5
幹部のオークが立ち去ってから3日経ち、ある程度組み立て終え、急ごしらえなため雑に見えるけどある程度パワードスーツっぽい形になった。
後は装甲を作り取り付けるだけだが、その前に俺は、ただ茫然と座りながらオークの攻撃でできた大きな壁穴を眺めている状態。
その一方で、あのロリ宇宙人からモニター操作を教わったエクレシアは、『ロード・スレイヤー』の性能動画を見てた。
装着した使用者が空を舞い、内蔵されている武装で一騎当千する姿はとても美しいものだ。
最初は大丈夫なのか疑っていたエクレシアも、映像を見た途端少し期待するような表情に変わってゆく。
「確かに見るだけでは凄いのは理解できるけど、ツクルはこれだけの性能を持つ鎧を作る事ができるの?」
「鎧じゃなくてパワードスーツっすよ。にしても雑ながらも、アタイらの技術をこんな発展途上世界の物資で作っちゃうだなんてアイツ何者っすかねぇ?」
「知り合いじゃなかったの?」
性能を理解し希望が見えてきたが、それでも不安そうな声で疑問を問い投げるエクレシアに対し、ロリ宇宙人は名前だけ訂正させた後、俺のことについて話題を変え答えたりなど、エクレシアの質問に答えようとしない。
多分あいつも不安なんだと思う。
……ってかなんでロリ宇宙人の野郎はまだここにいるの?
それはさて置き、……正直言うと俺でもわからない。
確かに性能だけでは、どんな相手でも無双できるのは間違いない。
だけどもし運悪く、魔法の集中攻撃が命中した際、こんな素材がガラクタばかりの急ごしらえで作り上げたスーツに耐え切れるだろうか?
……いや、俺は運だけはそこそこある。
親に内緒で購入した宝くじが100万ほど大当たりくじだったり、偶然拾った空き缶のゴミと知り合いの十円玉から始まり、肉まんと次々と物物交換した際、最後は新型テレビとわらしべ長者して貰ったほどだ。
だからそんな不運は絶対に起きるはずはない。
……宇宙人のキャトルミューティレーションから今の状況はどうなの? って問われるとなんとも言えないが、問題はその点ではない。
「なぁ、あのオークの一撃なんだけどさ、俺が作ったスーツは耐え切る事ができるか?」
「多分すぐに潰されるわね。トカッツンの怪力は魔王軍の中でも上位クラスとも言われているし、あいつが装備している棍棒はアダマンタイト製なの。装甲を同じアダマンタイトにしたって精々二発耐え切れば上出来ってところね」
……全く、エクレシアったらさらりと心配している不安を肯定しやがって。
一番の問題は幹部のオークだ。
壁の穴から見て、このスーツが耐え切れるかどうか不安だったのだ。
もしスーツが完成して着ていざ脱出ってなっても、あんな一撃をまともに喰らってぺしゃんこになったら全てが水の泡だ。
殺された後、エクレシアもロリ宇宙人も首斬られてそれでお終い。
そもそも
「やっぱり、アダマンタイト以上の硬度を持った資源が必要だなぁ……。ってか、んなもんない時点でもうおしまいだよ」
「ちょっ!? イヤっすよアタイ! こんなカビ臭い洞窟で一生働かされるのは! せめて死ぬなら後500年程ニート生活してからじゃないと!!」
つい愚痴を溢しちゃった。
ロリ宇宙人が血相を変えてまた随分と自己中的なことを言い騒いでいるけど、怒る気にもなれない。
だってまたしてもお手上げ状態っという名の振り出しに戻っちゃったんだよ?
しかも残り期限は後約三週間。
そしてアダマンタイト以上の硬度の資源なんて、存在したとしてもこんな鉱山でなんかで採取できる代物のわけがない。
もうどう足掻いてもなんともなるわけがない。
「………あるわよ、アダマンタイト以上の硬度を持つ鉱石」
「…………え?」
「あるんっすか!?」
俺の愚痴に回答するかのように、エクレシアが口を動かした。
俺は少し間を置いた後、ロリ宇宙人の一言が聞こえた途端、反射的に彼女の顔に振り向く。
「それこの部屋のどこかってことだよな!? どこにあるんだそれ!?」
鼻息を荒くして目玉が飛び出しそうなほど目蓋を開いている異常な顔しながら、彼女を見つめる俺。
……そんな俺の顔を見て、先程から騒いでいたロリ宇宙人が静かになり、うわぁ……的な引いている顔がチラッと見えた。
一体どんな顔をしているのか自分でも知りたい。
そんな俺に対しエクレシアは、何も言わずに作業台に置かれている物に指差す。
俺は、彼女の指差した物はなんなのか理解でき、先程の興奮が一気に冷めた。
「なぁ……、その指って……」
顔を背け、指した指を震わしているエクレシア。
一目見ただけで痩せ我慢しているのがよくわかる。
そう、アダマンタイト以上の硬度を持つ鉱石とは、彼女が苦労して手に入れた勇者の鎧のことだったのである。
「あの鎧は、地上では入手不可の素材で作られていて、アダマンタイトより圧倒的な硬度を誇ってるわ。あれを装甲の素材にすればトカッツンの怪力も問題ないはずよ」
