2章 ポンコツ姉妹と「猫」という名の変態神
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2章1
「んじゃあ、もし火が出た場合消化頼む。俺の足が灰になる前に」
「いいわよ。でも気をつけてね」
俺とエクレシアは今、宇宙船の技術とオーク討伐による莫大な報酬で得た資金全てで購入した素材を用いて、制作した改良型ロード・スレイヤーの脚部のテストを行なっている最中。
急ごしらえで作った欠陥品と比べ、かなりスマートな脚部となり、ホバーを取り付けず、飛行能力を持ったスラスターを代わりに取り付けることで、ホバー移動と似た動きの他、飛行とは違う空中移動ができるのではないかと考えている。
因みに燃料は後にドライバー型リアクターのエネルギーに変えるが、今現時点は火と風の魔法石を粉末にして混ぜたものだ。
……とは思ったものの、今現在の段階ではたった10パーセントの出力でも飛ぶ勢いが凄く、5メートルほど一気に上昇しちゃって体制を崩し、後方に吹っ飛んで落下する毎日。
酷い時は脚部パーツが燃えちゃって太ももに火傷負ったこともあるよ。
ちなみにこういうのにはチリがいた方がいいのは分かっているが、あいつはここ一ヶ月以上帰っていない。
今のところあいつ、スターラインの貴族屋敷でただ働きしています。
職業が『無職』と言う、遊び人よりも酷い物だった事に自棄になって大酒飲んでかなり酔っ払った時、羽振りが良さそうな冒険者に喧嘩ふっかけやがったんだよあの女。
止めに入ったが聞く耳持たず、結果は当然のごとくフルボッコにされぶっ倒れたけど、その時お忍びで冒険者ギルドに遊びに来た貴族の子供の玩具を壊してしまって……。
そんなことでその冒険者と弁償代わりに働かされてるって感じだ。
いつか絶対何かやらかすと思っていたが、まさかここまで早く起きるとは思わなんだわ。
ってなわけで、今回でチリ不在の23回目のテストで、今まで失敗点の改善の為に、空中でも体制を維持できる小型のバランサーユニットと体制維持バーニアを搭載したから、今度こそはうまくいくだろう。
まずは小手調べとして出力0.5パーセントから……。
「3・2・1・点火!!」
……体にぐらつきはない。むしろ自分の足で大地に立っている感覚と何も変わらない。
「ねぇ、これ本当に浮いてる? 足底から多少砂煙が舞っているのは分かるけど、それでもどう見たって浮いてないように見えるのだけど?」
エクレシアの言う通り、確かに見た目だけで見たら出力足りなさすぎて浮いてないように見える。
だがしかし、足元を爪先方角に微量に傾けると……。
「え!? 動いてる!? 足動かしてないのに勝手に前に!? どうなってるの!?」
すごく驚いているエクレシアに向けて、安定したドヤ顔を送る俺ちゃんでした。
ようやく第一段階が成功できたよ。あとはもうちょっと出力を上げて、肉眼で見ても宙に浮ければ。
「出力上げるからちょっと離れてくれ」
「え!? え、えぇ」
エクレシアがある程度離れたのを確認したあと、出力を2パーセントまで引き上げる。
足底のスラスターの勢いが増して砂埃の舞い上がる量が増加するのと同時に、俺自身の体も浮き始めた。
「おおっと、ちょっと俺自身もバランス取らなきゃ……お? おお!? 飛んでる!! 飛んでるぞ!!」
浮いた瞬間多少よろけはしたものの体制を持ち直し、俺は5メートルほどの低空ながらもちゃんと飛んで入る。
そんな俺を見ているエクレシアも驚愕した顔していることからして夢ではない!!
やった!! 遂に成功した!!
俺は足を前方に傾けると、そのまま前方へと飛行移動もできた。
これで脚部は完成……って思った瞬時に燃料がガス欠。そのまま寝そべる形で地面に墜落。
「はっ!? ちょっと大丈夫!?」
不時着した音で正気を戻したエクレシアが俺のところへと駆け寄り体を起こしてくれた。
「これもう脚部はほぼ完成したのと同じじゃない? この調子なら早く試作機が完成できるかもしれないわね」
起動テスト成功にすごく喜んでくれるエクレシア。
他の誰より、エクレシアが喜んでくれる姿を見たら俺も嬉しくなって、頑張った甲斐があったなって思うけど……、エクレシア、俺に気遣ってないかと、ここ最近思ってしまう俺。
借りにも彼女は勇者だ。俺のロード・スレイヤー制作に構わず、いろんなところを周り、困っている人を助けながら魔王退治に精を出したいであろう。
だけどこう見えて彼女も、恩は恩で返そうとする人だと思うし、彼女にとって俺は初めての仲間みたいなものだ。
そんな見捨てるようなことは絶対にするわけじゃない。
きっとスーツ完成するまで気長に待つに違いないだろう。
「……なあ、エクレシア。ひょっとしたらだけどさ、俺のスーツ完成するまで旅立つまで待つつもりか? まあ、いろいろツッコミ入れたい箇所はありながらも同じパーティーだから強くなるとか……」
あいつの気持ちを害しちまうかな? それとも怒らせちまうかしら? とにかくなんて言えばいいか全くわからない。
こう見えても俺やっぱコミュ力弱い方だし。
「とにかく、スーツは旅しながらでも完成できるし、そろそろ次の街に行こうぜ。こうしてる間にも魔王が世界を蝕んでるってのも事実なんだしさ」
そう告げたらエクレシアは目を大きく見開き。
「そういえばそうだったわね。魔王城から遠い街なのもあってすっかり忘れてたわ」
………俺の気遣い返せ。
エクレシアの奴、完全に平和ボケになっちまってる。
「それに今日、チリの弁償代わりのただ働きも今日で終わる。ちょうどいい機会じゃないか?」
「ツクルがそれでもいいなら構わないわよ。とにかく明日、隣街まで行く輸送クエストを探してくるね。そこから各街々へと冒険して情報収集しましょう。モンスターが来ても安心して。勇者である私が守るから!!」
頼もしいと言うべきか、平和ボケしてたから不安と言うべきか……。
「まっ、せっかくだし例の貴族の屋敷に行ってチリを迎えに行くとするか。そんで持ってるお金で最低限の準備を整えて、明日から大冒険だ!」
「ええ、そうしましょう!」
旅立つ決意を固めチリを迎えに貴族の屋敷に向かったが、あいつ仕事をサボるわ盗み食いするわなど様々なことをやらかしていたらしく、予定より一週間遅れの旅立ちになってしまった。
………やっぱ今後が不安でしかない。
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