第21話 黒狼牙・獄
【
ライフ0で動き続ける異常な状態のアナリンの頭上に、そうコマンド・ウインドウが表示された。
刀の力を開放する
だけどその状態でもアナリンには確たる意思があり、
だけど今は明らかに違う。
アナリンの目には意思の光がなく、まるで死人のそれだ。
「ど、どうなってるんだ……」
僕らが困惑している間にも、アナリンの手首からはドクドクと血が
その様子に僕は
アナリンの姿から感じられるのは殺意を超えた破壊の脈動だ。
命ある者としての僕の生存本能が、これ以上ないくらいの危険信号を発している。
まずい……このままここにいたら絶対にまずいことになる。
今すぐここから逃げ出さなきゃ!
だけど、この城内にはまだ王女様とエマさんが隠れている。
2人を置いて逃げるわけにはいかない。
でもこのままじゃミランダを治療することも出来ない。
深く考える余裕のない僕は
そして即座に次の行動を起こした。
「ブレイディー。ミランダをお願い。
そう言うと僕は
この場で武器を持ってアナリンと戦えるのはもう僕しかいない。
他に選択肢はないんだ。
ブレイディーが何かを言いたげにこちらを見上げてくる。
そんな彼女に僕は言った。
「エマさんにも連絡してあげて。王女様を連れて逃げてほしいって」
「君……死ぬ気かい」
「死ぬ気はないよ。でももし僕が倒れてもブレイディーは自分とミランダが無事に逃げることを優先してほしい。お願いだから」
「アルフレッド君……」
「頼んだよ。ブレイディー」
そう言うと僕は中庭から飛び上がり、バルコニーに着地する。
そんな僕のわずか数メートル先にアナリンの姿があった。
アナリンの頭から生える赤い角は、
そして彼女の肌は全身が異様なほどに赤く変色している。
そんな彼女を目の前にしていると、しっかりと歯を食いしばっていないと恐怖で震えてしまいそうになる。
だけど僕がここでアナリンを食い止めないと、中庭のミランダとブレイディーも危ない。
引くわけにはいかない。
僕は腰を落として両足をしっかりと踏ん張り、
「アナリン! ここは通さない!」
先手必勝だ!
僕は思い切り鋭い踏み込みで、最上段に振り上げた
だけど僕の全力の一撃をアナリンは軽々と
「シャアッ!」
そしてアナリンはまるで
「ぐぅっ!」
僕は大きく後方に飛ばされ、バルコニーを越えて中庭の
「くっ!」
アナリンの一撃は途方もなく重く強い。
その衝撃に僕は
まともに食らったら致命傷は避けられない。
それでも僕はすぐさま飛び上がり、再びバルコニーに着地する。
ミランダ達のいる中庭から少しでも遠ざけるために、アナリンをバルコニーの奥に押し込まなきゃならない。
両手の
今持っている力を全て使うんだ。
「
そう
だけどアナリンはそれをものともせず
「カアッ!」
「うわっ!」
そこから繰り出される斬撃は
と、とんでもない威力だ。
少しずれて僕に直撃していたら、ただじゃ済まなかっただろう。
そして相変わらず
僕は必死に頭を働かせて事態の打開を目指すけれど、そもそもライフ0でも動いている状態で
いや、倒せなくてもいい。
せめて皆が逃げる時間を
アナリンは飛んで敵を追うことが出来ないんだ。
時間さえ
そう考えた僕は左手から今度は別の魔法を放射した。
アナリンの胴ではなく足元をねらって。
「
アリアナの力を借りて放った氷の
さっきアナリンに浴びせた凍結剤よりも
だけどさっきアナリンはこの状態から
だから今度は足だけじゃだめだ。
「ふぁぁぁぁぁっ!」
僕は気合いの声と共に
アナリンの腕がその胴と氷結し、動かなくなっていく。
僕はそのままアナリンの体の大部分を凍り付かせた。
「よし!」
手ごたえを感じ取った僕は即座に
一時的とはいえアナリンの身動きを封じることが出来た。
