ラビットの目

晴れ時々雨

🐰

物心がついたときから農場の仕事を手伝っている。僕が担当するのはここで働く仲間たちの衣類なんかを洗濯すること。土地柄のせいか、少ない晴れ間を見つけて広い農場の真ん中に洗濯した物を干すのは気持ちいい。あとは時間通りに起きて、出された食事を残さず食べ、農場で鬼ごっこをして、3日にいっぺんお風呂に入る。総勢11人いる僕らは日替わりで入浴し、水を張ったたらいの中の僕らをパピーとマミーがブラシでごしごしと擦る。少し痛いけど、2人は上手だからどこも傷ついたりしないし、体を清潔に保つと病気になりにくいから気分が乗らなくても我慢する。

僕たちは大体歳が近く、タイガーは名前の通り体も大きくて頼りになるやつだったけど、ある日突然居なくなった。

彼の特徴はオレンジ色のそばかす。背中も同じようだったのをお風呂のときに見たことがある。彼はそばかすを太陽の光の足跡だと言った。そんな彼が好きだった。彼に与えられる食事はとても豪華で、僕が数える程しか食べたことのないチーズを毎食食べていて少し羨ましかった。でも僕のブルーベリーを彼は欲しがるから、テーブルクロスの下でみんなに内緒でチーズと交換したこともあった。あれは格別だったなあ。

それに比べ僕の食事は鳥の餌みたいな物ばかりで、毎食5粒出されるブルーベリーの独特の風味が頭痛を促すようになって最近は食べるのが苦痛なんだけどそんなことは誰にも言えない。

長いテーブルにずらりと並べられた様々な食べ物。少なめの肉や魚と色とりどりの野菜をすり潰したジュースかスープ。

まだ小さいスネークとリザードがパピーとマミーの助手として食事係を担当していた。洗い物と掃除は女の子のラットが担っていて、彼女は一番年上だということもあり仕事が上手く、優しかったのでみんなの人気者だったけれど太っていることをマミーに咎められているのを僕は見てしまったことがある。何故だろう、ふくふくしてとてもかわいいのに。

タイガーが買い出しに行ったのだとばかり思っていた僕は、3日経っても戻らない彼のことをパピーに尋ねると、パピーは事も無げにタイガーはもう帰らないとみんなに告げた。

リザードは意味が飲み込めていないようだったし、スネークは羨ましがって拗ねていた。

僕はその夜石を食べたようにお腹が重くなり、眠れずにトイレでこっそり吐いてしまった。本当は体調がおかしい時は申告しなきゃいけないんだけどしなかった。タイガーに何か言わなければならない言葉があったはずなのにどうしても思い出せなくて、苦しくて仕方なかったけど誰にも言わなかった。

ここへ訪れる大人がたまにいて、農場、と呟いて小さく笑う。

僕は洗濯係だけど絶対に陽に当たってはいけないと、年がら年中頭巾を被っている。ここいら辺は曇ってばかりだ。僕はサングラス越しに朧な太陽を見つめ、タイガーのそばかすを思い出した。

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ラビットの目 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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