第2話 運命の女子トイレ
「……え?」
一瞬、何が起きたのかわからずに、呆然と立ち尽くす。
倒れた女子生徒は、どうやら気を失っているようだ。
心臓発作? 脳出血? 顔が真っ赤。
「おおおおいマジかよ」
ようやく我に返った俺は、とにかく助けないと! と彼女に駆け寄ろうとして――――その足を止めた。
なぜなら。
「……ここ、は」
彼女が倒れた場所は、あろうことか女子トイレの中だった。トイレから出ようとしたところで気を失い、後ろに倒れてしまったらしい。プリーツミニスカートから伸びる脚が閉まろうとする扉のストッパーになっている。
「いや、いまは……でも」
女子トイレだぞ? 俺は男だぞ? 入っていいのか?
「誰か……」
周囲を見渡すが、運悪く他の生徒は誰もいない。
「俺が助けるしか……ないのか」
ごくり、と息をのむ。
大丈夫。大丈夫。
だってこれは人命にかかわることなんだ!
女子トイレにちょっと入ったくらいじゃ誰も攻めない! 緊急事態なんだ!
「……って、こいつ」
俺は倒れている女子生徒に見覚えがあることに気づく。
こいつは同じクラスの
吉良坂帆乃。
休み時間はいつも本を読んでいるような、物静かで無口な女の子だ。
大きな目やすらりとした鼻筋は見るものに大人っぽい印象を与えるが、右目の下の泣きぼくろや小さな口からはあどけなさも感じられる。
肩にかかるくらいの位置で切り添えられた黒髪はさらさらで、なでるととても気持ちよさそう。
身体の方に目を移せば、少なくともEカップはありそうな形のいい豊満なおっぱいと、キュッと引き締まった腰が男の視線をくぎ付けにする。
おしりも程よく大きくてエロい――ってよくみたらスカートがいい感じにめくれて中が見えそうになってるぅ! 内太ももエロっ! なにこの破壊力! 日本には非核三原則があるんじゃなかったっけ?
「……ってこれ」
漫画で見たことあるぞこの展開。
目の前で女子が意識を失い、周囲には運よく誰もいない……。
つまりこれは誰にもばれずに、おっぱいをさわったりスカートをめくったりできる状況ではないですか! 待て待てこれはエロ漫画の知識だった! あぶねーぜまったく。穿った知識に惑わされるところだった!
「ととと、とにかく心臓マッサージは……おっぱいのあたりだよな。AEDを使うなら服を破かないと……」
ああ、だめだだめだ! あらぬ考えが知らぬ間に混じってしまう。俺は人命救助の鬼、人命救助の鬼。彼女の身体には興味がない! とにかく早く助けないと!
よし!
俺は心の中で叫んで、ようやく足を踏み出した。女子トイレの中に入り、彼女の顔の横でしゃがんで、とんとんと肩をたたく。
「大丈夫ですか?」
反応なし。
今度はさっきより少しだけ強く肩をたたく。
「もしもし、大丈夫ですか?」
だめだ。反応がな――
――パシャ!
そのとき、背後で変な音がした。
ぱしゃ?
え、ここはトイレじゃなくてリア充たちの巣窟のナイトプールだった? ぱしゃぱしゃって水をかけあってイチャイチャしてるの?
そんなわけがない。
つまりいまのは、パシャ! という音は――
「まさか……」
恐るおそる振り返ると、そこにはスマホを構えた梨本さんがいた。
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