今のうちにミランダとブレイディーを城の外に……。
そう思った僕だけど背後から不気味なバキッという音が聞こえてきて反射的に振り返った。
すると凍りついていたはずのアナリンの右手が、氷を引き裂くように動き出したんだ。
「ア、アナリン……」
アナリンの身に着けている胴着の右腕部分が破れ、氷の破片によってその肌に裂傷が生じて血が
その痛々しい様子に僕は息を飲んだ。
こ、
アナリンの右手に握られている
彼女の腕が傷つくのもお構いなしに無理やりに……そうか。
今のアナリンの体を動かしているのは彼女自身の意思じゃない。
「
僕の持つ
だけど、ライフ0で意識のない状態の主を武器が操るという状態が、あまりにも不自然かつ不気味で、僕は
その構えに僕はゾッとした。
き、
僕は
「カアッ!」
もはや人の言葉も忘れてしまったかのように
するといくつも繰り出される真っ赤な光刃がバルコニーの
バルコニーに置かれているミランダの玉座も刃の
赤い刃の
ダメージこそないものの、とてつもない衝撃に僕は仰向けに倒されてしまった。
それでも僕は息を止めたまま必死に
この状態で効果が切れたら、一瞬で斬り裂かれてしまうだろう。
そこで仰向けの状態の僕は自分が目にしている光景に
ようやく
なっ……。
アナリンの放つ無数の赤い光刃は頭上にも舞い上がり、ミランダ城の最も高層階に位置する円塔がスッパリと切断されてしまった。
先ほどエマさんから預かった城内図で見たから僕は知っている。
あ、あそこは確かミランダの寝室だ。
王女様とエマさんが隠れている場所だった。
強固な石造りのその建物が斬り裂かれて、無惨にも空中に
ここからあそこまで20メートル以上あるのに、今のアナリンの
まるでアニヒレートのような人智を超えた力が今のアナリンには備わっているんだ。
それは王女様を抱えて宙を舞うエマさんだった。
僕は
「エマさん!」
よかった。
2人は
だけど安心したのも
空中で王女様を抱えるエマさんに向けて。
放たれた赤い光刃は
ギリギリでかわした……いや。
「きゃあっ!」
「あああっ!」
僕は思わず叫び声を上げた。
赤い光刃をかわしたと思ったエマさんの左肩から大量の出血が
避け切れなかったんだ。
それでもエマさんは抱えている王女様を放すまいとするけど、空中でバランスを
危ない!
僕は即座に飛び上がり、空中でエマさんを抱きかかえた。
出血がひどい。
「エマさん!」
「オ、オニーサン……」
エマさんは出血のショックで意識が
その王女様は今も意識がないもののエマさんのおかげでケガはしていないみたいだ。
とにかくエマさんを安全な場所に……そう思ったその時、僕の右足に何かが
そして僕は強い力で空中から一気に地上へと引きずり降ろされたんだ。
「うわっ!」
そのまま僕はエマさんと王女様を抱えた状態で背中からバルコニーの床に上に叩きつけられた。
「ぐふっ……」
肺に強い衝撃が加わって息が詰まる。
だけど僕は痛みと苦しさをガマンして跳ね起きた。
エマさんと王女様は落下の弾みで僕の体の上から投げ出されて、床に横たわっている。
2人とも意識が無く、ピクリとも動かない。
そして僕の右足に
前方に目を向けると、いつの間にかアナリンの手元に
さっきまで中庭に落ちていたその
「くっ!」
アナリンは強烈な力で
僕はすぐさま
不吉なその音に視線を
見ると、中庭の中で最も背が高く、バルコニーの高さを越えて生えている大きな木が今にも倒れようとしていた。
その木は上部3分の1辺りの高さの
さっきアナリンが放った
そしてその致命的な亀裂のせいで自らの重みに耐え切れず、木はとうとうへし折れて、上部3分の1が中庭に落下した。
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