エネルギーを熱に換算
消化吸収力がどこぞのゼリーに負けない。そして塩ちゃんこの効力とは、この試合の全てに全力を注ぐことができる仕様のようだった。
得点板の横に控えているモップ係が、ワンプレーごとにゴシゴシとコートの水気を拭き取らなければならないくらいに、相当な湿度が室内を覆っていた。
その発生源はうちのチームの4人。塩ちゃんこを食べなかった志多以外の全員から、虹がかかるくらいに水蒸気が噴出している。
その雰囲気は、さながら
『むんむん男だらけ!吸って!?俺たちの塩ちゃんこブースト!!』
いかんいかん。頭がのぼせ上がっている。正常な判断ができていない。望美のおっぱいでも見て落ち着こう。
「・・・お兄?」
凍りついた亜香里さんの声。鳥肌どころではない。繋がれた手から俺の全身を凍らせる勢いの液体窒素並みの冷気がきた。
死ぬ。死ぬって。あかりさん!?
ぼふんとコート上に突き飛ばされる。
得点は動いていなくて、須藤が俺たちの異様な湿気に戸惑っているようだ。
「ちょっと君。交代するならちゃんとタイムキーパーに通して」
「志多、交代してくれ」
「このコート滑りまくって超危険だわ」
いや、そうだけどよ。バスケの試合は湿気で中止にならないだろ。やるしかないんだよ。
相手のメンツを観察する。
1人、不破だけがハイテンションになって忍者みたいな動きをしている。
床スレスレを腹這いにならない程度に走る不破は人間離れしていて正直気持ち悪い。
「仲間で食べる鍋の匂いがするぅあああ!!」
ぼっち飯よりも、みんなで食べる飯のほうが美味いもんな。不破はその香りだけを楽しんでいるのか・・・上級者すぎる。
試合終わったら、脇の下でおにぎりでも握ってやろうかな。今の不破だったら喜んで食べそうな気がする。
「上田、ボール」
「へいっ」
湯気立つチームメイトはみんなやってくれそうな雰囲気があって、誰にパスを出しても良い。
だが、俺にはやらなきゃいけないことがあった。自分自身のエネルギー発散である。
「ーーー行っとけ!」
両手打ちのシュート。コートの端から端の最長距離となるこの地点から、俺は全力でボールを解き放った。
「惜しいよ、水谷。あと5センチだ」
リングに届かない俺のシュートを、神崎が空中でキャッチ。そしてそのままダンク!
おしっ、3点差!!
「良いよ良いよ!どんどん打っちゃってよ水谷。今なら全部カバーできる!」
「うるせー!次はちゃんと決めるっつーの!」
先程までの暴発しそうだった体中のエネルギーが、少し収まった。よし、これくらいならコントロールできそうだ。
「おかえし、だっ!」
一本背負いの勢いの片手シュート。
須藤が放った遠投スーパースリーポイントはーーー。
パサァッ。
会場のやつらを黙らせるには十分だった。
「おまえら!ぼうっとしてんじゃねー!!攻めるぞ!」
「「「「おう!!」」」」
士気は十分。取られたら取り返す!!
殴り合いの試合、上等だ!
行くぞみんな!!
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