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「どもー。コウモリ幹部のトゥルーさーん。恭介を助けるために来た……、ぞ……」


 正門開け中に入ろうとした時、もう既に、右も左も天井もモンスターだらけ。

 漆黒の鎧に包まれたアンデッドナイト、黒いローブを被った白い翼が生えている堕天使など、初心者どころか上級者でもてこずるような奴がわんさかいる。


 ………………。


「ちょっとツクル! 正気を保って!!」

「はっ!? すまん、歓迎するメンツがヤバすぎてつい……」


 エクレシアの声で正気が戻って改めて城内のモンスターを見渡してみるけど、俺のような弱者が入ったら誰だって思考停止して呆然するよこんなの。

 だってこいつら一体だけ相手するにしても、初心者だけじゃ絶対勝てないオーラがプンプン醸し出してるよ。

 ゲームのネット中継でよくある企画、『低レベルで頑張ってみました!』的な番組で例えるとしたら、一体倒すのに最低でも15以上は必要なくらいの強敵だと思うよこいつら。


 そんなアホなこと考えていると、天井から大きな水晶がゆっくりと降りてきた。

 水晶が地についたのと同時に、ぼんやりとあのヴァンパイアの素顔が映し出され、重々しく気品のある声が聞こえてきた。


『よく来たな、心臓取りのツクルよ。そして我の配下を皆殺しにした酔っ払い娘よ。まずは歓迎の言葉を送ろう』


 アリスはともかく、俺のことをそんな風に呼ぶのだけはやめてほしい。


「何が歓迎の言葉よ? アタシらにビビって自室に引きこもってるんじゃないっつーの。とっとと出てきてアタシらと戦えってんの」

『ふん! それこそつまらないではないかまな板ゲロ娘よ。我のような偉大なる幹部と戦う条件として、それなりの強さを見せてもらわぬと話にならん。……おい、魔法唱える構えをするな。話は最後まで聞くものだぞ』


 アリスの暴言に対し鼻で笑うドラキュラに対しカチンと来たのか、魔法をぶっ放そうとするアリスの脳天にチョップする俺。

 もしお前の魔法で城が崩れたら俺たちまで生き埋めになること理解してるか?


『よく聞くがいい、我に挑もうとする勇敢な冒険者どもよ。この城には我が玉座の間まで着くために三つの大部屋を通る必要がある。だがしかし各部屋には我が認めし猛者達が貴様らを……、って聞いているのか貴様ら?』

「オーラーイ、オーラーイ、……はいストップ」

「ここでいいんすかツクルさん?」

「上出来上出来。後はシートを全部取るだけでいいぞ」


 ……うん、ほとんど聞き流してたけど、やっぱり王道あるある展開だ。

 俺たちはヴァンパイアの説明を無視しながら手筈通りに作業を行なっている。

 チリに車の牽引で馬車を城内まで運ばせた後、エクレシア、アリス、イリスにシートを取らせ、俺が現場監督のように指示を出す姿に魔物達はキョトンとしてる。


 まぁ当たり前だな。邪道的なやり方でも、入った瞬間に素早く魔物達を蹴散らして、幹部のいる場所へと駆け上がっていくのが常識だ。

 それに比べて俺たちがやってることは、まるで配達業のトラックの積荷作業となんも変わらない。

 邪道どころか、何しに来たの? って感じに思われても仕方ないよ。


「シート全部取ったわよ」

「おし、後はこのスイッチをポチっと」


 雨漏りシートを全部取り内部剥き出しの馬車には大量の蜂型ドローンの姿が。

 そして俺が右手に持っている起動スイッチを押した瞬間、すべてのドローンが一斉に飛び、城の隅々まで行き渡り始める。


「なんだこりゃ?」

「ちょっと魔力を帯びているみてぇだけど、これどっからどう見てもおもちゃじゃねえか」

「何がしたいんだこいつら? え? 嫌がらせ?」


 理解できないながらも、興味津々にドローンを掴み見る魔物達。

 痺れを切らしたのか俺達を睨みつけるヴァンパイアだが。


『……何しに来たのだ貴様ら? この状況だと普通、良くて我が話を聞き終えた後に戦闘をし、悪くて話を聞かず、愚者の如く我目掛け城内を駆け上がるもの……ってあれぇぇぇぇ!?』

「「「おじゃましましたー⭐︎」」」


 同級生の家から自宅へ帰る小学生のように出る俺たちに対し、ヴァンパイアが幹部のイメージを下げるような素っ頓狂な声を上げた。

 そりゃそうだわ。向こうは例え娯楽目的とは言えども、勇敢に挑む愛と希望に満ち溢れている綺麗な心を持つ俺達を、絶望の恐怖のどん底に落とすつもりだったんだ。

 その当の本人達がこんなわけわからない事して帰るとなったら、いくら幹部でも冷静さを失うし、そんな声も出すわ。


『……何しに来たんだ奴ら?』


 俺達が出てってもキョトンとした顔のヴァンパイア。


「それにしてもこのちっこい玩具どうしますか将軍?」

「そうっすよ、こうブンブン飛んでいたら気が散るっていうか……ん?」


 魔物達がザワザワ騒ぐ中、1匹のドローンが赤く発光する。

 それに続くかのように、他のドローン達も同じように発光し始め。


「なんだ一た……」


 ……一斉に上級魔法並みの爆発を引き起こし、水晶もモンスター達も木っ端微塵に吹き飛ばした。


 __計画通りっ!!

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