お父さん!!
ドコドコドコドコ・・・ドン!
アリーナの入り口から太鼓の音がする。
わたしと目が合ったのは、ハチマキを頭の傍で締めたお父さんだった。
「望美、応援に来たぞ!」
「「「押忍!!!」」」
航空自衛隊所属のお父さんが部下を引き連れてやってきた。なぜか全員学ランだ。来なくていいのに・・・。
「お、お父さん・・・いいんだよ?もうゲームは第4クォーターだし・・・目立つからあんまり出てこなくて大丈夫だよ?」
「炊き出しは足りているのか?」
「食品衛生上、あんまりよろしくないんじやない?いくらラップで包んでたとしても・・・」
「腋おにぎりがそんなに不評だったのか?」
お父さんが物凄く悲しい顔をしたけど、わたしは騙されない。
お父さんの部下の人たち、マッチョでみんな良い人なんだけど、腋の下でおにぎりを握る習性がある。習性だから止められない。
衛生上問題になりそうだから、お母さんが先回りして大量のお弁当を作ったりして全力で止めている。
なんなんだろう?亜香里の親衛隊の人たちよりタチが悪い気がする。大人がやってるからなおさら止められないんだ。頭硬すぎでしょ?
「お父さん。炊き出しは間に合ってます。そういうのは陸上自衛隊に任せた方がいいんじゃない?」
「お父さんはな、みんなの役に立ちたくて・・・」
しょげてる顔のお父さんは凄まじい悔しさと涙を滲ませる。だけど、ここでOKを出してしまうとお母さんの苦労が水の泡になってしまう。
腋の下おにぎりで炊き出し、食中毒!
とかになったら嫌でしょ?しかも航空自衛隊だよ?花形なのに、なんでせっせと汗かこうとするのかな。
「太鼓は良いけど、炊き出しはいらないよ。わたし、頑張ったもん」
「望美ががんばっちゃったかぁ。そっか。お父さんの出る幕は無いかぁ!」
太鼓の鉢できりたんぽ作るのは100歩譲って良いと思うよ?でもさ、腋おにぎりはダメでしょ。
「お父さん?おにぎりはダメ。パンとかうどんだったらいいよ?」
「腋パン?腋パンならいいのか?」
「腋から離れてよ!」
「しかしだなぁ。あの炊き立てご飯の熱さが腋にクるんだ」
この男どもはなんなんだろう?目をギラつかせて。応援したいんじゃなくて、筋トレがしたいの?腋を温めたいの?
ムワッとくる霧吹き状の汗。ただでさえ、わたしの料理でみんながミストシャワーを噴射しているのに。湿度が高いよ!
これは別の問題が発生してしまうなぁ。わたしと亜香里が試合に出ていたら、この人たちは間違いなく炊き出しをしちゃうよ。
「お願いだから応援しかしないで。わたしのお弁当食べさせてあげるから、問題起こさないでね?」
「「「押忍!!!」」」
いつもお母さんの弁当を食べている航空自衛隊の方たちが、わたしの言うことをきいちゃう。
「娘さんの弁当食べたいです!」
「わたしも娘氏の弁当をいただきたい・・・」
「わたし、女だけど料理できなくて・・・いつも助かってるよ・・・」
あっ!女性がいる!ついに航空自衛隊にも女性がっ!みんな学ラン着てるから紛らわしいよ。
「あの、すみません。この男の人たち暴走するんで止めてくれませんか?」
「あはは・・・善処するね?」
いざとなったらこの人が全力で止めてくれるだろうと思う。お父さんの上司も馬鹿じゃなくて良かった。ちゃんと止める役目の候補の人いれてくれたんだ。
「みんなー!応援じゃあ!準備はいいかー!?」
お父さんが叫ぶ。
いつのまにか2階にいた応援部隊は下に降りてきて、入り口でどんちゃん騒いでいる。
「全員、止まって!!」
ピタッ。
「はやとをちゃんと、応援できる人だけ来て!」
この発言は、ダメだってわかってる。
ほんとは、チームのために。チームを応援しなきゃいけないのはわかってる。
でも、あえて言いたかったんだ。
だって、はやとがリーダーだもん!頑張って欲しいし、はやとが復活しないと勝てない。
「颯人がポンコツじゃあ勝てないんだ!応援するぞ!」
薫くんの声。
「もう一度、輝いてる水谷くんが見たい。そうでしょう!?」
優子の声。
「弱小だとはもう言いたく無い。みんなだって、そうだろう?」
横山先生!?
「お願いだ。彼にはこんなところで終わってほしくない。だから、みんなで、叫べ!!」
「「「「「ウオオオオ!!!」」」」」
地鳴りだった。
お腹の底から声を出したら、体育館が揺れた。
あはは・・・お母さん、2階の人たちに何か食べさせたでしょ?
ほんとに、お母さんには敵わない。
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