「うーん……、アタイにはよくわからないっすけど、とにかくその
「馬鹿野郎!!」
ロリ宇宙人が興奮してる中、俺は無理しているエクレシアに怒鳴り声を上げた。
二人は驚き俺を見つめる。
「ちょっとツクルさん何言っちゃってるんですかぁ〜。この鎧さえあればロードスレイヤーは完成するんですよ? だったらアタイを救うためにちゃっちゃと壊して」
「ちょっとお前は黙ってろ自己宙人!!」
「ぶぃあう!!」
さっきからうるさいロリ宇宙人にパイルドライバーを炸裂させ(気絶させることにより)黙らせた後、俺は驚いているエクレシアに顔を向ける。
……こんなの使えるわけないじゃないか。
確かにあの鎧を装甲として使ったら全てが上手くいくのは間違いない。
だけどその鎧は、彼女が必死の必死を重ねて、ようやくの思いで手に入れた物に違いない。
きっとこれから先、彼女はこの鎧を着て魔王と戦うことになるだろう。
それなのにここから脱出するためだけに、鎧を素材にするのは間違っている。
「エクレシア、お前はこれから先きっと、俺には想像できない凄い戦いをすることになるんだろ? そのためにこの鎧を手に入れたんじゃないのか?」
「ええ、この鎧と、世界のどこかに眠っている聖剣と聖盾を身につけて魔王を倒し、みんなの笑顔を取り戻す。誰一人欠けることなくね」
なんの躊躇いもなく堂々とした返答をするエクレシアの声は、若干ばかり震えている。
やっぱり痩せ我慢してるじゃないか!!
「だったら素材に使ってくれなんて言うなよ!! 今助かる為だけに鎧を失って、後々魔王と戦うことになって後悔してももう遅いんだぞ!! 俺やみんなだけじゃない、お前も死ぬことになるかもしれな……!?」
凄い勢いで怒鳴り続ける俺に、エクレシアは何も言わず抱きついた。
俺の左頬に、彼女の左頬がぴったり当たっている。
今の自分の顔を見られたくないように。
……だけど、左頬に伝わる彼女の体温とは別に、雫サイズの液体の感触が伝わった時点でだいたい分かる。
泣き顔、見られたくないんだな。
「魔王との決戦の時、その鎧がないと困るのは理解している」
今の状態のまま、小さく震えた声で話すエクレシア。
「だけど、私は勇者。魔王を倒すことよりも、みんなの明日の幸せと笑顔を守る。それが勇者としての一番の使命だと思っているの。違う?」
エクレシアの決心は堅いようだ。
そんな彼女の声を聞いてしまったら、俺は何も答えることができない。
「鎧が無ければ苦戦は間違い無いわね。だけど、倒せないわけじゃない。これから仲間になる者達と一緒に切磋琢磨して力を付け、残りの三人の勇者と合流し、絶対に魔王を倒すから心配ないわよ。それに……」
エクレシアは俺の頬から離れ、涙流しながらの笑顔で、俺の顔を見つめ……。
「鎧の為に誰かが犠牲になるのなら、そんな鎧はいらないよ」
最初と変わらずの優しい声で、そう呟いた。
……全く、ずるいなって思ったよ。
そんな顔をしてまで頼んできたら、怒ろうにも怒れるわけないじゃないか。
だけどここまで泣く程だから、きっと生きるか死ぬか程の危険で過酷な試練だったに決まっている。
そんな物騒な試練を乗り越えて手に入れた鎧だ、絶対手放したくないはず。
でも、そんな命懸けで手に入れた鎧なんかより、ここにいる奴隷達も含めた全ての人々を選んだ。
俺は初めて、本やゲームに出てくるキャラではなく、本当の勇者と言える人物に出会えた気分だった。
「……いいのか? 本当に俺、あの鎧壊すぞ? スーツの装甲にするぞ?」
最後にもう一度問いかけるが、エクレシアは迷いも見せず頷いた。
「むしろ貴方には申し訳ないって思ってるよ。この鎧が私にとって大切な物だって理解しているのに、それを承知の上で壊して貰うのだから……、本当にごめんなさい……」
笑顔を保ち続けていたエクレシアだったけど、耐えきれなくなったのか笑顔が崩れ、泣き顔で俺に謝り続けてくる。
……勇者と言えども、やっぱり女の子だよ、エクレシアは。
俺はそんな彼女に、今度はこっちから抱きしめてお互いの顔を見れないようにした。
「ツ……、ツクル?」
「泣きたかったら泣け、こうすれば顔見れないからさ。勇者でもお前は、俺好みの可愛い女の子だ。無理すんじゃねーよ」
「…………背を向ければいいじゃない。バカ……」
俺の親切を馬鹿にした後、彼女は声を上げて泣き崩れた。
俺はただ黙って、彼女が泣き止むまで静かに座り続ける。
そして俺は決意する。
必ず映像以上のロード・スレイヤーを完成させ、俺も彼女も奴隷達も(後にシバきあげるためにロリ宇宙人も含め)、誰一人死なせることなくここから脱出することを。
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