盗め! 金の卵と大泥棒のポンコツ道中

ちびまるフォイ

金の玉子を産む鶏は二足歩行

とある美術館に世界でも珍しい金の卵の展示が極秘裏で決まった。


ごく普通に鶏から生まれたその金の卵は後にも先にもただ1個きり。

これが孵化したときに生まれるのは普通の鳥か、はたまか金色の鳥か。


世界の視線を独り占めするそんな金の卵を大泥棒が見逃すはずがなかった。


「ふふふ。金の卵の泥棒か。泥棒の血がうずくぜ」


大泥棒は美術館のセキュリティを下調べして念入りな準備を整える。

これまでいくつも大きな泥棒を犯してきたが、ただの1度もヘマはない。

そして今回もきっと成功させるだろう。


しかし問題がひとつだけあった。


「卵……か。どう運ぼうかな」


スーパーの帰り道で卵パックの卵を台無しにしたという悲しい過去がある大泥棒は、

今回の金の卵も泥棒中にうっかり割ってしまいそうで心配になった。


盗むことはできても、運ぶことができないかもしれない。


そこで泥棒マッチングアプリを使って、プロの輸送屋を探すことにした。

白羽の矢が立ったのは業界でも超有名のS級運び屋だった。


「あっしに目をつけるたァ、旦那もお目が高いでさァ」


「お前が有名な輸送屋だな。なんでも絶対に誰にもバレず、

 そして必ずどんな品物でも運んでみせるという……」


「そのとおりでさァ。あっしはこの身ひとつで、今までどんな"運び"もしてきやした」


「だが、噂ではお前と一度でも協力した泥棒は二度とお前の協力を仰がないという。

 なにかお前の方で断る理由でもあるのか? 足をつくとか? 距離を取るためとか?」


「いいえ、あっしからはそんな拒否なんてしやせんよ。

 単に依頼者が二度と依頼しないってだけでさァ」


「まあいい。お前の働きによって、俺が今後の依頼をするかしないか決めるだけだ」


「安心してくだせぇ。必ず運んでみせまさァ」


大泥棒と輸送屋は手を組んで金の卵の泥棒作戦へとうってでた。

美術館の警備は非常に厳重なので入るのは大泥棒ひとり。輸送屋は外で待機となった。


美術館には赤外線に圧力探知機、監視カメラに行き交うガードマン。

徹底された警備が敷かれていたが大泥棒はすでにリサーチ済みだった。


「どんなにしっかりした警備もタネがわかればちょろいもんだ」


大泥棒は作戦通りさまざまな関門を突破して首尾よく金の卵をゲット。

安心して美術館の外に出たときだった。



『ビー! ビー! 侵入者がいます!! 侵入者がいます!!』



けたたましい警報が鳴り響く。


「なっ!? 嘘だろ!? 一体どうして!?」


なにかヘマをしたのかと思った大泥棒だったが警備システムには引っかかっていない。

美術館を警備していたガードマンは慌ただしく外に飛び出してきたのを見て、バレたのは自分ではなく輸送屋のほうだった。


「あのばか! なんてことしやがる!!」


「旦那ァ!! 早く! 早く!!」


「早くじゃねぇよ!! せっかくバレずに盗めたのにヘマしやがって!」


「卵を投げてください!」


「バカ! 割れるだろ!」


「あっしは最高の輸送屋。ソフトキャッチしてみせまさァ!

 それにもう投げないと間に合いやせん!」


「割りやがったらお前の頭もかち割るからなぁ!!!」


大泥棒はやけになって金の卵を火の玉ストレートでぶん投げた。

輸送屋は包み込むように両手でキャッチ。割れてないことを高らかに掲げてみせた。


「いいから逃げるぞ!!」

「へい!」


大泥棒は自慢の泥棒カーをかっとばし追手を振り切った。


「はぁ……危なかった……一時はどうなることかと思った……」


「ちゃんと受け取ったでしょう?」


「お前がバレなきゃそもそも投げる必要も、慌てることもなかったんだよ……」


一息ついていた大泥棒だったが、道路の先で検問が見えた瞬間に青ざめた。

こんなにタイミングの悪いことがあるだろうか。

世にも珍しい金の卵を持ち出したことがバレれば泥棒生命は終わる。


「すみませーーん、暇なので検問しておりまーーす。ご協力くださーーい」


「そ、そうですか……」


「ちょっと車の中見てもいいですか?」


「もちろん……」


大泥棒の足はアクセルへと向かっていた。

バレて顔を覚える前にふたたび突っ切る心づもりをしている。


検問している警察官は車の中をくまなくライトで照らしてチェックしていた。


「はい、大丈夫です。どうぞ行ってください」


「えっ!? あ、はい。ご、ご苦労さまです……?」


大泥棒は予想外の展開にギアをローに入れてしまいウィリーしながら検問を通過した。

やがて泥棒のアジトへと戻ると、やっと一息つけた。


「危なかった……偶然に検問に引っかかったときはどうなることかと……」


「あっしは最高の輸送屋でさァ。単に運ぶだけでなく、見つからないようにするのも仕事のうちでさァ」


「見くびっていたよ。お前がいなかったら俺はあの検問で確実に捕まっていた。感謝する」


「自分の仕事をしたまででさァ」


「それで、金の卵は?」


大泥棒は輸送屋の近くをきょろきょろと探したが、金の卵を持っていないことに気づく。

車に置き忘れていたのなら窓から漏れる金色の輝きに気づくだろう。


「お前まさか! 検問のときに慌てて捨てたんじゃないだろうな!?」


「そんなことしやせんよ!」


「だったらなんでいま持ってないんだよ!」


「卵だから絶対に割れないように固定してるんでさァ。

 あっしは今までも同じ方法で運んできやした。信頼と実績の方法でさァ」


「……はぁ? そんなこと聞いてない。

 いいから早く輸送した金の卵を出すんだよ!」




「でしたら、食事の後くらいにお渡しできると思いまさァ」



その後、トイレの小窓から金色の光が見えたとき大泥棒は二度とこいつとは組まないと心に決めた。

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