10
ヴァンパイアを倒し、アクスーキングに帰還した数日後。
俺は一人、今後のスーツ調整について考えながらギルドに向かっている。
一番の問題はリアクター電力の消費量だ。
今のリアクターのままだと、またあのヴァンパイアのような反則級の敵が現れて、有利に戦えたとしても電力が切れ動けなくなると洒落にならない。
それが原因で逆転され、死んじゃうなんて情けない話だよ。
……そうなると、バージョンアップさせるって言うより、新しいリアクターを一から制作しようと思う。
スーツの強化も大事だが、今のスーツでもしばらくの間なら自身の身を守り、仲間の足も引っ張らないと思う。
後ついでに、機会があれば新型AIも作ろうと思う。
スキャンでヴァンパイアを調べた瞬時に弱点を見抜いたおかげで、今の俺たちがいるようなもんでもあるし、今後の冒険の役に立つと思う。
いや、ドライバーリアクターに搭載されてる『アイ』でも十分なのだが、アレの言い方がなんて言うか集中力が途切れてずっこけるっていうかなんというか……。
……それはそうと、なんか忘れてるような気がするのは俺の勘違いだろうか?
スーツの強化や新リアクターの開発も大事だけど、それ以上にやらなきゃいけないことがあるような……。
いや、気のせいだろう。そう思った俺はギルドの入り口の扉を押し開けた。
人の熱気と酒の臭い、それらが俺が開けた入り口へと流れ込み、鼻にツンと刺激を与える。
魔王軍幹部であるヴァンパイアを討ち取った記念に、冒険者達が俺達を称える宴会を開いてくれてるからだ。
「お! 主役の登場だぜ」
「よっ! 勇者エクレシアの相棒、『バトメタル』のツクル! 待ってたぜぇ!!」
中に入った俺を見るないなや、もう既に出来上がっちゃってる冒険者達から歓喜の声で向かい入れられた。
『心臓取りのツクル』って呼び名で誉められるよりすごく嬉しいが、それ以上に『バトメタル』って名前がとってもカッコいい感じがして思わずニヤけちゃったよ。
戦う金属鎧だからバトメタルってのは安直すぎるけど、思いついた人には礼の一つも言いたいところだ。
「ツクルさぁーん、遅かったじゃないっすかぁ〜?」
「どこで何していたんですか?もう皆様出来上がっておりますわよ?」
いい気分の俺に、チリとイリスが上機嫌に声をかけてきた。
多分今回の報酬に胸膨らましてる上、俺が来るまでの間にみんなにチヤホヤされていたんだろう。
……って思っていたら既に出来上がっちゃってるアリスが寄ってきて。
「ひ〜んな揃ったほとろへ、さっさと報酬受け取りにいくらろ〜。あんらが来るまで待ってようってエクレシアにいはへはんははら〜〜……ウブゥ!!?」
寄り添おうとした瞬間、俺の目に前で四つん這いになってまたしても虹色の液吐き出しやがったよこの女!?
やめてくれよマジで!? 入った瞬間のいい気分が台無しになるだろうが!!
ってか周り見ても、ほとんどの冒険者達がもうぐでんぐでんで、いつアリスのようになってもおかしくはない。
俺はアリスの肩を持ち立たせたチリとイリスと一緒に、酔っ払ってる冒険者達を放って置いてカウンターに進もうと。
「待っていたぞ! 武藤ツクル!!」
背後から丁度、復活した恭介が、自身の呪いを解いてくれた女神アルミスを引き連れて立っていた。
俺の名を呼んだ恭介は、宿命のライバルと戦う事を願っていた主人公のような目で俺を見つめ、不敵に笑っている。
「武藤ツクル、君との勝負はまだついてはいなかったからね。ここで再び君に決闘を申し込む! エクレシアを賭けて!」
またこいつときたら……、アレはチリが悪いようなもんだが、転生特典で貰った剣を充電器に改造されたのを見てビィービィー泣いてたくせに。
もうめんどくさいから装備を整えてからのガチンコ勝負で蹴りをつけようと思ったよ。
もうロード・スレイヤーごと『バトメタル』は完成してるしアイツは転生特典を失ったから負ける要素は……。
って思ってたら、既に俺達を中心に野次馬になっている冒険者達を押しどけ、剣幕な顔でこっちに来たエクレシア。
なぜか顔が妙に赤く、ちょっと迷っている様にも見える。一体どうしたんだ?
って思ってたら、俺の目の前に顔と顔が向き合う様に立って……ちょ!? 近い!! いくらなんでも近すぎじゃね!? 顔と顔との間が短すぎるって言うかなんって言うか……。
困惑している俺に考える時間を与えないかの様に、急に俺の顔に両手を伸ばして左右の頬に優しく触れて。
え!? どゆこと!!?
