣術と言ってはいるが別に何を使っても構わん! 事前にパーティを組んでるのならば、全員で協力しても構わん! 自分が最も得意とする戦術ならば卑怯だろうと構わん! 1番実戦に近い形で試験官に挑め!」


 周りから『それで良いのか?』と聞こえてきた。


 これは、経験したことだから分かるが、森の中では不測の事態に陥りやすいし、当然戦い方のルールなど無い。

 だから“正々堂々”より“実戦に近い”を優先しているのだろう。


「試験官は私だ! では名を呼んだ者から前に出てこい! パーティがいるならそいつと出てこい!」


 会長が腰の鞄から紙を1枚取り出し名を呼んだ。すると大きな大剣をもった男が前に出た。

 だが、その男の様子はおかしい。その男は会長を鼻で笑い飛ばした。


「おい、テメェなめてんのか? もっと強そうな試験官を連れてこいよ」


 あ、テンプレ展開だ。


「テメェみたいなきゃしゃな女が試験官だ? ふざけんじゃねえよ」


 見た目で判断する人だ。この展開はラノベでよく見た。


「……フン」


 それに対して会長は鼻で笑い飛ばし返して、挑発的な表情をしている。


「ではこうしよう。頭の悪い貴様が、そのきゃしゃな私に勝てたらAランクから冒険者を始めさせてやろう」

「……あ? ふざけてんのか?」

「ふざけてなどいない。ほら、ハンデだ。私はここから一歩も動かん。先制も貴様にくれてやろう。そして貴様が攻撃するまで、この刀は抜かん」


 男は少し困惑しているようだが、同時に怒り出しているのも分かった。


「それとも、頭の悪い貴様はまだハンデが欲しいのか?」


 その一言で男はキレてしまったようだ。


「ふ、ふざけんじゃねええ!」


 会長に向かって走りだし、大剣を振り下ろした。

 会長は直前まで一切動かなかった。大剣が石畳に直撃し、大きな音が鳴る。


「……!」


 だが、会長にまっすぐ振り下ろされた大剣は、真っ二つに両断されていた。


 一方は男の手にあり、もう一方は会長の背後の石畳にめり込んでいる。彼女はその両断された刃の間に立っていた。

 彼女は直前に言った通り、全く同じ位置に立っていたのだ。


「……っ! ……っ!」


 男はパクパクと口を動かして驚愕していた。

 会長は鋭い目つきで男を睨みつけた。


「こんな軽い挑発に乗るとは……貴様は本当に頭が悪いな」

「な、なんだ……と」

「冒険者の依頼の中には、盗賊討伐の依頼もある。いちいち挑発に乗っていたらキリがないぞ。冒険者の戦闘において大切な事は自分の力を過信せず、確実に勝てる戦術を見出す事だ」


 そして会長は目を見開き声を荒げた。


「冒険者を舐めるなぁ!!!!」


 男は尻餅をついてしまった。あの気迫を前にしたら仕方ないだろう。


「失せろ。貴様は不合格だ」

「なっ……」

「当たり前だろう。それとも? 今、私にぶった斬られたいのか?」


 そう言って会長は刀の柄に手をかけた。


「っ!? ち、ちくしょう!」


 男は走り出して会場の外へ走っていってしまった。


「では次の者にいくぞ!」


 会長は何事も無かったように次の人の名前を呼んだ。


 ……あの人だけは敵に回さないようにしよう。


 その後は何事も無く、試験が続いた。

 中には複数人で戦った人もいたが、誰一人として会長に勝った者はいなかった。


 それに加え、会長はまだ一度も刀を最後まで抜いていないのだ。

 あれだけ長いと抜く方が面倒なのだろうか? ……だったら、元から使わないか。

 きっと、最後まで抜くまでもないと言うことだろう。


「次っ!ミウ、前に出てこい!」


 ついに名前を呼ばれた。

 刀を持って前に出る。周りはざわつくがもう慣れた。


「……」


 会長も俺の事をまじまじと見ている。やはり珍しいのか…それとも子供だからか?


