愛を込めてるんだよ!

「ここでござる!」


亜香里の親衛隊に連れてきてもらったレンタルキッチンは、ホームパーティーの一室のように煌びやかに装飾されている。


ゆったり寛げるソファーがあって・・・テレビは無いけど、完全にここ家だ!


「さぁ、時間が無いよ!どう手分けする?」


IHじゃないのが残念だけど、ガス台が4つある。


わたしは、買ってきた鍋を見て、なんとなく嫌な予感がした。


「んー、颯人がやばい?」


「いきなりどうしたの?」


「ごめん、お母さん。わたし、颯人の分だけ作る!」


「え、ええ!?」


「優子、大丈夫。愛情を込めれば何だっておいしくなるから。ね?」


「そんな、わたしなんて・・・一方的な片思いだし・・・」


「誰かのために一生懸命にやるのは、恥ずかしいことじゃないよ?」


まだ、優子は決心がついてない。優子はお母さんに任せて、わたしは自分の気持ちを颯人に伝えなくちゃ。


「ううう・・・望美みたいにできないよう」


「中華が好きな神崎くん用に色々買ってきたから大丈夫よ」


「いいんですかぁ?本当に、どれ使っても・・・」


「いいわよ。一緒に頑張りましょう?ね?」


「拙者も手伝うでござる!」


「「「お願いだから何もしないで!!」」」


「は、はひぃー・・・」


颯人、少しだけ待っててね。


わたしの全力で、颯人の力を引き出してあげる!!



ーーーーーー




「水谷、おまえは十分頑張ってる」


ベンチに俺一人座らされて、俺は下を向いたまま動けない。


今のは竜ヶ崎の声か。ハッ、気休めにもならねーよ。


「不破の匂い攻撃、止めたのは水谷だろう?それでお互い動きが悪くなったんだな」


菊池先輩の声が響く。いや、先輩、でも俺もう使い物になりませんから。早く志多と交代してくださいよ。


「先輩のゲームメイクで、俺たちは自由に好き勝手やれているんです。とても楽しくて、良い試合になってますね」


落ち着いた、上田の声だった。


「ごめん、おまえに当たって悪かった。だけど、俺はもう・・・」


「これからは、先輩の好きなようにやってください。俺はそれで負けても、悔いはないです。先輩のチームですから」


上田の言葉に、俺は顔を上げた。


座っているやつなんか誰もいない。悲壮感漂っていた俺とは対照的に、俺のチームのやつはみんな、笑顔だった。


「さっきの不破の攻撃の時、助かったよ。今度は、僕たちが水谷の好きなようにさせてあげる番だ」


神崎に、右肩をポン、と叩かれる。


続いて上田、菊池先輩、竜ヶ崎、志多が俺の右肩に手を重ねていく。


「逃げるなよ。君がガードだ。このチームの要なんだ。上田はシュート専門のポイントゲッター。僕はフォワード。菊池と神崎くんはセンターだ。・・・誰一人として欠けてはならない、良いチームだろう?もう一度、力を合わせよう」


竜ヶ崎がスラスラと部長っぽいセリフを言う。腐っても元部長かよ。


「と言っても、僕に打開策が浮かんだわけじゃない。冷静になってくれたなら、教えてくれ。君のゲームプランを」


「・・・みんな、勝ちたいか?」


俺は今一度、みんなに問いかけた。返ってきた言葉は、予想通りだ。


「ここまで来て、負けるとかあります?」

「今現在勝ってるのに弱気かい?」


上田は余裕の表情。竜ヶ崎はさらに俺を煽ってくる。


「ここはトライだろう!ラグビー的なトライじゃなくて、挑戦の意味で、だ!」

「勝ちたいけど、なんか水谷企んでない?嫌な予感がするよ・・・」


菊池先輩は相変わらず気迫が溢れている。神崎の予想は・・・当たりだ。


「みんな、今からめちゃくちゃ走ってもらう。第3クォーターは、それで乗り切る」


スタミナ無視。最終クォーターを考えずに全力を出し切る。


それが今の俺らに残された、唯一の勝ちへの道筋だった。

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