第12章「時代の扉を閉じる者」


1.若宮


「鈴瑠!」


 筆頭末寺、花山寺の回廊に午後の風が吹き抜ける。

 運ばれてくる薫りは薬草園からのもの。

 そのかぐわしい薫りの中を、鈴瑠の姿を見つけるなり駆け寄ってきたのは、九歳の生誕祭を終えたばかりの若宮・翔凛。


「翔凛様、今日のお勉強は進みましたか?」


 しがみついてくる翔凛の頭を優しく撫でながら、愛おしげに言う鈴瑠の外見は、相変わらずあの日…成年式…のままの十五歳。

 しかし、二十五歳になっていようはずの、鈴瑠のあまりに変わらない風貌にも、郷の者たちはこれと言った抵抗を感じていない。


「今日はね、星の読み方、雲の読み方…それと、新しい薬草のことを教えてもらった!」


 翔凛は、面差しこそ鈴瑠に似ているが、快活な質と健やかに成長していく肢体は父である本宮から譲り受けた血が濃いように思える。


「星の読み方は難しいでしょう?」

「うん。今日で七回目なのだけれど、まだまだ…。つい輝きの弱い星を見落としてしまうんだ…。こんな事では月夜の晩にはまったく星が読めなくなってしまう…」 


 ほぉ…っと一つ、ため息をつく翔凛の視線の先には、僅か後ろに控える若き僧、采雲さいうん


 視線を向けられた采雲は、穏やかに笑むだけ。

 そんな翔凛の肩に優しく触れ、鈴瑠はいつもの笑顔でいう。


「慌ててはいけません。何度も何度も繰り返す…、それこそが『学問』のなですから」


 それを見て、翔凛は沈ませていた表情をまた輝かせ、鈴瑠の腕に絡みつく。


「ね、鈴瑠、お願いがあるんだけど」

「なんでしょう? 翔凛様」


 ゆったりとした足取りで回廊を行く。


「翔凛…って呼んで」


 数歩、回廊に足音だけが響き、やがて止まる。


「どういうことでしょうか? 翔凛様」


 驚いた表情を隠さない鈴瑠。


「私は本宮様、若宮様に仕える身でございますよ」

「でも!」


 珍しく翔凛が食い下がった。

 いつもならば、養育係である鈴瑠の言は絶対であるのに。


「鈴瑠は父上のことは『竜翔』って呼んでる」 


 翔凛の口をついて出た思いもかけない言葉に、鈴瑠はこれほどまでは…と言うほどに目を丸くした。

 いったい、いつの間に聞かれていたのか。

『竜翔』と呼ぶのは二人きりの時だけ…のはずであったのに。


 ふと、鈴瑠の視界に入った采雲は、俯いて肩を震わせている。

 何のことはない、笑いを堪えているのだ。

 その溢れる才と湛える徳で、籠雲の腹心となった、弱冠十七歳の僧、采雲。

 何もかも知りすぎだ…と鈴瑠は内心でため息をつく。


「翔凛様…本宮様と私は、幼なじみです。子供の頃から一緒におりました故、二人きりの時には幼い頃からの呼び方になってしまうのです。おわかりですか?」


 言い含められた翔凛は、これ見よがしに口を尖らせる。


「では、呼び方以外はすべて、僕と父上は同じ?」


 諦めてくれたかと安堵の息をつき、鈴瑠はまた、にこやかに答える。


「もちろんですよ。本宮様も、若宮様も私がお仕えする大切な御方ですから」

「じゃあ」


 翔凛が嬉しそうに声をあげる。


「鈴瑠、目を閉じて」

「目…でございますか?」

「そう。閉じて」

「何故?」

「いいから」


 理や道に反しない限り、主である翔凛の命もまた、絶対だ。

 鈴瑠は小さく首をかしげて目を閉じる。


『ちゅ』