「……あなt……き、貴様も刀を使うのか!」


 今一瞬“あなた”って言わなかった? それを隠すように大声を被せてたけど。

 ……触れないでおこ。


「あと、貴様は魔術も使えるらしいが本当なのか?」

「……はい。使えます」

「そうか。ならば何故、剣術試験も受けるんだ?」


 やっぱりそこか……


「えっと……刀でも戦える、ので……両方に」

「……ふむ、そうか。だがな、両方中途半端が1番ダメだ。剣術が未熟と判断すれば、即不合格だぞ。では始める」


 そう言い会長は柄に手を添え、構えた。

 が、俺は1つ疑問を抱いた。


「ね、年齢は聞かないんですか?」


 俺はどう見ても子供だ。なら、この年齢で冒険者になろうとしている事を流すとしても、『その年齢で両方を扱える程訓練できているのか?』みたいな事を聞かれると思ったんだけど。


「冒険者に年齢など関係ない。実力が全てだ。 

……子供とは言え、働き口がないと困る者もいるからな。まぁ、その場合は別の試験を受けてもらうがな」


 あ、もしかしてそれが“質問試験”なのか?

 だから、試験を受けに来たって言った時、かわいそうな目で見られたのか。


「安心しろ、こちらの試験を受けに来たという事は、戦う術を持っているということ。ならば、私は手を抜かず迎え撃ってやる」


 そう言うと、彼女は少しだけ寂しそうな目をした。


「実力が見た目で判断できない事は、私も身をもって知っているからな」


 どうやら、彼女なりの苦労があるようだ。

先ほどの男のように扱ってくる連中が多くいたのだろう。


「無駄話はここまでだ。試験を始めるぞ!」


 俺はハッとして柄に手をかけた。


「もし、戦闘の経験があるならそれを思い出せ! 私を狩るつもりでかかってこい!」


 狩る……か。森での生活以来だ。

 俺は大きく息を吸い、ゆっくり吐いた。


 『相手を狩る』


 そう思い浮かべた瞬間、スイッチが入ったような感覚がした。


 それと同じタイミングで、会長の表情が変わった。

 彼女は柄を握るとさやを素早く後ろへスライドさせ、3メートルほどの刀身を全てあらわにした。


 身体強化をかけ、会長へ向かって突っ込む。


 そのまま両手で刀を思い切り振り下ろした。

 会長はそれを刀で受け止めた。歯を食いしばっている彼女の顔が見える。


 俺は彼女の顎目掛けて蹴りをくりだす。彼女はそれをギリギリで避けた。

 着地し、そのまま彼女の腹部へ刀を突き出す。

 それに対して彼女は、俺の手を叩いて軌道をずらした。

 バランスを崩した俺に迫る長い刀身。避けられないと判断し、瞬間移動で彼女の背後に移動。そのまま横薙ぎ。

 しかし、距離を見誤って空振ってしまった。


 俺の刀は普通より短いので、それなりに近づかなければならない。


 今度は会長が体を回転させて横薙ぎ。

 直撃する一歩手前、また瞬間移動で背後へ回り込み、刀を縦に振った。


「そこまで!」


 会長の声が響いた。その声で我に帰る。


「やるじゃないか。私の負けだな」


 そう言い会長は腹部を見せてきた。その部分の布は一直線に切れ、血が滲んでいる。


「あ……す、すみません」

「安心しろ、傷は浅い。それに“狩る気で来い”と言ったのは私だからな」


 彼女は腰のカバンから包帯を取り出し、手際よく応急処置をした。


「よし、戻っていいぞ。貴様は魔術試験もあるのだからな」


 一礼をしてさっきいた辺りに戻った。


 しかし、なんだったんだ?

 会長を獲物に重ねて見た瞬間に、我を失って戦っていた気がする。


 思い出したらなんか怖いな。要するに自分を抑えられなかったって事でしょ? 気をつけないと。


 ちなみにこの後、ステータスを確認したら精神系スキルに“狩猟本能 Lv1”が追加されていました。

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