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「コロナマイトッ! コロナマイトッ! コロナマイトッ!」
「ちょっ!? おばっ!? ほんづぉッ!? 貴様本当ブニィ!? 初心者冒険者ぐァ!? あのプリーストと言い姑息な小僧と言い貴様と言い色々無茶苦茶すぎッ!? 話を聞けぇぇぇヴォバァァァ!!」
ネコマタの魔力供給を受けながら目を爛々に輝かせ、ヴァンパイアに上級魔法を撃ちまくるアリス。
誰から見ても今の彼女は、凄く生き生きしていると言えるだろう。
そりゃそうだ。本来なら2、3発魔法放ったらぶっ倒れ動けなくなる悩みを持っていたこいつが、数えきれない回数と言ってもいいほどの上級魔法を撃つことができている。
まさかネコマタとの契約がこんなところで役に立つとは俺も思ってもいなかったが。
……逆に話を聞いてもらえず的にされてるだけのヴァンパイアの方が可愛そうに思えてくる。
「なんなんだ……、なんなんだこの小娘は!? 通常の魔法より強烈な火力を出すからして威力増強の才能能力を持っているに違いないとしても、ここまでポンポン撃てるはずが……」
「『セイント・ライトニング!』『ブラッド・インフェルノ!!』」
「ちょっ!」
本日一番驚いたような目でアリスを見つめていたヴァンパイアだったが、アリスの猛攻は止まることなく、無数の上級魔法がヴァンパイアに突き刺さる。
爆発に光の稲妻に地獄の炎と、アイツの魔法種類豊富だわ。
無数の轟音と共に次々と爆煙が舞い上がる。
煙が晴れ上がったそこには、ボロボロの概念を超えるほど傷を負うどころか、一部一部が白骨と化しているヴァンパイアのが呻き声を上げていた。
いける! 弱点が無くなったってだけでダメージは与えられる!
そしてヴァンパイアをここまで追い詰めている例の火力姉様もまだ汗一つすらかいちゃいない。
そればかりか、さっきから幸福の絶頂期のような表情で目に涙を浮かべながら今も上級魔法を撃ちまくっている。
「まさか……、まさか本当にこのアタシの手で魔王軍幹部を倒す日が来るだなんて……。それも初級、下級、中級魔法を一切使わず上級魔法のみだけを駆使して……ワッハハハハハ!! これがアタシにとっての序章よ! 伝説の賢者、『ソフィ』様を超えし存在の誕生伝説、アリス伝記の1ページ目が今ここに!!」
一旦撃ち込むのを辞め、無制限に魔法を撃てるようになったことに幸せそうに呟いたアリスは、長々と詠唱を唱え始める。
その間に爆煙が消え、ほとんどの部位が白骨化しているヴァンパイアは少しずつ再生していく。
俺はすぐさまイリスに追い討ちかけるように言おうと振り向くが、イリスは先程から歓喜の目でアリスを見ているだけで、ヴァンパイアには目もくれちゃいない。
「おい! 何アリスをボーッと見てんだよお前は!? 早くヴァンパイアにトドメを刺せ!!」
「いいえ、あのヴァンパイアを倒すのは姉様ですわ。そしてこれから放つ究極の一撃が、あのヴァンパイアを倒す最後の一撃。姉様の伝説の1ページとなるのです!!」
いや何わけわからないことって言おうとしたとき、アリスの全身からバリバリと、青白い放電現象が起き始める。
エクレシアもヴァンパイアではなく、アリスに釘付け状態から見るからして、きっとネコマタの魔力パスに加え、この一撃の為に残しておいた自身の全魔力も込めて撃つつもりだろう。
……もうこれ以上は何も言わない。
俺もただアリスの一撃を見届け、勝利した暁には、アイツの活躍を祝う酒宴の準備でもしてやろうと思った。
だからやっちまえ!! アリス!! 不正行為で強くなったヴァンパイアなんざ吹っ飛ばせ!!
「喰らいなさい! これが全身全霊、アタシの全ての力を込めて放つ一撃! ここからアタシの伝説が始まる第一歩になる魔法!! これが最後よヴァンパイア!! コロナ……あれ?」
アリスは最大級の魔法を放っ……とうとした瞬間、今までの現象や溜まっていた膨大な魔力が一瞬に消え、そのまま地にぶっ倒れた。
え? どうなってんの??
「ちょっ、どういうことかわからないけど……、アリス大丈夫!?」
「あれ? この感覚……、魔法撃ってぶっ倒れて動けなくなるのと同じような……」
エクレシアに声を掛けられる中、ぐったり地に寝そべるように倒れているアリスは、肩の上でアリスと同じようにぐったりしているネコマタごと、イリスの肩を借りて何とか立ち上がり……。
ん? 何でネコマタまでもが?
「あ、あかん……。バイアグラが切れたわ」
……ふぁ? ええええーーーー!!?
