第23話 暇との戦い


「やることがもう無い!」


 ここに来て3日。もう暇を潰せるものは無い。


 持ってきた物の整理は終わったし、骨や牙には全て装飾を施したし……。

 文字が読めないから本も読めない。この世界の玩具的な物もあるが、1人で遊んでも正直全く面白くない。


 エアリスさんはよく俺の話し相手になりに来てくれる。でも、領の仕事があるのかずっと一緒にいるわけにもいかないみたいで、今はここに居ない。


 ティカさんは、俺のことを気遣ってくれて、直接会わないよう部屋のすぐ外で待機してくれている。用があれば呼ぶように言われていた。


 グレイスさんも気にかけてくれるが、やはり領主だからか頻度はエアリスさんに比べると少ない。

 ティカさんを呼んでも良いけど話すこともないし、正直怖い。


 今はちょうどエアリスさんもグレイスさんも席を外している。


「何か……暇つぶしできる事は無いかな……」


 と言っても、今あるものではもう限界だ。何か考えないと……そうだ。


「確か……」


 収納部屋からあるものを取り出す。

 鉢と土、そして植物の種だ。


 種を鉢に植えて自然魔法を使い、成長させる。鉢からは独特な形をした植物が生えてきた。


 これは薬草だ。


「何か……ポーションでも作ろ」


 だが、これだけでポーションを作っても、ただの痛み止め程度にしかならない。

 いつも作っている回復ポーションは、この薬草と他にいくつかの薬草、そして俺自身の魔力を少し注いだら完成する。


 ……まぁ、もっと手っ取り早い方法もあるけど。

 綺麗な水に治癒魔法を“付与”すれば良い。


 ただ、それは“回復ポーションのみ”作ってしまうので今回は出番無しだ。


 今作ろうとしているポーションは、頭痛薬とか胃痛薬とか。“怪我を回復するポーション”ではなく“体調が悪い時用のポーション”。

 つまり、『風邪薬』の立ち位置のポーションだ。

 これらは今まで作ったことがないので、薬草の配合とか調べる必要がある。


 はい。暇潰し確保。


 さっそく、様々な薬草を植えては成長させる。これを繰り返して大量の薬草を手に入れた。


 ちなみに、作ったポーションの効果は“ポーション作成(魔法)”で鑑定できる。


 さぁ、暇潰しの時間だ。




 配合を初めて数時間、俺の周囲には十数の空の鉢が置いてある。


 しかし、ポーションとして効果があるものはたったの4つしか完成していない。

 実は、新しいポーションを作るのはかなり難しいのだ。


 今まで作ったポーションだって、使えるものになるまでかなり時間がかかった。


 ……そう考えれば4つは多い方かな?


 出来たものは頭痛、腹痛、関節痛、栄養状態回復に効くポーションだ。


 狙ったものが完成したんじゃない?


 関節痛ポーションに関しては、偶然の産物だ。なぜか頭痛ポーションと腹痛ポーションの薬草のうち、2つずつを混ぜたらこれになった。


 これを続ければ、しばらくの暇潰しは安泰だな。

 薬草はまだまだあるので心配なさそうだ。


 だけど……このポーションどうしようか?


 俺は今まで、風邪を引いた事は1度目の人生のたったの1度だけ。この先、おそらく風邪を引くことはないだろう。


 だとしたら、収納部屋に入れておくのは宝の持ち腐れだ。


「そうだ、ここの人達に使ってもらおう」


 ここで働いている人なら、もしかしたら風邪だってひくかもしれない。それなら是非使って欲しい。


 さっそくティカさんを呼んだ。


「お待たせしました。何でございましょう?」


 彼女は優しい笑顔で話し掛けてくる。

 それだけで少し怖いが、こちらから呼び出したので怖がるわけにもいかない。


「あ、あの……これ……ポー、ション……作った」


 作ったポーションを差し出す。彼女はすぐに受け取ってくれた。


「ありがとうございます。ポーションと言う名の薬ですね。エアリス様からお聞きしております」


 あ、エアリスさん話したのか。じゃあ話は早いな。

 とは言っても、信用されているわけではないと思う。

 下手すれば、『子供が泥団子を渡してきた』みたいに認識されているかもしれない。


 効果をどうにかして証明した方がいいかな?


「あの……体、どこか痛い? ……痛くない?」


 すると、彼女は少し考えた後に答えてくれた。


「そうですね……実は、先日右肩を痛めてしまいまして。それからというもの、腕を上げられなくなってしまいました」


 おお、適当に答えられるかと思ったけど、ちゃんと答えてくれたな。


 実演までしてくれた。確かに、右腕は地面と水平になるところまでしか上がっていない。


 肩か、なら関節痛ポーションで大丈夫かな。


「その……緑の、飲む……きっと治る」


 緑色のポーションを指差してそう言った。


「これを……ですか?」


 少しためらったが、『分かりました』と飲んでくれた。


「肩……どう?」

「どうで……っ!?」


 彼女の腕がすんなり上がる。それと同時に驚愕の表情になった。


「ほ、本当に治ってる!?」


 彼女の腕はきっちり上まで上がっていた。


「痛く……無い?」

「は、はい……まるで今までのが嘘のように」

「……良かった」


 俺はにこりと笑う。

 すると、突然彼女は頭を下げた。


「ありがとうございます! 本当にありがとうございますカイト様!」

「え……あっうん」


 そ、そこまで喜ぶ事だったの? 

 ……まぁ何にせよ、喜んでもらえてよかった。これで、ポーションの効果を証明できたからね。


 それに、今後も色々なものを作って渡すと伝えたので、暇潰しの心配も無いだろう。

 この世界にも流石に風邪薬とかはあるだろうから、あまり需要はないかもしれないけど。

 しかし、即効性には自信がある。


 大量に作る気は無いけど、求められたらその時に作れば良いか。

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