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「とにかく、イセセミ対決はひとまず置いといて、街に侵攻する巨大イセセミ幼虫をどうにかいましょう」

「確かにそうだね。勝負に夢中になった結果街一つ壊滅なんて、そんなの僕ら勇者にとってあってはならない話だから」


 流石勇者だけあって同じ考えだ。あんなデカいのを倒す気満々だよ。

 まあ、現状が現状だ。

 勝負は一旦中止となり、アクスーキングに向かっている突如出現した怪獣サイズのイセセミ幼虫二匹をどうにかすることにした俺達。


「それに一応、ネコマタも助けなければいけませんもんね」

「ま、気が乗らないけどネコマタ助けなきゃアタシ魔法2、3発程度しか撃てなくなっちゃうもんね」

「いやもう胃の中で溶けちゃってるんじゃないっすか?」


うわぁ……、ロリーズのネコマタに対する扱いがひでぇ……。

 ま、わからんでもないがな。

 っと思ってたらアリスが俺の肩に手を乗せて。


「ってなわけでツクル、ネコマタを助けてちょうだい」

「……へ?」

 

 今この女何言った??


「姉様の言う通りですわ。素っ裸状態のイセセミ相手だったら今のツクル様なら簡単に助け出すことができますわ」

「えっ!?」


 イリスさん!? 本気で言ってるの!?


「確かに、私達じゃネコマタを助けるのは難しいけど、今のツクルのレベルならひょっとしたら」


 エクレシアさんまで何言い出してんの!?


「仕方ない、最初の見せ場は君に譲るとしよう。だが無理はしなくてもいい。彼女の使い魔を助け出した後は勇者である僕に全てを任せて」

「待て待て待てェェェ!!」


 俺はすぐさま大声をあげた。


「お前ら今冗談言ってる場合じゃないこと気付いてる!? 街の崩壊の危機なんですよ!? そして俺は最弱の職業の冒険者。チリ省くお前ら全員より弱いってのにたった一人でどうやって助け出すってんだ!?」


 そんなツッコミを入れた途端、首を傾げ理解できてないチリ以外のみんな揃って『えっ?』って気な顔で俺を見てる。

 いやいやいや、俺は当たり前のことを言っただけなんですけど!? なんでそんな目で見られるわけ!?


「あんたまさか、まだレベル10超えてないの?」

「レベル? ……あ」


 アリスの戸惑った言葉に俺はふと思い出した。

 あのGのクエスト以来、冒険者プレートで自分のレベルを確認していなかったことを。

 だってチリと俺はこいつらと違ってスキルポイントとかないし、魔法や剣じゃなくて科学兵器で敵を一掃するし、何レベルだろうと関係ないやって思ってたから。


 俺はひとまずプレートに書かれてる自身のステータスを確認すると、いつのまにかレベルが12まで上昇してた。

 そして新たなスキル、『スミーヌ』と言うのを習得してる。

 このスミーヌって言うスキルは盗賊職のスキルのようだが。

 まさかとは思うが、ひとまず俺はエクレシアに。


「ねぇ、ひょっとして俺なら簡単に助けれるって言う理由はもしかして」

「そう。そのスミーヌでなんとかできないかなって思って」


 スミーヌ。それは相手の所持品をランダムに盗むことが出来るスキルだ。


 何を盗むかも成功する確率も使用者の運の高さで全て決まるらしいが、まあ確かに遠距離からネコマタを回収できさえすればって考えると、あいつらが言ってたことは間違いではない。

 そうなるとチリもって言う話になると思うが、あいつの幸運ランクは最低クラスのE−−で、失敗する可能性がとても高い。

 それにどう言うわけか無職にはレベルが上がってもスキルを習得することが出来ないらしく、結果的に俺だけが頼りってことだ。


 だけど俺、スミーヌどころか最初に覚えた初級魔法さえ使ったことがない。

 初使用がいきなり実戦って、アバウトにも程があるよ。

 まあ、そう思っても仕方ない。


「……まあ、やっては見るけど、もしダメだったらなんとかしてくだせえよ」


 俺はダメもと覚悟で迫り来る巨大幼虫の前に仁王立ちし、意識を集中させ……。


「……そういえば思ったんだけどさ、ネコマタ食ったイセセミって、どっちだっけ?」

「さぁ? 2匹揃ってスミーヌしたらいいんじゃない?」


 アリスのやつ、自分の使い魔のくせに適当なこと言いやがって……。


「それがいいですわね、やっても結局はネコマタしかゲットできませんし」

「それに二体同時にスミーヌしても確率は変わらないしね」

「早くした方がいいっすよ。スミーヌが成功したとしても骨になってたら洒落じゃありやせんし」

「とにかく街の危機なんだ、助け出すことだけに専念するんだ」


 こいつらも適当なこと言いやがって……。


「ああもうヤケクソだ!! 考えてもしょうがないし失敗したら失敗したでそん時はそん時だ!! やってやる!! 『スミーヌ!!』」


 叫んだのと同時に、両手から眩い光が解き放たれる。

 光が消えた時には、突き出した両手に何かが握られ。



 ………………あれ? 




 俺の運のランクは高い故に一発で成功したのは間違いないが、これ握ってるって言うより触れてるって感じだ。

 感触はなんか、生肉みたいに柔らかく粘液塗れのような気持ち悪い。

 それにちょっと臭うし、何より両手から今もドクドクンって鼓動のように動いてる。

 目を開いて触れてる物体を見てみると、人と同じサイズの異形の球体? だ。

 所々に管っぽいのがあって、鼓動と共に黄色い液体を放出している。

 少なくともネコマタじゃなさそうだ。


「おい、なんだよこれ。すっごく気持ち悪いんだけど……、ってあれ?」


 なんかみんな、青ざめた顔で俺を見てるんですけど?

 チリに至っては驚いて失心したかのように泡吹いて倒れてやがる。


 なに? どういうこと?


「ねぇ……、あんたが使ったのって本当にスミーヌ?」


 手を震わせ確認してくるアリス。


「いやそうだが、なんなのこれ?」


 尋ねてみたら、全員揃って前方に指差し、振り返ってみるとイセセミ二体とも倒れている。


 ……え? どゆこと?


「ツクル様がスミーヌでゲットしたのは……」

「イセセミの心臓……、だね」


「…………はぁあああああああーーーー!?」


 イリスと恭介の回答に絶叫する俺。

 右側の死んだイセセミの口からネコマタは自力で出てきたが、俺は海水で必死で手を洗い流すのに夢中でそれどころじゃない。


 とにかく、俺が習得したスキルはスミーヌと言う生優しい窃盗スキルではなく、どこぞのアサシンの必殺である、妄想◯音ザバー◯ーヤのようでした。

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