割り切りが早い須藤


「聞こえてるっつーの」


「あん?何の話だ?」


亜香里がわざと、上田の名前を呼んで遊んでやがる。


澄ました顔して、嫉妬して?みたいな顔をしないでほしい。上田も困ってるじゃねーか。別に上田に対して個人的な恨みなど一切無いのだが、亜香里を自分の彼女として意識してるから、嫉妬してしまう。


難儀だ。別に周りに迷惑かけたくないのにさ。


「なぁ、おまえには彼女いないのか?」


「こんな時にオンナの話だぁ?随分とナメてくれるじゃねーか」


第二クォーター開始直後、俺は須藤のドライブを一度止めていた。一歩先回りしてオフェンスチャージをもらえたのだ。


それからは、あからさまに須藤にパスが来なくなった。地力では向こうのチームのほうが上だから、須藤に頼ることを諦めたらしい。


ハーフコートライン上でふらふらと歩いているこいつを無視してもいいのだが、隙あれば俺を振り切ってパスを受けようと狙っている感じだ。だから、俺も迂闊に動けない。こいつにはスリーポイントシュートもあるから、距離を空けることができない。


結果、ディフェンスしてる間は須藤と睨み合いをする感じになる。だんだん、須藤の機嫌が悪くなっているのを見てるのも飽きてきて、ついつい言葉を交わしてしまうのだ。


「おまえ、モテるんだろ?」


須藤がそれっぽいことを言ってたのを思い出して、聞いてみた。


「女の数でマウント取ろうとしてんのかぁ?ひゃっひゃっひゃっ。俺の女は12人。参考になったか?」


「12人・・・」


参考にならねぇ。12人で日替わり彼女やっても一週間以上会えないじゃねーか!


と、相手のガードにシュートを決められてしまったみたいだ。志多よ、もっと激しく詰めないとダメだぞ?


さて、ここからが問題だ。


現状、俺は1対1なら、須藤に勝てる。だが、それは味方の誰かからボールをもらえればの話だ。


須藤は俺の能力を理解した上で、俺にボールを持たせない作戦に切り替えてきたのだ。


ボールを持たせないように追いかけ回すことをベタ付きという。


普通は体力的な面で、ここぞという時にしかベタ付きはしないのだが、こいつは自分の判断で俺に勝てる方法に切り替えてきた。


須藤自身の自尊心を傷つけられるだろうに。須藤の勝つために割り切れるところはちょっと手強いなと思う。


ボールを運ぶのが志多の役目になるのだが、こいつはまだ試合に入り切れていないというか、役に立とうとして空回りしてる感じがする。


危なっかしい。志多がドライブしながらもがいているのを見て、俺は志多から手渡しでパスをもらおうと近づいてしまう。


だが、それこそが須藤の思うツボだった。


俺と志多の直線上に常に立つ須藤は、志多が俺への視線を切った途端に志多に襲いかかった。


「ばっかやろっ!!」


志多はあっさりボールを須藤に取られる。いくら俺でも全力ドリブルの須藤に後ろから追いつくことはできない。


そのままレイアップを決められた。


25対26。逆転されている。


「ひゃっひゃっひゃっ!子守は大変だなぁ?」


「どういう意味だよ」


「レベルが低いやつがチームにいると、つまんねーって言ってんだよぉ?」


志多のことか。このレベルでやれるガードが俺しかいないってヤバいよな。


上田が戻ってきても状況は変えられそうにない。どうする?


「お困りかい?」


「竜ヶ崎、おまえなんか策あるか?ボールが運べねぇ」


「うちには空中戦に強い男が3人もいるじゃないか」


3人?は?神崎以外、誰?


俺が惚けていると、竜ヶ崎から適当すぎるロングパス。


神崎は反応できてない。取れそうなのに、諦めてる感じだ。まだ自分のジャンプであそこまで届くってわかっていない感じ。


その後ろから跳び上がったのは・・・え?菊池先輩!?




「俺は本当は、ラグビーがやりたああああい!!」


謎の咆哮と共に、菊池先輩がボールをキャッチする。


「菊池は中学までラグビー部だから、近くにポールがあれば取ってきてくれるよ。出されるパスもヘタクソなほうが燃えるらしい。菊池を使いたいのなら、わざとヘタクソなパスを出すんだね」


「菊池先輩は、ルーズボールだけに強いセンターってことか?」


「そういうこと。ほら、助けに行くよ」


まじかよ!菊池先輩がラグビーやってたなんて知らなかったわ。


熱くなりすぎてトラベリング(ボール持ったまま3歩以上歩く反則)はしないでくださいね!

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