 唇に触れたのは、小さく柔らかい感触。

 そんな些細なものに、完全に動きを封じられてしまった鈴瑠の後ろで、今度こそは采雲の笑い声が聞こえた。


 恐る恐る、目を開ける鈴瑠。

 目の前には幸せそうに微笑む翔凛。


「翔凛様…。いま、何を…?」


 わかっているのだが、認めたくはない。


「いつも、鈴瑠と父上がしてるのを見て、羨ましいなと思っていたんだ」


 采雲の笑いが一層高くなる。


「な…っ」


 今や泊双と共に、本宮…ひいては創雲郷になくてはならない存在となった鈴瑠。

 その鈴瑠の絶句する姿など、滅多に見られるものではない。


「鈴瑠、愛してる」


 ごく自然に溢れでた言葉は、父宮にそっくりすぎて気持ちが悪いほど。


「翔凛様っ」


 やっとの事で言葉を発した鈴瑠に、翔凛はこれもまた父宮譲りの快活な笑い声を向けた。


「僕、栄雲たちと遊んでくるっ」


 そう言って一目散に薬草園へと駈けていった。

 後に残ったのは、未だに続く采雲の笑い声。


「采雲っ、いつまで笑うつもりだっ」

「あっははははっ、す、すみません…鈴瑠さま…あはは」


 息も絶えるほど笑うことはなかろうにと、鈴瑠が恨めしそうな瞳を向ける。


「…私は、籠雲様のところへ伺うが…」


 その一言で、采雲はピタッと笑い声を止めた。


「今日はかなり調子が良いご様子でいらっしゃいます」


 真剣になった眼差しには、理知の光。


「ん…。ではご挨拶してくるとしよう…。采雲、翔凛さまを頼む」

「かしこまりまして」


 鈴瑠は、心地よい風の抜ける回廊を一人進む。

 薬草園から流れてくるのは、翔凛と、栄雲、光雲など十歳をわずかに過ぎたばかりの少年僧の笑い声。


 籠雲の居室は、花山寺の一番奥に置かれている。

 やがて到着した扉の前で、鈴瑠は少し息を整え、そして遠慮がちにノックをする。


「…鈴瑠…か?」


 いつも必ず当てられてしまう。

 同じ刻限に来るとは限らないと言うのに。


「はい」


 返事をして扉を開けると、さあっと風が抜けていく。


「お加減はいかがですか?」


 みると、籠雲は寝台の背に枕をあて、半身を起こして書を持っていた。


「籠雲様…。お体に触ります…」


 鈴瑠が駆け寄ると、籠雲は片手をゆっくりと上げ、鈴瑠の動きを制した。


「いや…今日は気分がいい…。このままでいさせてくれ」


 確かに、顔色は若干いい。


 籠雲が病の床に伏したのは、半年ほど前。

 まだ若い籠雲のことだから、程なく回復に向かうだろうと思われていたのだが、人々の意に反して、籠雲の病は重篤になるばかり。


 そして、鈴瑠にももうわかっていた。

 回復の見込みはない…。

 それは、籠雲が自らのために使用した薬草の調合過程をみて確信したこと。

 見知った薬草。しかし、滅多に使わぬ薬草。

 これを使うとき、それは、ただ命を細い糸で繋ぎ止めるだけの時…。


「鈴瑠…」


 呼びかけられて、鈴瑠は小さく返事をすると、籠雲の枕辺に腰を下ろした。


「今日は…聞いておきたいことがある…」

「なんでしょうか?」

「私の命は、程なく果てる」

「籠雲様…」


 静かに告げられた『真実』の重さに、鈴瑠は言葉をなくす。

 だがしかし、ここで慰めの言葉を吐いても仕方がないことも、重々承知している。


「鈴瑠…お前が地上に降りてきた訳を聞かせてはもらえないか…」  

 

