第58話・あなたもしかして?
「サーファリアスさまなんて大嫌い」
「マーリー」
サーファリアスが傷ついたような顔をする。そんな顔しないで欲しい。傷ついたのはわたしの方だ。もしかしてその子供とはジェーンさまとの間の? もし、そうだとしたら耐えられない。
「そう嫌わないでやってくれるか? 義母上さま」
「あなたは──?!」
張り詰めた謁見室にどこかで聞き覚えのある声が割って入ってきた。黒髪に新緑の瞳。その顔は初めて見た気がしなかった。
「オニキス」
「だから俺も会わせろと言った。義父上。マーリー殿下は誤解している」
堂々とした態度に誰かに傅かれるのに慣れたものを感じる。髪の色に見覚えが無いがその顔と声に覚えがあった。
「ル、ルイ陛下──?」
「その者はもう亡くなりました。ここにいるのはジェーン女王お抱え騎士のオニキス・アルコン。この度、サーファリアス宰相の養子となり王配となることが決まりました」
「……!」
オニキスとなったルイ殿下の言葉で大体の事を察した。こちらには先のアマテルマルス国のルイ陛下は教皇との抗争の中、命を落としたと聞いている。その中、彼は生き延びて別人として生きているということなのだろう。
女王陛下となったジェーンと連れ添うのに相応しい身分を得る為に、五宝家の一つ宰相でもあるサーファリアスの養子となったということらしい。
わたしはサーファリアスが浮気してなかったと知りホッとした。
「紛らわしいですわ。そうならそうと言って下されば……」
「今、そう伝えたはずだが?」
何が良くなかったのだろうとサーファリアスが首を捻る。ほんと女心が分かってない御方だ。
「子供が出来たなどと言われれば、他の女性との間に生まれたのだと思いますわ。養子を迎えたと言って下されば良かったのに」
誤解しましたと言えば、サーファリアスが済まないと申し訳なさそうな顔をした。
「これで誤解が解けて良かったな。サーファリアス。マーリー殿下を逃したらおまえは一生、結婚相手に恵まれないだろうよ」
「そんなことはありませんわ。サーファリアスさまは素敵ですもの」
「お義母さまの瞳にはフィルターが掛かっているようだ。曇っているのでは無いかな?」
義理とは言え、親子なのにオニキスの物言いは辛辣だった。サーファリアスは苦笑いに留めていた為、なんだかムカついた。
「オニキス。義理とは言え……フィルターって、あなたもしかして……?」
言い返そうとして義理の息子が言った言葉に気に掛かった。それは前世の世界で使われていた言葉。この世界でフィルターなんて言葉は無い。
「お義母さまと同じですよ」
オニキスの肯定に、驚きの方が勝った。彼にはわたしのこともバレていたということか?
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