タン・ペン・シュー
七橋
第1話 影は東にしか伸びない
三題噺:お嬢様言葉・恋人つなぎ・教室
「落ち着いて。そっと、深呼吸」
教室に差す西日が窓際の二つの影を浮かべる。
僅かな息遣いすら逃さない至近距離をゼロにして、影と影はその境界を溶かし融かす。
「感じるでしょう。小指、薬指、中指、人差し指、親指……手のひら」
「おねえ、さま……」
「ええそう、お姉さま。でも今は、貴女ひとりだけのお姉さまですのよ」
ぴたりと密着した指々が、それでも僅かに残った隙間さえ埋めるのを望むように絡み合う。他者への怯えをごまかすような柔さを、互いを求める思いが縛り抱きとめ圧迫する。
「えぇ、えぇ、そう。いい子ですわね」
蕩けきった影はいつのまにか扉の外にまで届いていた。無粋な視線を遮る扉は閉じ切られず、わずかな隙間から影の線が細く漏れている。
その影に、お姉さまの余りものに、わたしはわたしの手を伸ばす。
「お姉さま」
教室の外まで聞こえるほど息を乱した二人にわたしの呼び声が届くことはない。
いまのお姉さまは、あの子だけのお姉さまだから。
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