第9話 豹変

さっき大蔵刑事から聞いた話が頭から離れない。

冨岡さんが自分で腕を掻きむしった?

どういう事だ?

祟り?

なんで、祟られた?

…といった疑問が浮いては消え、浮いては消えを脳内で繰り返している。

ふと、意識を現実世界に戻すと、みんなが心配そうに見つめている。

「い、いや、ちょっと昨日が楽しすぎてさ、思い出しちゃってそれでぼーっと…」と懸命に誤魔化す。

そんな俺をみて、ニナが「嘘だよね?」と妙に低い声で言った。そんな気がした。

「え?」と聞き返してしまった。

「いや、だってさ楽しいこと考えてる顔じゃなくて難しいこと考えてる顔してたじゃん。ニナには分かるんだよ」という。

正直、なんでこいつが冷めた声色でいつもどうりのニナが言いそうなことを言っているのか分からない。いや、そもそもこいつは俺が知ってる御伽原ニナなのか?それとも双子の妹とかか?いや、多分そうじゃない。そうじゃないと信じたい。

「でさ、困ったことあったらニナに相談して欲しいな。私、こう見えてマネージャーだからさ。」と普段の声色に戻る。

もしかして、今のは無意識のうちにニナを疑って、怖い人だと思い込んでしまったから幻聴をしてしまった?うん、多分そうに違いない。そう、思い込むことにした…

「と、とにかく!ニナに相談することなんか無いから!気にせず!」と気丈に振る舞う。

大丈夫、大丈夫。みんないい人なんだ…。そう、思い込むことにしないとここで生き抜くことなんか出来ないのだ…。

だが、次の日もまた次の日もその疑惑は俺の中で晴れることは無かった…

「よし、大蔵刑事に電話してみよう。さすがにもうちょっとヒント欲しいしな」と考えて、電話した。

「もしもし、大蔵さん。俺です。大田原優です。」

「あぁ、大田原さん。どーも。なにか相談したいことでも出来ましたかな?」と優しく声を掛けてくれた。

「はい。あの…。あの日大蔵さんから話を聞いたあとにその事について考えてたんです。そして、心配そうにしてたニナに気丈に振舞ったんです。そしたら、ニナが突然人が変わったように、声が低くなったり圧を感じるような話し方になったんです。でも…最終的には普段のニナに戻って…。これってオシロイさまの影響なんですか?」と不安そうに聞いた。

すると、「うーん、詳しくは分かりませんがオシロイさまに祟られると人が変わるとか、奇怪な行動や言動を取るようになるとか言われてますけど、よく分かりませんね…」と自信なさげに答える。だが、俺はなんとなくアイツがオシロイさまに祟られているのだと分かった。

あまり、気は進まないが疑ってかかった方が良さそうだ。

次の日、学校でニナからいつもどうり挨拶されたが無視してやった。こいつは、俺を狙ってるんだ。オシロイさまの使いなんだ。と思い込むことによって自分を守るんだ。そうするしかないんだ。と信じるしかない…。

「ねぇねぇ、遊ぼうよ」とニナが言う。

「うるさいな、俺以外のみんながいるだろ。そいつらと遊べよ!」とつい、怒鳴ってしまった。

「は?遊びたくないならそれでいいけど、なに怒ってんの?」とまた、ニナに似た誰かが冷めた声色で蔑さげすむ。

「そっか、私たちと遊びたくないか。なら、おいてこ、こんな奴」と花南さんに似た誰かが冷めた声色で言う。

間違いない。これはオシロイさまの祟りなのだ。逃れるには自分から命を絶つか、アイツらの命を…!と思ったが踏みとどまる。あくまで、アイツらは取り憑かれてるとはいえ、元はと言えば友人であり大切な人たちなのだ。自分だけでいいんだ。こんな思いをするのは…

そう、決意を固めた。

-続く-

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