 時が満ちるのはそう先のことではない。

 しかし、その前に籠雲の生は尽きるであろう。


 ならば…。


 鈴瑠は静かに口を開いた。


「籠雲様の目に、例の星たちはどのように映っておりますか?」


 吉兆の星、災いの星。

 それら二つのうち、災いの星を見て取れる者は少ない。

 籠雲は、佳くないであろうその兆しを、顔色を変えずに告げる。


「吉兆の星の光が弱くなっているように思うのだが」


 それは同時に、災いの星の光が増すということ。

 鈴瑠が静かに頷いた。


「翔凛様が、この二つの星を自らの力で見分けられたとき、私は、翔凛様をこの郷から出そうと思っております」

「鈴瑠…」


 本宮の後継である若宮を郷から出すとはいったいどういうことだと、籠雲は今度は僅かに顔色を変えた。


「鈴瑠…この郷に、何かよくないことが起こるのだな…」


 動揺を抑えた籠雲の物言いに、鈴瑠は静かに首を振った。


「この郷に…ではありません…。この大地に…です」

「それは…」


 僅かに風が渡る音だけが流れていく花山寺。

 時折風に乗ってくるのは、翔凛たちの屈託のない笑い声。


 その声に、僅かに笑みを漏らし、鈴瑠は静かに天意を告げた。


 大きく開かれる籠雲の双眸。


 また訪れた静けさの後、やがて籠雲はいつもと同じ、穏やかな声を出した。


「それは何時、どのようにしてやってくるのであろうか」

「時が満ちるのはそう先のことではないと思われます。が、どのようなことが起こるのかは…。残念ですが、私にもわからないのです…」


 籠雲は目を閉じて身体を覆っていた緊張を解いた。


「今は、一日でも長く、翔凛様がこの地でお育ちになられるようにと願うばかりです」

「鈴瑠…」

「はい」


 籠雲は閉じた目を再び開けた。

 そして、その瞳は涙を湛えていた。


「籠雲様…?」


 親であり、師であった籠雲の涙を、鈴瑠は知らない。


「私は…そのような大切なときに、お前の側に居てやれないのだな…」

「ろう………」


 絶句した鈴瑠の頬に、ひんやりとした籠雲の手が添えられた。


「お前は天の子。しかし、心の内は我らと同じ。喜びも痛みも覚える」


 流れ出した鈴瑠の涙を、籠雲はそっとその親指で拭った。


「一人で背負うでないぞ。竜翔様の想いを…忘れるな」

「…はい…」


 涙に濡れた瞳で、それでも鈴瑠は笑って見せた。



2.星読み


(翔凛様…)


