第1話

 突然だが、皆には『推し』という存在はいるだろうか。


 推しとは、一推しのキャラクターという略であり、俺達オタクにとって、推しキャラを決めるという行為は、もはや、登竜門となりつつあるのだ。


 あ、一応言っておくけど、俺はオタクだけど、アニメとかそこら辺は分からないからマジ勘弁。キャラ……というよりも、俺はその二人しか推していないし、申し訳ないが、日本のサブカルチャーにはあんまり詳しい方ではない。


『まふゆ~ん!』


『はいはい、どうしたの?』


 てぇてぇ……(吐血)。


 表情筋が緩みそうになるのを、何とか口を手で覆い隠す。こんな学校で急にスマホを見て笑うやつなんて一発で不審者案件である。


 俺が見ているのは、赤い再生ボタンがアイコンの世界的に有名な動画配信サイト。その画面の向こうでイチャついてるとあるキャラクター。


 そう、Vtuberである雪猫まふゆと、犬山こはるである。


 ニョロライブという、女性限定の事務所に所属している企業Vtuberで、なんとこの二人はVtuberになる前からの知り合いで、とっても仲良し。


 もう、その仲良し度かね………はい、もう最高なんすよ。


 上手く表せないけど……こう、ね?胸がなんかどうしようもない感情でいっぱいになってしまい、ついついこう呟いてしまうのだ。


「……はぁ、てぇてぇ……」


 とね。おっとっと……と思い、慌てて口を抑えて周りを見渡してしまう。すると、右隣にいる生徒と目が合ってしまい、慌てて目を逸らしてしまう。


 反対側にも、同じようにこちらを見てい生徒が居た。慌てて視線をそら………そらせねぇ!!


 ガタン!と腕を枕にして、顔を机とごっつんこさせる。あー、恥ずかし!


 耳に嵌めているイヤホンからは、まふゆとこはねーーー二人合わせてまふこはのてぇてぇ会話が聞こえ、両隣からは俺を挟んでくすくすと微笑みあっているそれはそれでてぇてぇ光景が広まっているのだろう。


 あ、自己紹介が送れました。


 初めまして、氷川裕翔ひかわひろとといいます。どうしようもないほどに、まふこはのカップリングが好きで、毎日100回以上てぇてぇと呟いているどうしようもない人間です。


 好きすぎて思わず二人専用の切り抜き動画を作ってしまい、投稿するほどにどうしようもない人間です。ぐう有能というコメントが嬉しい。


 この沼……深いっ!


「ひ~ろとくん!」


「っ!」


 イヤホンを抜かれ、耳元で囁くどうしようもないほどに聞き覚えのある声に思わず身を仰け反ってしまう。


「あんっ……裕翔、意外と大胆ね……」


「ヘブライ!?」


 仰け反ると、上から聞こえてくるどうしよもないほどにこれまた聞き覚えある声。後頭部にあたる柔らかい感触……っ!


 あ、ちなみに胸では無いです。お腹でした。


「裕翔くん、また私達の絡みみててぇてぇって言ってたでしょ?も~嬉しいなぁ!」


「おぶ!?ちょ!犬山さん!急に抱きつくのはやめ!!」


「ちょっと、小鞠?やめなさいよ、ほら裕翔……小鞠より私に………」


「あばばばばば……」


 え、エマージェンシーエマージェンシー!!助けて!誰か助けて!ちょっと男子たち!俺を射殺す視線してないで誰か助けてぇぇぇぇ!!!


 目の前から抱きついてるこのどことなく犬の耳としっぽが見えている女子の名前は犬山小鞠いぬやまこまり。後ろから俺の頭を抱き抱えてお腹に押し付けている、どことなく猫耳としっぽが見えている女子の名前が冬城寧々子とうじょうねねこ


 そう、なんとあの二人ーーーーVtuberの犬山こはると雪猫まふゆの所謂中の人である。




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この作品はフィクションです。実在の人物、又は団体などとは一切関係がありません。ニョロライブも実在しません。

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