第21話 梨本臨の気持ち②
「え? どうして?」
「だってそうだろ? 絶対に交わらなそうな組み合わせじゃん。一方は唯我独尊発明家で、もう一方は物静かで控えめな読書好き。住む世界が違うっていうか」
「まあ、そう言われればたしかにそうかもしれないわね」
「だろ? だから不思議だなぁって思って」
きっとなにか運命的な出会いをしたに違いない。ここまでの間柄なのだから。
「宮田下くん。いまあなた、私と帆乃がなにか運命的な出会いをして友達になった、とでも思ったでしょ?」
「ど、どうしてそれを?」
「そのにやついた顔とあんたが童貞ってことを考慮すればすぐにわかるわ」
「童貞は関係なくないですかね?」
「関係あるのよ」
梨本さんはやれやれと首を左右に振る。
「童貞はいろんなことに夢見すぎなの。初めての恋人とは運命的に出会うんだ! って初恋に期待するのと同じようにね。そんなんだからいつまでたっても童貞のままなのに」
くっ、図星だ。
たしかに合コンやナンパ、マッチングアプリで恋人を作るのに、なんとなく嫌悪感は抱いてしまっている。
「じ、じゃあどんな風に吉良坂さんと出会ったんだよ?」
「普通に……ってか神待ちしている女の子に声かけて、セフレを探そうとしてる男子並みに思惑ありまくりだった」
「具体的には?」
「私、発明家になるのが夢なの。で、帆乃の家はお金持ち。だから声をかけた。この子と仲よくなっておけば、将来お金に困ったときせびれると思ってね」
「思った以上に汚かった!」
「言ったでしょ。思惑ありまくりって」
梨本さんは目を閉じて、本当に嬉しそうに笑った。
「でも本当に大事なのは、出会いの瞬間や方法なんかよりもその後でしょ? 私は帆乃とずっと友達でいたいと思った。大事にしたいと思った。ただそれだけよ」
「……へぇ、そっか。すごいな」
口から漏れたのは素直な気持ちだった。梨本さんの笑顔を見れば、梨本さんが帆乃と友達になれて本当によかったと思っていることは誰にでも理解できる。
「だからあなたも、きっかけなんてどうでもいいのよ」
「え?」
「クラスメイトとあなたが話してるの聞いたわ。あなたが男女の関係に純情すぎるほどの理想を抱いてるってことを」
まじかよ! 梨本さん別のクラスのはずだろ! 神出鬼没だな! これもしかしてやっぱり盗聴されてるんじゃ?
「男女の関係も友情と同じよ。出会い方なんてどうでもいいの。身体から入ったっていい。なんの問題もない。身体だけ、は少し問題かもしれないけど」
「それは、きっとそうなのかもしれない」
なんで梨本さんがいきなりこんな話を始めたのかはわからないが、彼女の真剣な顔を見て、この場を茶化してはいけない気がした。
「でも俺もそこは譲れない。身体の関係なんてなくたって恋愛は楽しめるはずなんだ」
「帆乃のパンツを見て興奮してるのに? 裸を妄想してるのに?」
「うるせぇ。それは男なんだからしょうがないだろ」
「だったらそのしょうがないに身を委ねればいいじゃない。男なんてそんなもんでしょ」
「そこは明確な価値観の違いだな」
俺は梨本さんにばれないよう下唇をかみしめた。
「それに……俺にはそもそも男としての魅力はないから、このままだと一生童貞のまま過ごすことになりそうだよ」
「たしかに自分を卑下する男に魅力なんてないわね。そういうのやめたら? あなたはかなり……そこそこ……見る人によっては……特殊なゾーンの持ち主から見たらいい男だと思うけど?」
「もはやそれ褒める気ないよね?」
「あるわよ。だって多くの女にモテたって意味がないでしょ。自分を好きになってくれたたったひとりの女の子を愛せばいいだけなんだから」
「お世辞として受け取っておくよ。俺には本当に魅力なんかない。本当の俺を知ればみんな絶望する。そんなしがない男だ」
「……そ」
梨本さんは興味なさげに吐き捨てた。
「ま、あんたの気持ちなんか私の行動にこれっぽちも影響は与えないから。どうでもいいけど、私の言ったことだけは忘れんなよ」
その言葉を捨て台詞に、梨本さんは俺の前から去っていった。
「ったく、好き勝手言いやがって」
さっきの『忘れんなよ』は一体どこにかかった言葉なのだろう。
「俺なんか、絶対無理なんだよ」
俺は拳をググっと握りしめながら、その場に立ち尽くした。
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