 鈴瑠はここしばらくの翔凛の様子を、気を張って見つめていた。

 星が出る刻限からあと、翔凛は頻繁に中庭へ足を運び、空を見つめているのだ。


 そして今夜も…。


 その瞳には、未知の物への憧れと、そして困惑。

 鈴瑠は意を決して翔凛に声を掛けた。


「翔凛様…何か見えますか」


 翔凛は空から視線を外さぬまま、その声に答える。


「ねぇ、鈴瑠。あの星の意味は…」


 その双眸が捉えているのは、確かに吉兆の星。

 ここのところ、急速に光を失い始めている。


「あれは、よい兆しの星だよね」

「そうですね」

「でも、このところ、急に輝きが落ちてるんだ」

「翔凛様…」


 その事実に気付いているとすれば…。

 鈴瑠の身体に緊張が走る。


「後ろにあるよくない星が、目立ってイヤなんだ…」


 それは、出来れば少しでも先に延ばしたかった、翔凛の言葉。

 ついに自力で災いの星を読んだ翔凛の成長を、むろん手放しで喜ぶことなど出来ない。

 この成長は、『別れ』を意味するのだから。


「あれは災いの星。初めて現れたのは、私がこの郷に戻った頃のことでした」

「え? そんなに前から?」


 星から視線を外し、見上げてくる翔凛の肩を、鈴瑠はそっと抱いた。


「そうです。でも、その頃は吉兆の星の輝きが強く、あの星の存在に気付く者はほとんど居りませんでした」

「鈴瑠…」


 不安そうな声が、鈴瑠を追いつめる。


「翔凛様。何も案ずることはありません。あなたには…、天意がついています」


「てんい…?」


「ほどなくお話しする日が来るでしょう。その時は、私を信じて下さいますね」


 微笑んでくる鈴瑠を、翔凛は神妙な顔つきで見つめ、そして一つ、力強く頷いた。



 翌日、鈴瑠は創雲寺に大座主を訪ね、そして本宮に戻ったあと、竜翔に向き合った。


「どうした? 鈴瑠」


 いつも二人きりになると、鈴瑠の雰囲気は柔らかく甘やかなものに変わる。

 それが今夜に限って、昼間の表宮殿での雰囲気を脱ごうとしない。

 抱き寄せようとする竜翔の手を、やんわりと止める。


「鈴瑠…?」


 鈴瑠は思い詰めたような瞳で見上げてきた。


「竜翔…」


 それでも、名前で呼んでくれるのは、心を開いている証拠。

 竜翔は僅かに安堵して、鈴瑠の手を取った。


「何かあったか?」


 優しい声で問われ、鈴瑠は一つ息をついた。


「大切な話があるんだ」

「……今日、大座主様のところへ行ったと聞いたが…」


 今や齢百を越えた高齢の大座主は、よほどの用がない限り人と会うことはない。

 それが竜翔や鈴瑠ならばもちろんその限りではないのだが、だからこそ遠慮もあろうというものだ。

 些末な用件で訪ねることなど出来はしない。


「大座主様は、ここに残ると仰せになられた…」

「鈴瑠…? 何の話だ」


 鈴瑠は訝る竜翔の瞳を見つめたまま、昼間の大座主の言葉を思い出していた。



『私が大座主になったときに天空様から仰せつかったのは、その命果てるまでこの地と共にあれ…ということじゃ。若い命は、次の世を目指して旅立つ。私は、この地で果てた僧たちの魂とともに、ここで眠るとしよう』