「え、エクレシアさん? 一体どうし!?」
唇に、柔らかくて心地よい唇が触れた瞬間、俺の脳内が思考停止___。
現状の情報処理が追いつかない状態だったが、あたりが妙に鎮まっていたのは覚えている。
「エ……、エクレシア?? どゆこと? こここ、これは一体どゆこと!?」
ボーッとしている俺を差し置いて、顔中に油汗を浮かべて困惑している恭介。
エクレシアは顔真っ赤にして俺から離れると。
「ごめんね恭介、貴方のことは本当に大切な仲間だと思ってるわ。昔も今もその思いは変わらない。だけど、私自身もよく分かってはいないと思うけど……、その……、と、とにかく!! 貴方のその気持ちだけは受け取れなくて、本当にごめんなさい!!」
涙目状態のエクレシアが恭介に頭を90°曲げ下げると。
「ドヂギショォォォォォ!!!!」
恭介は泣きながらギルドを飛び出した。
「なんだよ、お前ら相棒は相棒でも、そう言う関係でもあったのか!!」
「フューフュー!! 熱いぞお二人さん!」
「ちちちち、違うのりょ!? こ、これには……」
冒険者達の冷やかしの様な言い方と、慌てるエクレシアの声に俺の正気が再起動。
「あーららー? やっぱお二人さんってそういう関係でしたか?」
「お二方の幸せ、イシズ様にお祈り申し上げますわ」
「今度宿泊まる時部屋別々にしたほうがいいっすかね?」
「あ、貴方達まで何言って!?」
妙にエクレシアが慌ててるみたいだが、俺が呆然してる間に一体何が?
いや、そもそもなんで俺は思考停止状態になってたんだっけ?
そんなこと考えてたら、足元を軽く突くいやらしい顔でニヤついてたネコマタが。
「儂が思うてた通り、やっぱおまいさんはそういうねぇ……。で? いつ頃繁殖する気なんや?」
……うん、何が言いたいのかさっぱりわからない。
って思ってたら、ギルドマスターの方から俺達に向かってきて。
あれ? なんか微妙な表情だが……。
「よ、よぉ……。命知らず共。待ってたぞ」
ギルドマスターは俺に一通の封筒を差し出した。
ひょっとしてこれが討伐報酬? 小切手の様なものかしら?
いや、幹部のオークの時だって直接数百枚ほどの金貨貰ったし……。
まぁアレが元手となってバトメタルを作り上げることができたんだけどさ。
「えっと……、だな。幹部を討伐したエクレシアパーティーに、国から特別報酬が送られて来たんだ。あのヴァンパイアは幹部の中でも屈指の強敵らしくて、報酬額は金貨3千枚だとのことだ」
「「「「「さっ!?」」」」」
俺達は思わず絶句しちゃった。
それを聞いた途端一瞬で静まり返る冒険者達。
そして……。
「さっすがバトメタルのツクル!! 今度奢ってくれよ!」
「エクレシアさーん! 奢って奢って!」
冒険者達の奢れのコール。
俺とエクレシアは互いの顔を見合わせお互い同意した様にいつもの笑みを見せ合って。
「いいわよー!! 今日のこの宴会後の二次会で奢っちゃうわよー!!」
「ってなわけでじゃんじゃん飲めよテメーラー!!」
この一言に冒険者達は歓喜の声を上げて大喜びした時、ギルドマスターが俺の袖をくいくいと引っ張る。
「なぁ……、こう言っちゃなんだが……、渡した手紙をちゃんと読んでからにしてくれよ」
今も気まずそうな顔してるギルドマスター。
え? どゆこと??
ちょっと違和感を感じた俺はすぐさま手紙を開き……!?
「実を言うと。ちょっと前にお前らのパーティーのウィザードキャスターとその使い魔が勝手に飲み干した酒、上級冒険者でも苦労する難易度の地区で取れる素材で作った酒でな……。まぁ、出来心もあると思うし命がけで幹部倒したことには感謝してるが……、払うもんだけはちゃんと払ってくれ……」
そう言ったギルドマスターは、気まずそうに俺から目を逸らしてカウンターに戻っていく。
話を聞いて酔いが覚め、こっそり逃げ出そうとする
続いて逃げ出そうとするチリは……、放っておいてもいいだろう。今回ばかりはアイツは悪くない。
手放した手紙を見たエクレシアがギョッとした顔を浮かべた途端、冒険者達も全てを悟り、静かに目を逸らす。
そんなエクレシアから手紙という名の請求書を掻っ攫ったイリスが見た後、こいつは俺の肩に手をポンと乗せ。
「報酬が金貨3千枚。弁償額金貨5千枚。差し引き2千枚の借金。イーシズ教に入信すればこの借金はきっと」
言い切る前に俺は手を払い除けた。
……本来の目的、思い出したわ。
なんとしてでも例の宇宙船を直して日本へ帰ろう。
このロクでもない生活から逃げ出すために。
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