俺だけじゃない、力尽きてるアリスを除き、この場にいた全員が絶叫と言ってもいい驚愕の声をあげたよ。
「ちょっ!? せっかくいいところだったのにそれはねーだろお前!? つーかバイアグラってこの世界にもあるわけ!? そもそもそんなの飲ませた覚えなんかないんですけど!?」
「喧しいわ!! 早さは儂の取り柄なんやからしょうがあらへんやろ! それにあんな馬鹿でかい魔力をパスしてここまで保たせることができる神様は優秀なんやで!? 覚えときや!!」
「いやヴァンパイア倒せなかったら優秀とかそういう話じゃ済まないって今は! 立てぇぇぇ!! まだ賢者タイムになる時じゃねーから!!」
「文句言うんやったら儂と契約しているアリスはんに言うてくんない!? アイツがヴァンパイア相手にダラダラ前戯に時間割いてるからこないなことに」
「おい、アタシの伝説の一歩を汚れた大人の性娯楽みたいに言うのは辞めてもらおうかこの万年発情期」
「とにかく姉様は木陰で休んでくださいまし、後はワタクシが姉様の代わりに『二人とも危ない!!』」
王道的と言える剣幕な空気がぶち壊れ、ぐだぐだな会話になってしまった時に聞こえたエクレシアの声。
この一言でハッとヴァンパイアの事に気づいた瞬間、ヴァンパイアから突風が放たれポンコツ姉妹とネコマタが吹き飛ばされる。
アリスとネコマタは地下手に倒れ、イリスは近場の木に頭がぶつかり気を失ってしまった。
やばい!! 唯一ヴァンパイアに勝てる可能性を持つ二人が瀕死状態に!?
そんでほとんど骨だけになって生きる屍状態だったヴァンパイアも、いつの間にかほとんど再生しちゃってるし!!
「よくわからないが……どうやらカラクリが勝手に崩れたようだな。なんであろうと貴様らは我を怒らせた。ただでは済まないと思え!!」
真紅の目を禍々しく輝かせたヴァンパイアがこっちに向け飛躍する。
待て待て待てタンマ、タンマ!! うちのロリーズは発情期真っ最中なんです! ほらどんな穏やかな動物でも発情期になると結構攻撃的になるってよくある事でしょう? 人間も一応動物みたいなものでしょ!? ああいうのと似たようなものですから幹部らしく寛大な心でどうか……。
ってなことをベラベラと涙目で叫んじゃってたと思うけど、ヴァンパイアは聞く耳全くなし。
「まずは我が心臓を捥ぎ取った小僧か……!?」
ヴァンパイアの発言を遮るかにように、接近して恭介から借りた『雷神の剣』での斬撃を放つエクレシア。
ヴァンパイアはいち早く気づき、爪を短剣の如く長く伸ばし、その爪で斬撃を防ぐ。
防いだ瞬間、剣身から膨大な電気が解き放たれ爪からヴァンパイアへと感電する。
「ぐっ……これは!?」
突然の電気に痺れるヴァンパイアの腹部に強烈な蹴りを入れ、吹き飛ばし距離を作る。
え、エクレシアのおかげで助かったぁぁぁ……。さっきは本当に生きた心地がしなかったよ。
「ツクル、私が時間を稼ぐわ。あなたは早く例のスーツに着替えてきなさい!!」
……え? スーツ?? なんのこと?
急にそんなこと言われてもなんのことかわからないから首を傾げたら。
「トカッツンを倒したあのスーツの改良版がもう使えるとか言ってたでしょ!? それ着た後一緒にヴァンパイアを倒すわよ!!」
おお!! 最初の作戦があまりにも上手くいきすぎてたから存在そのものをうっかり忘れてましたわ。
「ほう、その間までの時間稼ぎとして貴様が我の相手を? 面白い! 勇者の実力、この我にとくと見せてみるがいい!!」
体制を整え直して再び立ち上がったヴァンパイアと、そのヴァンパイアに向け雷神の剣を構えているエクレシアは対峙したまま動かない。
エクレシアは仮にも勇者だ、幹部相手が故に慎重にいく気のようだ。
ヴァンパイアの方も、イリスの浄化魔法やチリの爆破兵器(俺が作った物っていうのはおいといて)、そしてアリスの馬鹿派手な連続魔法攻撃を目の当たりにし、相手するのは勇者というのもありエクレシアにも秘められた力があると警戒しているのだろう。
俺がエクレシアを止めるか任せるか悩んで動かずにいたら、彼女は俺に顔を向け微笑み、さっきの大声とは真逆の優しい声で。
「ツクル、私は大丈夫。こう見えても昔、勇者育成の為に作られた里が存在してね、そこで一人前の勇者になる為に猛特訓したことがあるの。それにこうして時間稼ぎしようとしているのは、ツクルが作ったスーツをそれだけ信用しているってことでもあるし」
エクレシアの一言に心がジーンと感じてちょっと涙目になりかけた。
やばい、俺が作った物がここまで信用されて超嬉しすぎるんですけど。
「……エクレシア、ちょっとの間頼んだ!」
俺は馬車へと駆け込むのと同時に、エクレシアはヴァンパイアへと踏み込んだ。
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