「翔凛をここから出す。供につけるのは采雲、栄雲、光雲…。そして、本宮からも芳英の他2人ほど、若い武官を…」


「鈴瑠…、どういうことだ」


 鈴瑠の細い肩を掴み、怪訝に眉を寄せた竜翔に、鈴瑠は寂しそうな瞳を向けた。


「僕は、この地を閉じるために、降りてきたんだ」


 降るような星空の下、鈴瑠と竜翔は中庭にいた。


 鈴瑠がこの地に戻ってきた本当の理由。

 そして、翔凛が読んだ災いの星。

 それらすべての話を聞いたとき、竜翔は取り乱すことなく頷いた。

 そして一言、『それが天意なのだな』と問うた。


 その問いに鈴瑠が頷くと、竜翔は意外にも笑って見せたのだ。

『その天意のおかげで私たちは出逢えたのだからな』と。


「それで、お前はどうなるのだ?」


 石造りのベンチに腰掛け、竜翔は鈴瑠を膝に乗せた。

 十五歳で成長を止めた身体は、逞しい竜翔の腕の中にスッポリと納まってしまう。


「僕は…わからない」

「わからない?」


 鈴瑠は竜翔の胸に頭を預け、吐息混じりにそう言った。

 しかし、それは紛れもない事実。

 鈴瑠自身にも、その時、自分に何が降りかかるかは予想が出来ないのだ。


「その時になってみないと…」

「そうか…」


 それならばそれで仕方のないこと、と竜翔は考えていた。

 翔凛がこの地を逃れ、無事に新天地を目指すことが出来るのなら、自分はただ、鈴瑠の傍から離れないでいればすむことだ。

 たとえその結末が『死』という言葉で結ばれようと、鈴瑠の傍にさえいられるのなら、他に望むことなど何も、ない。


「それにしても…」


 竜翔は膝の上の鈴瑠をポンポンと揺すった。


「お前は相変わらず軽いな。翔凛とたいして変わらないぞ」


 そう言うと、鈴瑠はプクッとふくれてみせる。


「酷い。翔凛はまだ子供で、僕はもう大人だよ」

「それがなぁ、その子供はもう、最近は膝にも乗ってくれなくなったよ」


 少し寂しそうな顔で言う竜翔は、優しい父親の顔になる。


「え? 翔凛、膝の上に乗ってこないの?」

「ああ」

「変だな。僕の膝の上は隙あらば乗って来ようとするのに」

「何?」


 目を細めた竜翔の表情の変化に、鈴瑠は気付いていない。


「この頃大きくなって、重くて仕方がないから『降りましょうね』って言うんだけど」

「あいつ…」

「なに?」


 見上げて初めて、鈴瑠は竜翔が険しい顔をしているのに気付く。


「どうしたの? 竜翔」

「油断も隙もあったものではないな」

「どういうこと?」

「あいつも一人前に男になりつつあるということだ」


 真剣な表情で語る竜翔に、鈴瑠はケラケラと笑ってみせる。


「あはは、やだなぁ。翔凛はまだまだ子供だよ。だから少しでも…」


 手放すのは先の方がよかったのに……と、言おうとした唇はすでに塞がれていた。


 いきなり深く口づけられても、苦しいのはほんの一時。

 やがて鈴瑠もその細い腕を竜翔の首に回してしがみつく。

 こうして、いつものように恋人たちの、口づけと抱擁だけの甘い夜が更けて行こうとしていたその時…。


 中庭へ続く長い廊下の向こうから、駆けてくる足音があった。


「竜翔様っ、鈴瑠!」


 慌てて身体を離した二人の目に飛び込んできたのは、顔色の失せた泊双の姿であった。


「何事だ、泊双」

「花山寺より使いの者が!籠雲、危篤の知らせにございますっ」



 鈴瑠と竜翔が駆けつけたとき、すでに籠雲の意識は途切れつつあった。


「籠雲様っ」

「籠雲っ」


 枕辺に寄る二人のすぐ後ろでは、泊双も言葉を堪えて見守っている。


「もはや、お言葉の発せられる状態ではありません…」


 采雲が静かに告げる。

 それでも、鈴瑠の声が届いたのか、籠雲は閉じていた瞼をもう一度開けた。


「籠雲様…」


 鈴瑠が力のなくなったその手を握りしめる。

 僅かに籠雲が微笑み、そして、言った。


「忘れるな。お前は一人ではない」


 それは、采雲が驚くほどにはっきりとした物言いだったのだが。


「はい」


 そう鈴瑠が返事するのを確かめて、籠雲は静かに目を閉じた。

 鈴瑠が握りしめる手から、『気』がこぼれ落ちていく。

 最後の『気』を押しとどめるかのように、鈴瑠がさらに強く手を握ったが、籠雲は静かに去った。

 そして、その場に居合わせた誰もが、鈴瑠の泣き崩れる様子から、籠雲が逝ったことを悟る。 


「籠雲は、輪廻に戻ったのだな」


 竜翔は伝う涙を拭おうともせずに、鈴瑠の肩を抱いた。


「高僧は…転生も早いと…聞きます」


 泊双が震える声を堪え、自身に言い聞かせるかのように静かに告げる。

 采雲をはじめとする花山寺の僧たちも、くぐもった声で泣いている。


 やがて鈴瑠が抱き起こされ、籠雲の亡骸から離されようとしたとき、鈴瑠の耳に小さな声が響いた。


『鈴瑠…』


 ふと顔を上げる鈴瑠。


『忘れるな。お前は一人ではない』


 もう一度、この耳にはっきりと聞こえてきたのは、籠雲最後の言葉。


(籠雲様…? まさか…)


『お前は一人ではない』


 先刻、鈴瑠はこの言葉を「竜翔の存在」と捉えていた。

 しかし、今一度よぎった籠雲の声に、鈴瑠の胸はざわめく。


(そんなことが…)


 籠雲は本当に輪廻に戻ったのか。


 そこに『人』の意志など介在出来ようはずがない。

 だが、今それを確かめる術は、天の子とても持ってはいなかった。

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